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第一章

この世の地獄

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 着弾、周囲に粘性の油が飛び散り、業火となる。
 収まったと思った瞬間、そこから新たな砲閃華が生え、今度は至近に向け種を放出。更に……。
 終わりなき炎の地獄へと私兵団は叩き込まれる事になった。

 「熱い、熱い!!」
 「くそ、駄目だ。水で火が消えねえ!どうなってんだ!!」

 この世界では未だ水をかけて消えない火、というものは一般的なものではない。しかし、この世界には魔法という通常ではありえない現象を引き起こす手段がある。結果、自然と彼らの考えは「魔法の火」という考えに行きつく。

 「魔法使い!火を消してくれ!!」
 「無茶を言うな!!これだけの火、どれだけ魔力が必要だと思うんだ!!」

 魔法使いは私兵団にもいた。
 ただし、周囲は既に火で囲まれており、この火を全て消せ、というのは確かに無理があるとは誰もが理解出来た。

 「じゃあ、どうすんだよ!」
 「逃げるんだよ!急げ!!」
 「どっちに!?」
 「騎士団の方だろ!!」
 「どっちなんだよ!!」

 周囲は炎と煙に囲まれ、しかも夜の闇が合わさり、視界がまともに効かない。こうなると、どちらに逃げればいいのかももう分からない。あっちだ、こっちだと声が響き、混乱は更に加速する。こうなってしまえば貴族も傭兵も関係ない。誰もが死にたくないと逃げ惑う。
 
 「どけ!邪魔だ!!」
 「きっ、貴様!私を誰だと!!」
 「知らねえよ!!早く逃げねえと死ぬぞ!!」

 そこにあるのは死にたくない、という一心。
 この惨状を真っ先に把握したのは炎の外にいた騎士団だった。

 「敵襲だっ!!」
 「私兵団の所が炎に包まれているぞ!!」
 
 急ぎ駆けつけた騎士達はまず水をかけたが、かえって火は広がった。
 そこで即座に方針を変更、土をかけるよう指示が為されたのは経験豊富な騎士団らしい迅速な行動だったが……。

 「駄目だ!!土がうまく掘れん!!」
 「くそっ!!水がしみ込んでて……」

 水を含んだ土は泥となり、より重量を増す。おまけに粘ついて掘りづらい。おまけに範囲が広すぎて、対処は困難だった。水なら幾らでもあるが、土はまず掘らないといけない。そして、明らかに火が広がる速度の方が圧倒的に早かった。

 「やむをえん!魔法による消火を許可する!!」

 魔法を過度に使用した場合、消耗が激しい。
 この場合、翌日の森への侵攻を取りやめるという事でもあったが、即座に騎士団の魔法使い達は動いた。

 「私兵団への道を確保するんだ!!」
 「全部を消そうなんて考えるなっ!!脱出路の確保が最優先だ!!」

 絶え間なく指示が飛ぶ。
 その指示によって統一された動きで炎に道を穿ってゆく。
 そうして私兵団への道が確保されだしたが……それは同時に私兵団の脱出し損ねた者との遭遇でもあった。そうした者はいずれも自分自身が新たな燃える燃料となっていた。人の燃える臭いを嗅いで、吐き気をもよおす騎士も多数いた。
 無理もない。普通、人が燃える臭いなんて嗅ぐ機会がある訳がない。
 それでも救助を行おうとするが、ここで問題になったのが声だった。なにせ、周囲は煙だらけでこちらが下手に声を出せば、喉を傷める有様。
 悲鳴と怒号がここまで響き、届いているか、私兵団が騎士団の救援だと理解出来るかも分からない。

 そんな中だからか。
 侵入者がいる事に誰も気づく余裕がある者はいなかった。
 
 
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