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第一章

チート三本勝負、二本目【カノン】

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 「カカ!さて、私の相手は君カ」
 「どうも」

 直立した鳥人間であるカノンの姿はエルフ一般的な感覚からすれば少々異様だった。この世界にも鳥の獣人はいるが、彼らはあくまで人に翼や羽根が生えている、といった外見であり、カノンのような姿をした相手がいたとしたらモンスターの類だろう。
 実際、カノンの本性はモンスター、その最高峰の一角な訳だから間違ってはいないが。
 もっとも、今回の場合はその服装にも理由がある。カノンの纏う礼服などこんな森の中に住んでいるエルフ達には見た事のない服装だからだ。
 
 「さて、私はあまり近距離戦が得意ではなくてネ。その武器から察するに君は得意なのだろウ?」
 「ええ、まあ」

 よく使いこまれた大剣。
 小柄ながら、少年エルフの動きに、その大きさに振り回されるとか重さに耐えているという印象はない。

 「ぼく、あまり飛び道具系の魔法が得意じゃないんですよ。でも、身体強化の魔法は得意なので……」
 「おいおイ。自分の得手不得手をこれから対戦する相手に語るものじゃないヨ?」
 「あ!す、すいません!」
 「なに、そう言いつつ私も言ってしまうのだから気にしなくていいヨ!私は遠距離戦が得意なんダ」

 カカカ、と嗤うカノンにどう反応していいか分からず困った様子を浮かべた。
 傍から見れば、どう見てもカノンが悪役、少年エルフが邪悪に挑む勇者というキャスティングにしか見えまい。実際、カノンの体から何か黒いオーラのようなものが出ているようにも見える。

 「【黒き風の守護】……さて、これでその剣で思い切り殴った所で私が死ぬ事はなイ。思い切りきたまエ!」
 「……分かりました。では!」
 
 少年エルフが剣を構え直す。
 アニメや映画ならチャキッと音が鳴る場面だが、現実には鳴らない。何かに当たった訳でもないのに、そんな音がしたらどこか剣に緩みがあるという事で、最悪戦ってる最中に剣が分解する。故にただ静かに剣を肩に担ぐように構え直すだけで終わる。
 
 「ではッ!」
 「いざ尋常二!」

 「「勝負ッ!!」」

 その声を合図に少年エルフが一気に駆け出す!
 
 「だが、断ル!」
 「うえっ!?」

 思わず少年エルフが戸惑いの声を上げるが、カノンのそれはあくまで戦いを止めるという事ではなく、近接される事を拒絶するという事だったらしく、巻き起こった風が少年エルフを押し戻そうと襲い掛かり!

 「せいああっ!!」

 剣に切り裂かれた。

 「ほウ!剣に魔力を纏わせ、魔法そのものを切り裂くかネ!良きかな、良きかナ!」

 風を切り裂いた少年エルフはそのまま近づくと振り上げた剣を。

 「だが、それではまだ足りないなア!!」

 全方位、無差別に放たれた風に今度こそ剣ごと吹き飛ばされた。それでも、剣を離す事なく、身体を捻って見事に着地したのはさすがというべきか。
 しかし、それでは当然体勢は崩れる。

 「そうら、次がいくゾ!!受け取りたまエ!」

 風の攻撃の厄介な所は速度ではない。見えない事にある。
 反面、本来その攻撃は軽い。質量がない分、どうしても一撃一撃の重みには欠ける、というのが本来の形のはずなのだが。

 「いっ、ぐっ、くああああっ!!」
 「そら、そら、そラ!どうしタ!?来たまエ!!来れるのならバ!!」

 可視化された幾本もの風の刃が甚振るように少年エルフに放たれる。
 巧妙、といって良いのかは分からないが、そのいずれもが必死に体を動かせばギリギリで攻撃を防げるレベルに留められている。ガン!ガン!ガン!と周囲に金属同士が叩きつけられ合うような轟音が響く。
 北欧神話に曰く、フレースヴェルグは全ての風の源、風はフレースヴェルグより生まれるという。すなわち、哄笑もまた風を生み、持ち上げた腕がまた風を生む、行動自体が、いや存在する時点で風がカノンを守り、攻撃の刃となる。少年エルフは風によって左右に振られ、浮き上がり、叩きつけられ、それでも必死に防ぎ続けて。

 「そラ!そラ!そラ!ほうら、疲れたかイ!じゃあもう終わりにしよう…」
 「なにやってやがんだてめえわああああああ!!!!」
 「…カッ!?」

 そんな舞台は側面から轟音と共に飛来した拳大の石がカノンの頭部にクリーンヒットした事で終わりを告げた。
 普通、そんなものがぶつかったら、軽く飛んできたものでも下手すれば命に関わる。ましてや、それが剛速球で飛んで来たら……思わず青くなる周囲だったが、直後にバタリと倒れたカノンは何もなかったかのように跳ね起きた。

 「むう、何をするのかネ、ティグレ君」
 「何じゃねーよ!これは模擬戦!!殺す気かてめええ!!見ろ、周囲ドン引きじゃねえか!!」
 「ム?おお、そうだっタ!すっかり忘れていたヨ!!」

 いや、失敗失敗と手を打ったカノンは唖然としていた少年エルフににこやかに告げた。

 「いや、すまなかったネ。つい我を忘れていたヨ。今回は我が輩の負けという事で許して欲しイ」

 そう言いつつ、立ち去るカノンの背中を苛立った様子で睨んでいたティグレだったが、ふと真顔になって呟いた。

 「……あいつ、自分の事を『我が輩』だなんて言った事あったか……?」  

 
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