LOVEファイト!

hosimure

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このままじゃ…名前を連呼されかねないな。

わたしはため息をついて、塀を再び飛び越えた。

「うおっ」

「わっ!」

芙蓉楓と翠麻藤矢は突然現れたわたしに、目を丸くした。

「―こんにちは。はじめまして。私立光輪学院・高等部2年の月花陽菜子です」

わたしは服装と髪を直しながら言った。

「わたしに何のご用? 美夜の人に呼び出されるいわれは無かったと思うけど…」

「アンタには無くても、俺達にはあるんだよ!」

「やめなさい、楓。すみませんね、月花さん。ちょっとお時間、よろしいですか?」

彼の案内で、街中のファーストフードに入った。

学生が多くいる中、彼等の制服は目立っていた。

…いろんな意味で。

「突然呼び出してすみません。すぐに済ませますので」

「ええ、それで内容は?」

「実はあなたの身に、危険が迫っていることをお知らせにきました」

「…はい?」

わたしはしばし考え…。

「美夜の人に、ケンカを売った覚えは無いんですけど…」

「ええ、あなたは、ね」

翠麻藤矢は意味ありげに笑った。

「あなたではなく…その、夜上正義くん絡みです」

思わぬ名前に、わたしは目を丸くした。

「彼がっ…美夜の人とトラブルでも?」

「まあそんなところです」

翠麻は苦笑いした。

「彼とボク等は古い付き合いでしてね。それで彼が今、複雑な立場にいることを知っているんです。なので彼女であるあなたにも、直接的では無いにしろ、危険があるのではと思い、忠告しに参りました」

正義くんが、美夜の人と友人だったなんて…。

…いや、でも深くは知ろうとしないことが、恋人になる為の条件だったんだ。

黙っていられても、コレは仕方無い。

わたしにだって…。

「それでですね、月花さん」

「あっ、はい」

「大変ショックを受けていらしているとは思いますが…。こちらの話をちょっと真面目に聞いてくださいますか?」

「ちゃんと真面目に聞いています!」

「あっ、すみません。そういう意味ではなく…」

「はっきり言ってやったらどうだ? 藤矢」

今まで黙っていた芙蓉が、重々しく口を開いた。

「夜上さんは今、身動きがしにくい状態なんだ。そんな中で、アンタがチョロチョロしてたら邪魔なんだよ」

「…別れろという話なら、聞かないわよ。両思いだもの。そのぐらいで揺らぐ心じゃないの」

わたしは二人の言おうとしていることを悟り、睨み付けた。

「やっぱりそう言いますか」

翠麻は予想していたという顔をした。

「まあ…ボク等も夜上クンがはじめて愛した人と別れさせることは本意ではありません。ですが今は、控えてくれませんか?」

「…会うことを?」

「できれば」

翠麻は苦笑して、肩を竦めた。

「こう言ってはなんですが、夜上クン一人ならばボク等がいますから、問題は無いに等しい。ですがあなたまでいるとなると、話は別です」

「女一人加えただけで傾くような状態ならば、わたしは正義くんの方が心配だわ」

「何だと!」

芙蓉が机を叩いて立ち上がったものだから、周囲にいた人達が一斉に沈黙し、こちらを見た。

「芙蓉、やめなさい。ボク等はあくまで説得しに来たんです。それに素直に頷かないことは、想定済みのはずです」

「だけどこのアマっ!」

「やめなさい」

あくまでも静かな翠麻の声。

芙蓉は顔を真っ赤にしながらも、再び席に座る。

「すみません、月花さん。あなたの言うことはもっともです」

翠麻は頭を下げてきた。

「ですがボク等は彼を全力で守りたいんです。余計なことには気を取られずに」

翠麻の目と言葉に、鋭さが宿った。

「ですから、お願いします。一時でいいんです。問題が解決するまで、彼には会わないでください」

そう言って翠麻は頭を下げてきて…続いて芙蓉も渋々といった表情で、頭を下げた。

「………」

わたしは黙ってケータイを握り締めた。

開けば彼の安らかな寝顔が見える。

なのに今は…遠く感じる。

「…問題が片付けば、連絡してくれる?」

わたしの声に、二人は驚いて顔を上げた。

「聞き入れて…もらえるんですか?」
「本当に一時ならね。…翠麻くん、あなたのケータイナンバー、教えて」

「はっはい! もちろん!」

翠麻の表情に喜びの色が差した。

そしてケータイナンバーを交換して、わたし達は店を出た。

「今日はお時間をとらせてしまい、本当にすみませんでした」

「…問題は一刻も早く片付ける。アンタはそれまで大人しくしててくれ」

二人はもう一度わたしに頭を下げて、街の中に歩いて行った。

わたしはふらっ…と歩き出した。

…美夜が出てくるのだから、一般人であるわたしは関わらない方が良いのだろう。

そう、わたしは一般人なんだから…。


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