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 光雅はハンバーガーを弁当箱へ戻し、口元を手で押さえた。考え込む仕種だ。
「ん~。つまりそれが綾の妥協案?」
「…まあそういうことだ。留年なんて厄介なこと、してほしくない」
 ついでに言えば、同じ学年にはなってほしくはない。コレは絶対にだ!
「う~ん…。一年の時間潰しがかなり問題だけど…そうだな。綾がボクの提案を一つ、受け入れてくれたら叶えてあげる」
「…光雅の提案って、何?」
 かなーりイヤ~な予感がしたが、聞かずにはいられない。
「一緒に暮らそう、綾」
 しかし照れながら言われた言葉に、オレは首を傾げた。
「今もほとんど一緒だろうが」
 オレの両親はほとんどマンションに帰ってこないし、光雅もウチに泊まることが多い。今も同居しているようなもんだ。
「それでも実家は別々だろう? 同じ所に住みたいんだ」
「大して今と変わらないだろう?」
「変わるよ! ボクと綾だけしかいない家が欲しいんだ!」
 …コイツは実の両親も邪魔なのかよ?
 オレは深く深くため息をつかずにはいられなかった。
「借りる部屋とかは?」
「ボクの方で用意するよ。大学に近い所が良いよね?」
 確かに今住んでいるマンションから、大学に通うのは不便だ。
「まあ、な。でもバイトしないと、引越し費用が…」
「それもボクの方で用意するよ。一年間、時間があるんだから」
 光雅のバイト…いや、きっとパソコンを使ってイロイロやるんだろう。モデルとかの話は山ほど来ているが、面倒だと断り続けているし。
 光雅なら、情報を金にすることができそうだ。
「あっそ…。なら大学に入ったら同居しよう。それで大人しく進級・卒業するんだな?」
「もちろん! ああ、今から楽しみだなぁ。どういう家に住もう」
 どこへ行っても、何をやっても、光雅は変わらないだろうな。相変わらずオレを好きなままで、オレを中心に生きる。
 そしてそんな光雅をオレは…。
「…ん? どうかした、綾。ニコニコしてる」
「そりゃ光雅の方だろう?」
 嬉しそうに語る光雅。こんな表情、オレだけしか知らない。そう考えると嬉しく思ってしまう。
「だって嬉しいもの。ああ、早く綾と二人だけで住みたいなぁ。大学に行く時も一緒で…本当に夢みたいだ」
 白い頬を赤く染めながら、夢見心地で話す光雅に、オレは寄り掛かった。
「綾?」
「大学受験、頑張ろうと思って。光雅と同じとこなら、かなり努力しなきゃいけないからさ」
「それならボクが勉強を教えるよ。大丈夫、必ず二人同じ所に行けるから」
 余裕の笑みを浮かべ、肩を抱き締めてくれる光雅。こういう時は、頼もしく思える。
「ああ、頼むぜ」





「って、あっという間に卒業かよ」
 桜吹雪を浴びながら、オレは卒業証書の筒を持って、学び舎を見上げた。
 光雅は約束どおり、大人しく一年前卒業した。
 その時の光景は…思い出したしたくもなかった。卒業を惜しむ生徒達や教師達の涙が雨のように流れ、声は近所迷惑だと苦情がくるほどうるさかった。
 しかし今は静かなもの。みんな寂しさはあるけれど、晴れやかな笑顔だ。さすがに進学校と名高いだけに、卒業生はみんな有名大学への進学が決まった。だから大学へ行っても、顔を合わせるヤツらは多いだろうな。
「ヤス、二年間、生徒会お疲れさん」
「本当にご苦労様だったな」
「安恵先輩、大学でもお元気で」
 同級生、担任、後輩と、次々に声をかけられる。
 結局オレは二年で会長になり、二期に渡って生徒会に所属してしまった。光雅と同じ大学へ行くには、少しでも内申書を良くしておきたかった。
「ああ、お疲れさん。みんな、元気で」
 笑顔で手を振り、校門を出た。
 はじめは通うのもイヤだったが、今では良い思い出しかないのは皮肉なもんだ。
 オレも大人になったのかな? 肩を竦めながら歩くと、目の前に見覚えのある車を見つけた。運転席に座っているのは…。
「光雅」
 スーツ姿の光雅だった。
 オレは駆け寄り、助手席に乗り込んだ。
「何だ、来てたんだ。顔を出せば良かった」
「騒がれるのは不本意だったからね。綾だって、イヤだろう?」
「まあ…な」
 未だに根強いファンがいる。光雅が少しでも顔を見せれば、卒業式はパニックになっていただろう。
「このまま新居へ向かって大丈夫だよね?」
「ああ、親は先に帰した。また後で顔を出すよう、言われたけどな」
 引っ越しは大学に受かってから、少しずつやっていた。
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