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第一章

戦の気配

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 エルフの部隊を構築し、鍛えつつ、周囲へと協力の話を持って行かせる。

 「別に協力してくれんでもいいさ。それが事が終わった後、奴らを叩く理由に出来る」

 そう身内だけの時にティグレさんは語ってくれた。
 それに躊躇なく頷けたのは何故だったのか……。
 ゴーレムの軍勢を整え、カノンが偵察を続け、あの三番勝負からおおよそ一月半後、遂にその報告は届いた。

 「来たそうだ」
 
 エルフの長、長の息子を含めた会議でティグレさんがそう口を開いた事で、一同の顔が険しいものになった。

 「まず、説明しよウ」

 カノンがそう口を開くと説明してゆく。
 人族によって構成される敵軍はここよりもっとも近い城塞都市、その外に幕舎を張り、休息を取っている。
 
 「数は一万はいるだろうナ」

 一万……!
 エルフ達がざわつく。
 こちらの総兵力はゴーレムを除けば二百。若者達はティグレさんが直々に鍛え上げて、何とか形になってきているがそれ以外は本来は狩人だ。それに、若い者達を鍛えているのは彼ら将来、士官として将来軍の中核となってもらう為だ。こんな所で消耗するにはもったいなさすぎる。
 だとすれば、真正面から戦うのはなしだな。

 「ただ、少し連中変わっていてナ。軍勢が半々に別れていル」
 「半々?別の指揮官が率いているって事か?」
 「そうとも言えし、違うとも言えル」

 謎かけのようなカノンの言葉だが、別段隠す気もなかったようで、すんなりと話してくれた。
 半分の軍勢は統一された装備と規律を持って行動している。おそらくは正規の騎士団。
 これに対して、残り半数は統一感がない。
 兵士達の装備もバラバラだし、指揮官の幕舎がこれ、という感じもない。小規模な部隊が集まって、一つの集団を形作っているという。
 
 「貴族達の私兵って奴かね?」
 「可能性は高いネ」

 ふうん。
 だとしたら、規律は期待出来ないな。
 と、同時に指揮官が何人もいる上、統一された指揮系統もあるかどうか怪しい……となれば。

 「叩くとしたらそっちか」
 「そうだな」
 「だと思うヨ」

 こちらの呟きにティグレさんとカノンも賛成、と。
 分かってない様子のエルフさん達にも理由を説明しておく。指揮系統にまとまりのない数千の集団ともなれば、攻撃する時は勢いに任せて突っ込んでくるだろう。自分達が数が多いと思っているのなら尚更。
 しかし、攻撃を受けた時は脆い。と、同時にしぶとい。

 「集まった所で誰が指揮を執るのか、誰に従えばいいのかさえ分からんだろうからな。好き勝手に戦うか……さっさと逃げるかだろうよ」

 金で雇われただけの者ならなおさらだ。
 
 「それをお前達は知ってるはずだ」
 「はい」

 ティグレさんの言葉に頷いたのは長の息子達だった。
 彼らはどれだけ指揮系統というものが大事か、命令に従う、それがどれだけ難しいかを知っている。ただ単に「ああしろ、こうしろ」という指示に従うだけなら誰でも出来るが、誰に指示に従えばいいのかはまた別問題。ある者が右方向に槍を構えろ!と命じ、別の者が左に槍を構えろ!と同時に叫んだら……さて、どっちに従う?
 だから、指揮官は目立つよう、誰に従えばいいのか分かりやすいよう色々な装飾を施す。鎧を派手な色にしたり、兜に特徴的な飾りをつけたり、時代が過ぎればモールや金の縁飾りをつけたりと色々だ。
 
 「でも、そんなの一部の者達しかしてなかったけどネ」
 「だろうな。貴族の子供、って奴だろうが貴族だってピンキリだ。裕福な奴もいれば貧しい奴だっている。そうなりゃ……余計に奴らは誰に従っていいか分からなくなる」

 なにせ、金のある子爵家の子供が綺麗に着飾ってて、横にいる侯爵家の子供がそこそこの服かもしれない。
 金のあるなしでは前者だろうが、宮廷では後者が上かもしれない。

 「そして、騎士団って奴はバックに貴族が多数いる貴族の子供達を見捨てる訳にはいかねえ。見捨てたら、どんな報復受けるか分からねえからな……」

 無理をしてでも、連中は貴族達を助けるだろう。
 
 「そこに付け目がある。さあ、奴らの首を頂く為に策を練ろうか」
  
 
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