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「…ねぇ」
わたしはその光景を見て何を思ったのか、先生の首に自分の腕を巻きつけた。
「何ですか?」
「わたしにも」
そう言って、唇を尖らせた。
…今思い出すと殴りたい、当時の自分。
先生は察したようにニッコリ微笑み、わたしの唇にキスしてくれた。
軽く弾むようなキスだったけど、心がとってもあったかくなった。
「…えへへ」
「いけないコですね、お嬢様。私以外の人間にはしてはいけませんよ?」
「おにいちゃん以外の人に、したいなんて思わないもん」
いや、先生でも躊躇おうよ! 当時のわたし!
「それで良いんです。さて、と」
先生はわたしを抱き締めたまま、立ち上がった。
「善は急げと言いますしね。早速、両親に言ってきますか」
「何を?」
「もちろん、あなたと私の婚約をですよ」
そう言う先生は、とても嬉しそうだった。
―回想、完了。
それから、互いの両親は笑顔で婚約&結婚を認めてくれた。
どうやら親同士で、そういう話は前々から出ていたそうだ。
でもわたしはまだ幼かったし、せめて中学に上がる頃までは言い出さないつもりだったらしい。
けれど当人同士がその気ならば問題ないと、喜んで準備を進めた。
わたしは一人娘なので、先生が将来婿入りすることになっている。
先生にはお兄さんがいて、今は結婚して、子供もいて、立派に実家を継いでいるらしい。
…さすがにわたし達の15年前の行動に一番驚いたのは、先生のお兄さんだったっけ。
報告を聞いた後、互いの両親は手放しで喜んだものの、お兄さんは白目をむいて、倒れた。
丸一日意識不明の後、起きた彼は悟った眼で先生を見るようになったらしい。
まっ、確かに18歳の青年が、3歳の女の子と結婚したいなんて言い出したら、普通は引っ繰り返るだろうな。
ウチと彼のご両親がおかしいんだ。
そして先生も。
当時高校三年生だった先生は、推薦が決まっていた大学をやめて、進路変更をした。
正確には大学は同じ所だけど、学部を変えたのだ。
経済学部から、教育学部へと。
そして教育免許を取って、大学生の頃からわたしの『先生』になった。
…いわゆる紫式部のアレ?とも思わなくもない。
けれど先生は勉強を教えるのがとても上手だし、他の雑学もいろいろと知っている。
一緒にいて飽きないし、何よりわたし中心に生きていることが、強く分かる。
先生が大学を卒業するのと同時に、わたしは小学校へ進学。
先生は実家を出て、ウチに就職した。
職業はわたしの家庭教師だ。
しかも住み込み。
今いるわたしの下の部屋が、先生の部屋になっている。
ちゃんとウチの両親からお給料が出ているみたいだし、家庭教師としては全く問題無い…とは言いがたいな。
何せ先生と教え子の一線を越えた教育までしてくる。
まあ…先生も男性だし?
そういう気持ちは女であるわたしも分からなくはない。
でも教育というよりは、しつけられている気がするのは何故だろう?
「どうしました? お嬢様。ぼーっとして」
「えっ!? あっああ…。ちょっと昔を思い出していたの。マリッジブルーかしら?」
「別に不安になることは何もないでしょう。今と生活は大して変わりませんし」
…せいぜいわたしと先生の部屋が一緒になるだけで、生活環境は何も変わらないだろうな。
ずっと一緒。
それは変わらない。
別にイヤじゃない。
イヤじゃないんだけどさっ!
「…やっぱり不思議だわ」
「どこの問題ですか?」
「いや、このプリントじゃなくてね」
そう言ってわたしはノートにプリントをはさみ、閉じた。
「先生がわたしと結婚する気になったことよ。何で当時3歳のわたしと結婚する気になったの?」
「何でって、お嬢様から言い出したことじゃないですか」
心底意外という顔をしないでっ!
「わっわたしは幼かったから、良く理解していなかったのよ! 先生は当時、付き合っていた女性とかいなかったの?」
「そりゃあ全くいなかったと言えば、嘘になりますが…」
カチーンッ☆
あっ、何だろう?
自分で聞いておいてなんだけど、イラッときた。
そりゃ当時、先生は高校生だったし?
わたしはまだ3歳の子供だったから、その歳の差はしょーがないんだけどさっ!
「でもそう長い付き合いの女性はいませんでしたね。お嬢様ぐらいなものですよ。15年も一緒にいるのは」
「…それはしょうがなかったことと言うか…」
先生はいつも一緒にいてくれた。
こういう勉強の時も、そして私生活でも。
両親よりも、側にいてくれた。
だからこそ、わたしは先生に全てを委ねているわけだけど…。
「だから私は思うんですよね」
「何を?」
「きっとお嬢様こそが、私の運命の相手なのだと」
「…15歳も歳の差があっても?」
「関係ありませんよ。それにあなたが私より年下で、安心しているんです。余計なムシを追い払うことができますからね」
…そう言って、先生は眩い笑顔を浮かべた。
わたしはコレでもモテない方じゃないから、きっと少しでも好意を示してきた男性はどこかへ追い払われたんだろうな。
『どこか』は知らないけれど…。
わたしはその光景を見て何を思ったのか、先生の首に自分の腕を巻きつけた。
「何ですか?」
「わたしにも」
そう言って、唇を尖らせた。
…今思い出すと殴りたい、当時の自分。
先生は察したようにニッコリ微笑み、わたしの唇にキスしてくれた。
軽く弾むようなキスだったけど、心がとってもあったかくなった。
「…えへへ」
「いけないコですね、お嬢様。私以外の人間にはしてはいけませんよ?」
「おにいちゃん以外の人に、したいなんて思わないもん」
いや、先生でも躊躇おうよ! 当時のわたし!
「それで良いんです。さて、と」
先生はわたしを抱き締めたまま、立ち上がった。
「善は急げと言いますしね。早速、両親に言ってきますか」
「何を?」
「もちろん、あなたと私の婚約をですよ」
そう言う先生は、とても嬉しそうだった。
―回想、完了。
それから、互いの両親は笑顔で婚約&結婚を認めてくれた。
どうやら親同士で、そういう話は前々から出ていたそうだ。
でもわたしはまだ幼かったし、せめて中学に上がる頃までは言い出さないつもりだったらしい。
けれど当人同士がその気ならば問題ないと、喜んで準備を進めた。
わたしは一人娘なので、先生が将来婿入りすることになっている。
先生にはお兄さんがいて、今は結婚して、子供もいて、立派に実家を継いでいるらしい。
…さすがにわたし達の15年前の行動に一番驚いたのは、先生のお兄さんだったっけ。
報告を聞いた後、互いの両親は手放しで喜んだものの、お兄さんは白目をむいて、倒れた。
丸一日意識不明の後、起きた彼は悟った眼で先生を見るようになったらしい。
まっ、確かに18歳の青年が、3歳の女の子と結婚したいなんて言い出したら、普通は引っ繰り返るだろうな。
ウチと彼のご両親がおかしいんだ。
そして先生も。
当時高校三年生だった先生は、推薦が決まっていた大学をやめて、進路変更をした。
正確には大学は同じ所だけど、学部を変えたのだ。
経済学部から、教育学部へと。
そして教育免許を取って、大学生の頃からわたしの『先生』になった。
…いわゆる紫式部のアレ?とも思わなくもない。
けれど先生は勉強を教えるのがとても上手だし、他の雑学もいろいろと知っている。
一緒にいて飽きないし、何よりわたし中心に生きていることが、強く分かる。
先生が大学を卒業するのと同時に、わたしは小学校へ進学。
先生は実家を出て、ウチに就職した。
職業はわたしの家庭教師だ。
しかも住み込み。
今いるわたしの下の部屋が、先生の部屋になっている。
ちゃんとウチの両親からお給料が出ているみたいだし、家庭教師としては全く問題無い…とは言いがたいな。
何せ先生と教え子の一線を越えた教育までしてくる。
まあ…先生も男性だし?
そういう気持ちは女であるわたしも分からなくはない。
でも教育というよりは、しつけられている気がするのは何故だろう?
「どうしました? お嬢様。ぼーっとして」
「えっ!? あっああ…。ちょっと昔を思い出していたの。マリッジブルーかしら?」
「別に不安になることは何もないでしょう。今と生活は大して変わりませんし」
…せいぜいわたしと先生の部屋が一緒になるだけで、生活環境は何も変わらないだろうな。
ずっと一緒。
それは変わらない。
別にイヤじゃない。
イヤじゃないんだけどさっ!
「…やっぱり不思議だわ」
「どこの問題ですか?」
「いや、このプリントじゃなくてね」
そう言ってわたしはノートにプリントをはさみ、閉じた。
「先生がわたしと結婚する気になったことよ。何で当時3歳のわたしと結婚する気になったの?」
「何でって、お嬢様から言い出したことじゃないですか」
心底意外という顔をしないでっ!
「わっわたしは幼かったから、良く理解していなかったのよ! 先生は当時、付き合っていた女性とかいなかったの?」
「そりゃあ全くいなかったと言えば、嘘になりますが…」
カチーンッ☆
あっ、何だろう?
自分で聞いておいてなんだけど、イラッときた。
そりゃ当時、先生は高校生だったし?
わたしはまだ3歳の子供だったから、その歳の差はしょーがないんだけどさっ!
「でもそう長い付き合いの女性はいませんでしたね。お嬢様ぐらいなものですよ。15年も一緒にいるのは」
「…それはしょうがなかったことと言うか…」
先生はいつも一緒にいてくれた。
こういう勉強の時も、そして私生活でも。
両親よりも、側にいてくれた。
だからこそ、わたしは先生に全てを委ねているわけだけど…。
「だから私は思うんですよね」
「何を?」
「きっとお嬢様こそが、私の運命の相手なのだと」
「…15歳も歳の差があっても?」
「関係ありませんよ。それにあなたが私より年下で、安心しているんです。余計なムシを追い払うことができますからね」
…そう言って、先生は眩い笑顔を浮かべた。
わたしはコレでもモテない方じゃないから、きっと少しでも好意を示してきた男性はどこかへ追い払われたんだろうな。
『どこか』は知らないけれど…。
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