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第一章

名前変えとその事情

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 「名前、ですか?」

 猫子猫さんの言葉には首を傾げた。

 「ああ。まず、本名は駄目。これは分かるよな?」

 それは分かる。
 自分達は皆リアルでも友人だから名前を知っているけれど、猫子猫さんのリアルは知らない。
 教えてもいいような気もするが、これから自分達は知らない相手と一緒に行動せざるをえない状況だ。本名は口にしない方がいい。

 「そうなると、ゲームでのハンドルネームになると思うんだが……お前ら、自分のHN言ってみ?」
 「常葉です」
 「カモネギ」
 「えーっと、アーレスハイド……るくれ……ごめん、ステータス画面見れないから忘れた!」
 「咲夜です」
 「マリア」
 「マッチョ・ゴンザレス!」
 「うん、常葉や咲夜、マリアはいいだろ。でもな……これからそうだな最低一年、場合によってはもっと長い間カモネギさんとか、マッチョ・ゴンザレスさんとか呼ばれ続けたらどうよ?俺だって、ずうっと猫子猫なんて呼ばれるんだぞ」

 少しその場面を想像してみた。

 「……忘れた翡翠は論外として、考えましょうか、名前」
 「「「「「異議なし」」」」」

 という訳で考えた。
 俺はそのまま常葉とこは
 陽奈ひなちゃんと摩莉夜まりやちゃんもそのまま咲夜とマリア。
 他四人が変える事になったが、それぞれ悩みに悩んでいた。散々に悩んで出した結論は……。

 「じゃあ、俺はティグレでいくわ」
 「僕はカノン・フォーゲルにしとくよ」
 「私はくれない!」
 「ユウナで」

 翡翠はゲームの名前での反省から自分の名前同様、色の名前で、短いものを選んだ。
 香香ちゃんは自身の今の姿が熊の魔物な事から、熊の別の呼び方である「ゆう」に一字適当にくっつけたらしい。
 
 「じゃあ、変えてないのは自分の常葉、それから咲夜、マリアの三人。変えた人は猫子猫さんがティグレに、カモネギがカノン・フォーゲル、名称不明が紅、マッチョ・ゴンザレスがユウナだな?」

 翡翠の「名称不明」で皆の顔が一瞬笑いかけ、香香ちゃんのマッチョ・ゴンザレスで一部噴き出してたがこれは仕方ない。
 この中では笠斗のみ家名っぽい名前がついてるが、これは名前の由来がカノ―ネンフォーゲル、大砲鳥という愛称を持つ航空機だからだ。
 猫子猫さんが自分が虎だからとスペイン語で虎を意味するティグレを選んだ時、笠斗が「鳥は何て言う呼び方なんですか?」と質問したのがきっかけだった。しかし、猫子猫さんも虎は色々他の呼び名も調べてみた事があったとかで覚えてたものの、スペイン語の鳥の呼び方は知らなかったのだが。

 『ドイツ語なら知ってんだがなあ、フォーゲルってんだが』
 『へえ』
 『よくご存じですね』
 『いや、たまたまちょいと有名な航空機の名前で知ってただけさ、カノ―ネンフォーゲルって機体なんだが』
 『あ、いいじゃないですか!じゃ、自分の名前はカノーネン……いや、カノン・フォーゲルで!』

 という訳だ。
 まあ、当人が気に入ってるんだからいいか。カモネギよりはずっとまともっぽい名前だし。そうして決まった名前で俺達は翌朝、改めてエルフの人達と話をしている。
 
 「では改めてお話を伺いましょう」
 「よろしく」

 という訳で、俺達の代表的な役割を担っている猫子猫さん改めティグレさんがあちらの族長さんと握手している。
 今日は他にも同じような人達がいるが、話の前に、と自己紹介してくれた所によると同盟を組んでいる近隣の部族の人達だそうだ。彼らより奥地に住むエルフの部族は未だ人族の侵攻という事への実感が湧かないせいで協力要請しても乗り気になってくれないが、近隣の部族達からすれば「明日は我が身」なのが分かりきってるからな。皆、真剣だ。

 「相手の戦力は万に迫り、こちらの数は精々二百か……」

 ティグレさんが唸り声をあげている様子にエルフの族長さん達の顔が少々強張っている。もっとも、虎がいかにも不機嫌そうに目の前で唸っている状況では仕方ないだろう。自分だって現実でそういう場面、しかも檻なんかが間になければ必死に逃げ出す方法を考えてるだろうし。
 しかし、参ったな。
 相手側の戦力は大国と呼べる規模の国が辺境伯という大貴族を援助する形で押し出してきているという。
 何故、森に籠ってたエルフ達がそんな事を知っているかと言えば、降伏要求の使者がそう言ったから。

 『辺境伯様の軍勢に国軍が加わり、我が方の軍勢は万に迫る。抵抗なぞ考えぬ方が身のためだぞ』

 と。
 この発言、随分と親切な忠告にも聞こえるが、大方こちらの総戦力が不明なのでまともに戦った時どの程度損害が出るか分からない、といった事もあるのだろう。これでこちらの参加戦力が二百だと分かってれば使者すら送らず……いや知っていても森の中という大軍を活かしづらい環境なら勧告していた可能性は高いか。
 それだけの数の差があれば最後は勝つだろう、と言っても、死ぬ奴は死ぬし、森にも損害は出る。
 無駄死にを出すのも馬鹿々々しいし、森の被害が出た場所が貴重な薬草の生える場所だという可能性だってある。そうした事を除いても森の木々というのは材木に出来るから、今後開拓村を作る際に材料となるだろうし、また各種の木の実や茸といった森の恵みは決して無視出来る要因じゃない。降伏勧告一つでそれらが無傷で手に入る可能性があるなら、それぐらいやるだろう。

 「うーん、そうなるとある程度こちらで戦力を調達するしかねえか」
 「ちょ、調達と言われましてもどうやって?」

 ……エルフの人達、本当に腰が低いな。
 これは俺達を呼び出したエルフの族長さん達だけじゃなく、他のエルフの人達も同様だ。
 エルフというと何というか気位が高いというかそういうイメージがあるんだが、そこら辺も後で聞いておいた方が良さそうだな。下手に目の前の人達と同じ対応して、他のエルフ達を怒らせるというのも何だし。もっとも最終的には怒らせる事にならざるをえないとは思ってるんだが。
 これも夕べ話し合った事だが、結局はこの森のエルフ達が協力する体制作らないと話にならないんだ。俺達は結局は余所から来た奴で、自分の住んでる所を自分で守る、自分達で統治していく。そんな気持ちを持ってもらわないとろくな未来にならない。
 
 『どうせ誰かがやってくれるさ』
 『俺達には関係ない話』

 そんな風に思っている連中が多数を占めるなら、この森の行く末は、エルフ達の未来は暗いと言わざるをえない。
 ただし、エルフ達がそう思ってるだけなら自業自得なんだが、それじゃあ俺達まで迷惑を被る事になる。人族の危機は何時まで経っても去らない、じゃあ意味がない。送還出来る、といっても俺達には儀式のやり方なんて分からないんだから彼らにやってもらわないといけないんだが、ただ追い払っただけで何時また襲撃されるか分からない、そんな状況で帰してくれる訳もないだろう。というか、俺だったら帰さない。
 つまり、俺達が無事に帰る為にはこの森に住むエルフ達にちゃんと自覚を持ってもらう必要がある訳だ。少なくとも、呼び出した目の前のエルフ達には「これなら大丈夫」と思ってもらわないとね。
 
 「常葉」
 「だろうね」

 昨晩はエルフ達が動員可能な戦力が分からなかったから、案の一つに入れるにとどめておいたんだが。
 これがせめて千も動員出来るなら、ゲリラ戦で削っていくって事も可能だったと思うんだけどな。 

 「魔法で動かすゴーレム兵を作ります」

 そうエルフ達に告げた。
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