6 / 18
2
しおりを挟む
このままじゃ…名前を連呼されかねないな。
わたしはため息をついて、塀を再び飛び越えた。
「うおっ」
「わっ!」
芙蓉楓と翠麻藤矢は突然現れたわたしに、目を丸くした。
「―こんにちは。はじめまして。私立光輪学院・高等部2年の月花陽菜子です」
わたしは服装と髪を直しながら言った。
「わたしに何のご用? 美夜の人に呼び出されるいわれは無かったと思うけど…」
「アンタには無くても、俺達にはあるんだよ!」
「やめなさい、楓。すみませんね、月花さん。ちょっとお時間、よろしいですか?」
彼の案内で、街中のファーストフードに入った。
学生が多くいる中、彼等の制服は目立っていた。
…いろんな意味で。
「突然呼び出してすみません。すぐに済ませますので」
「ええ、それで内容は?」
「実はあなたの身に、危険が迫っていることをお知らせにきました」
「…はい?」
わたしはしばし考え…。
「美夜の人に、ケンカを売った覚えは無いんですけど…」
「ええ、あなたは、ね」
翠麻藤矢は意味ありげに笑った。
「あなたではなく…その、夜上正義くん絡みです」
思わぬ名前に、わたしは目を丸くした。
「彼がっ…美夜の人とトラブルでも?」
「まあそんなところです」
翠麻は苦笑いした。
「彼とボク等は古い付き合いでしてね。それで彼が今、複雑な立場にいることを知っているんです。なので彼女であるあなたにも、直接的では無いにしろ、危険があるのではと思い、忠告しに参りました」
正義くんが、美夜の人と友人だったなんて…。
…いや、でも深くは知ろうとしないことが、恋人になる為の条件だったんだ。
黙っていられても、コレは仕方無い。
わたしにだって…。
「それでですね、月花さん」
「あっ、はい」
「大変ショックを受けていらしているとは思いますが…。こちらの話をちょっと真面目に聞いてくださいますか?」
「ちゃんと真面目に聞いています!」
「あっ、すみません。そういう意味ではなく…」
「はっきり言ってやったらどうだ? 藤矢」
今まで黙っていた芙蓉が、重々しく口を開いた。
「夜上さんは今、身動きがしにくい状態なんだ。そんな中で、アンタがチョロチョロしてたら邪魔なんだよ」
「…別れろという話なら、聞かないわよ。両思いだもの。そのぐらいで揺らぐ心じゃないの」
わたしは二人の言おうとしていることを悟り、睨み付けた。
「やっぱりそう言いますか」
翠麻は予想していたという顔をした。
「まあ…ボク等も夜上クンがはじめて愛した人と別れさせることは本意ではありません。ですが今は、控えてくれませんか?」
「…会うことを?」
「できれば」
翠麻は苦笑して、肩を竦めた。
「こう言ってはなんですが、夜上クン一人ならばボク等がいますから、問題は無いに等しい。ですがあなたまでいるとなると、話は別です」
「女一人加えただけで傾くような状態ならば、わたしは正義くんの方が心配だわ」
「何だと!」
芙蓉が机を叩いて立ち上がったものだから、周囲にいた人達が一斉に沈黙し、こちらを見た。
「芙蓉、やめなさい。ボク等はあくまで説得しに来たんです。それに素直に頷かないことは、想定済みのはずです」
「だけどこのアマっ!」
「やめなさい」
あくまでも静かな翠麻の声。
芙蓉は顔を真っ赤にしながらも、再び席に座る。
「すみません、月花さん。あなたの言うことはもっともです」
翠麻は頭を下げてきた。
「ですがボク等は彼を全力で守りたいんです。余計なことには気を取られずに」
翠麻の目と言葉に、鋭さが宿った。
「ですから、お願いします。一時でいいんです。問題が解決するまで、彼には会わないでください」
そう言って翠麻は頭を下げてきて…続いて芙蓉も渋々といった表情で、頭を下げた。
「………」
わたしは黙ってケータイを握り締めた。
開けば彼の安らかな寝顔が見える。
なのに今は…遠く感じる。
「…問題が片付けば、連絡してくれる?」
わたしの声に、二人は驚いて顔を上げた。
「聞き入れて…もらえるんですか?」
「本当に一時ならね。…翠麻くん、あなたのケータイナンバー、教えて」
「はっはい! もちろん!」
翠麻の表情に喜びの色が差した。
そしてケータイナンバーを交換して、わたし達は店を出た。
「今日はお時間をとらせてしまい、本当にすみませんでした」
「…問題は一刻も早く片付ける。アンタはそれまで大人しくしててくれ」
二人はもう一度わたしに頭を下げて、街の中に歩いて行った。
わたしはふらっ…と歩き出した。
…美夜が出てくるのだから、一般人であるわたしは関わらない方が良いのだろう。
そう、わたしは一般人なんだから…。
わたしはため息をついて、塀を再び飛び越えた。
「うおっ」
「わっ!」
芙蓉楓と翠麻藤矢は突然現れたわたしに、目を丸くした。
「―こんにちは。はじめまして。私立光輪学院・高等部2年の月花陽菜子です」
わたしは服装と髪を直しながら言った。
「わたしに何のご用? 美夜の人に呼び出されるいわれは無かったと思うけど…」
「アンタには無くても、俺達にはあるんだよ!」
「やめなさい、楓。すみませんね、月花さん。ちょっとお時間、よろしいですか?」
彼の案内で、街中のファーストフードに入った。
学生が多くいる中、彼等の制服は目立っていた。
…いろんな意味で。
「突然呼び出してすみません。すぐに済ませますので」
「ええ、それで内容は?」
「実はあなたの身に、危険が迫っていることをお知らせにきました」
「…はい?」
わたしはしばし考え…。
「美夜の人に、ケンカを売った覚えは無いんですけど…」
「ええ、あなたは、ね」
翠麻藤矢は意味ありげに笑った。
「あなたではなく…その、夜上正義くん絡みです」
思わぬ名前に、わたしは目を丸くした。
「彼がっ…美夜の人とトラブルでも?」
「まあそんなところです」
翠麻は苦笑いした。
「彼とボク等は古い付き合いでしてね。それで彼が今、複雑な立場にいることを知っているんです。なので彼女であるあなたにも、直接的では無いにしろ、危険があるのではと思い、忠告しに参りました」
正義くんが、美夜の人と友人だったなんて…。
…いや、でも深くは知ろうとしないことが、恋人になる為の条件だったんだ。
黙っていられても、コレは仕方無い。
わたしにだって…。
「それでですね、月花さん」
「あっ、はい」
「大変ショックを受けていらしているとは思いますが…。こちらの話をちょっと真面目に聞いてくださいますか?」
「ちゃんと真面目に聞いています!」
「あっ、すみません。そういう意味ではなく…」
「はっきり言ってやったらどうだ? 藤矢」
今まで黙っていた芙蓉が、重々しく口を開いた。
「夜上さんは今、身動きがしにくい状態なんだ。そんな中で、アンタがチョロチョロしてたら邪魔なんだよ」
「…別れろという話なら、聞かないわよ。両思いだもの。そのぐらいで揺らぐ心じゃないの」
わたしは二人の言おうとしていることを悟り、睨み付けた。
「やっぱりそう言いますか」
翠麻は予想していたという顔をした。
「まあ…ボク等も夜上クンがはじめて愛した人と別れさせることは本意ではありません。ですが今は、控えてくれませんか?」
「…会うことを?」
「できれば」
翠麻は苦笑して、肩を竦めた。
「こう言ってはなんですが、夜上クン一人ならばボク等がいますから、問題は無いに等しい。ですがあなたまでいるとなると、話は別です」
「女一人加えただけで傾くような状態ならば、わたしは正義くんの方が心配だわ」
「何だと!」
芙蓉が机を叩いて立ち上がったものだから、周囲にいた人達が一斉に沈黙し、こちらを見た。
「芙蓉、やめなさい。ボク等はあくまで説得しに来たんです。それに素直に頷かないことは、想定済みのはずです」
「だけどこのアマっ!」
「やめなさい」
あくまでも静かな翠麻の声。
芙蓉は顔を真っ赤にしながらも、再び席に座る。
「すみません、月花さん。あなたの言うことはもっともです」
翠麻は頭を下げてきた。
「ですがボク等は彼を全力で守りたいんです。余計なことには気を取られずに」
翠麻の目と言葉に、鋭さが宿った。
「ですから、お願いします。一時でいいんです。問題が解決するまで、彼には会わないでください」
そう言って翠麻は頭を下げてきて…続いて芙蓉も渋々といった表情で、頭を下げた。
「………」
わたしは黙ってケータイを握り締めた。
開けば彼の安らかな寝顔が見える。
なのに今は…遠く感じる。
「…問題が片付けば、連絡してくれる?」
わたしの声に、二人は驚いて顔を上げた。
「聞き入れて…もらえるんですか?」
「本当に一時ならね。…翠麻くん、あなたのケータイナンバー、教えて」
「はっはい! もちろん!」
翠麻の表情に喜びの色が差した。
そしてケータイナンバーを交換して、わたし達は店を出た。
「今日はお時間をとらせてしまい、本当にすみませんでした」
「…問題は一刻も早く片付ける。アンタはそれまで大人しくしててくれ」
二人はもう一度わたしに頭を下げて、街の中に歩いて行った。
わたしはふらっ…と歩き出した。
…美夜が出てくるのだから、一般人であるわたしは関わらない方が良いのだろう。
そう、わたしは一般人なんだから…。
0
お気に入りに追加
25
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
隠れドS上司をうっかり襲ったら、独占愛で縛られました
加地アヤメ
恋愛
商品企画部で働く三十歳の春陽は、周囲の怒涛の結婚ラッシュに財布と心を痛める日々。結婚相手どころか何年も恋人すらいない自分は、このまま一生独り身かも――と盛大に凹んでいたある日、酔った勢いでクールな上司・千木良を押し倒してしまった!? 幸か不幸か何も覚えていない春陽に、全てなかったことにしてくれた千木良。だけど、不意打ちのように甘やかしてくる彼の思わせぶりな言動に、どうしようもなく心と体が疼いてしまい……。「どうやら私は、かなり独占欲が強い、嫉妬深い男のようだよ」クールな隠れドS上司をうっかりその気にさせてしまったアラサー女子の、甘すぎる受難!
エリート警察官の溺愛は甘く切ない
日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。
両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉
夫と息子は私が守ります!〜呪いを受けた夫とワケあり義息子を守る転生令嬢の奮闘記〜
梵天丸
恋愛
グリーン侯爵家のシャーレットは、妾の子ということで本妻の子たちとは差別化され、不遇な扱いを受けていた。
そんなシャーレットにある日、いわくつきの公爵との結婚の話が舞い込む。
実はシャーレットはバツイチで元保育士の転生令嬢だった。そしてこの物語の舞台は、彼女が愛読していた小説の世界のものだ。原作の小説には4行ほどしか登場しないシャーレットは、公爵との結婚後すぐに離婚し、出戻っていた。しかしその後、シャーレットは30歳年上のやもめ子爵に嫁がされた挙げ句、愛人に殺されるという不遇な脇役だった。
悲惨な末路を避けるためには、何としても公爵との結婚を長続きさせるしかない。
しかし、嫁いだ先の公爵家は、極寒の北国にある上、夫である公爵は魔女の呪いを受けて目が見えない。さらに公爵を始め、公爵家の人たちはシャーレットに対してよそよそしく、いかにも早く出て行って欲しいという雰囲気だった。原作のシャーレットが耐えきれずに離婚した理由が分かる。しかし、実家に戻れば、悲惨な末路が待っている。シャーレットは図々しく居座る計画を立てる。
そんなある日、シャーレットは城の中で公爵にそっくりな子どもと出会う。その子どもは、公爵のことを「お父さん」と呼んだ。

社長室の蜜月
ゆる
恋愛
内容紹介:
若き社長・西園寺蓮の秘書に抜擢された相沢結衣は、突然の異動に戸惑いながらも、彼の完璧主義に応えるため懸命に働く日々を送る。冷徹で近寄りがたい蓮のもとで奮闘する中、結衣は彼の意外な一面や、秘められた孤独を知り、次第に特別な絆を築いていく。
一方で、同期の嫉妬や社内の噂、さらには会社を揺るがす陰謀に巻き込まれる結衣。それでも、蓮との信頼関係を深めながら、二人は困難を乗り越えようとする。
仕事のパートナーから始まる二人の関係は、やがて揺るぎない愛情へと発展していく――。オフィスラブならではの緊張感と温かさ、そして心揺さぶるロマンティックな展開が詰まった、大人の純愛ストーリー。

隠れオタクの女子社員は若社長に溺愛される
永久保セツナ
恋愛
【最終話まで毎日20時更新】
「少女趣味」ならぬ「少年趣味」(プラモデルやカードゲームなど男性的な趣味)を隠して暮らしていた女子社員・能登原こずえは、ある日勤めている会社のイケメン若社長・藤井スバルに趣味がバレてしまう。
しかしそこから二人は意気投合し、やがて恋愛関係に発展する――?
肝心のターゲット層である女性に理解できるか分からない異色の女性向け恋愛小説!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる