教え子の甘い誘惑

hosimure

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ここ三ヶ月のアタシの苦労を良く知っているから、こういう顔ができるんだろうな。

…いい性格をしているよ。彼とはまた違って。

「彼だけの問題じゃないわよ。アタシや担任の先生にだって、処分は回ってくるんだから」

「指導力不足と言われても、困ることよね。教頭先生からはあたしにも声がかかっているのよ。どうにか彼を説得できないか、ってね」

「でも居場所が特定できないからねぇ。まさか授業中に探しに行くわけにもいかないし」

「校舎の中にいるのは分かっていることなんだけどね」

「ええ。アタシの次の授業には必ず出席するもの」

つまり彼はアタシの受け持つ英語だけが、問題になっている。

このままじゃ本当に進級も危うい。

「アンタも厄年なんじゃない? そろそろ担任になりたいなんて言っていた時に、問題児と当たるなんてね」

「ホント。この5年間、何とか平穏無事に過ごせてきたんだけどね」

運動も勉強のレベルもそこそこ高いこの高校は、割と大人しめの生徒が多い。

何かしら能力の高い生徒が集まるせいか、みんなもうすでに落ち着きがある。

なのに…外部生だと、そうはいかなかった。

「このままじゃ、クビも間近かな?」

「そう悲観しなさんなって。一度、彼を捕まえて、話し合ってみたら?」

「だからぁ、どこにいるのか分からないんだってば」

「バカねぇ。誰が授業中に話し合えって言ったのよ? 放課後に彼を捕まえなさいよ。HRには参加しているんでしょ?」

「でも担任の先生がもうやっているんじゃない?」

「担任とはまた別でしょう? 向こうは体育会系の男性教師だし。アンタはまだ若いから、舐められているのかもよ?」

「どーせ童顔ですよ!」

「見た目だけじゃなく、中身もかなり幼いしねぇ」

ザシュッ!と、心を切られたような痛みが胸に…。

「まっ、とりあえず。一度話し合ってみることをオススメするわ。アンタ一度も彼とまともに話していないでしょ?」

「まっまあね。じゃあ早速今日の放課後にでも、彼を捕まえてみますか」

「ええ、頑張って」

「うん」

アタシは空になったコーヒーカップを涼子に渡し、保健室を後にした。

「それじゃ、またね」

「ええ、何かあったらまた来なさい」

涼子のこういうサバサバしたところが良い。

下手に粘着質になるよりも、こういうふうに1つ1つを区切ってくれた方が、心が楽だ。

―が、アタシは甘かった。

彼女がどうしてこんなに親切(?)な助言をしてくれたのか、深読みしていなかった。

アタシが去った後、涼子はカーテンが閉まっているベッドに向かって声をかけた。


「―聞いていた通りよ、世納クン。今日の放課後は空けといてね」

シャッとカーテンが開き、問題の彼が顔を出した。

楽しそうに笑いながら。

「分かった。一度ゆっくりと話がしたかったから、ちょうど良いや。ありがとね、榊原先生」

「…あんまりあのコをイジメないであげてね。今時の教師としては珍しく、教育に情熱を燃やすタイプなんだから」

「でも最近じゃ、燃え尽きてきているよね。つまんないの」

「誰がそうしたのよ」

涼子は立ち上がり、アタシから受け取ったコーヒーカップの底で、彼の額を小突いた。

「アイタッ! …でも意外と持ったよね。オレ、1ヶ月も持たないと思っていたんだけど」

「だから頑張り屋なのよ。あたしとしては、何とか来年には担任にさせてあげたいの。あなただって、留年なんてしたくないでしょう?」

「まっ、それはそうだね。親がうるさそうだし」

彼はベッドから下りて、身支度を済ませた。

「そろそろ正面から、あの人と向き合ってみるよ」

「そうしてちょうだい」

涼子が流し場にコップを持っていく為に背を向けた時、彼はキレイな顔にゾッとするような微笑を浮かべた。

「…ちゃんとオレのこと、知ってほしいしね」

「ん? 何か言った?」

「ううん。それじゃオレ行くね。次の授業に遅れたくないから」

「はいはい」

片手をブラブラと振る涼子の姿を見て、彼は保健室を出て行った。

「さて…何から話そうかな? 楽しみだなぁ」



―そして放課後。

あらかじめ担任の先生には話を通した。

帰りのHRが終わるのを、扉の向こうで待つアタシ。

緊張するなぁ。ほとんど口きいたことないし。
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