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5階から7階までは、普通の教室になっている。
5階がアタシの選択コースである、和食専用教室。
6階はキシの洋食コースの教室。
そして7階はデザートコースの教室。
アタシとキシは、6階の洋食コースの教室に来ていた。
6階のフロアを出ると、教室数が3つあり、キシな真ん中の教室に入った。
さすがに知り合いが多いらしく、声をよくかけられる。
キシは笑顔で答えながら、一人の青年の所へ向かった。
「おはようございます。カイト」
「んっ? ああ、おはようさん。キシ」
爽やかなイケメンが、キシを見て笑顔になった。
妖艶な雰囲気を持つキシとは、正反対のタイプだな。
「おっ、キミがウワサのヒミカさん?」
「えっええ、そうだけど…」
彼はアタシを見ると、興味津々といった感じになった。
「キシからよく聞いているよ。とうとう落ちちゃったんだって?」
…何かもう怒りを通り越して、力が抜けてきた。
「カイト、ヒミカは恥ずかしがり屋ですから」
「っ!?」
「ああ、そうだったな。でも本当に付き合い始めるとはなぁ。キシが言うのを聞いてると、コイツがただストーカーしてるだけかと思ってたんだけど」
まさにそうです!
「違いますよ。ボクとヒミカは結ばれる運命なんですから」
そう言って、肩を引き寄せてきたキシを、殴り飛ばしたい…!
「ははっ。見せつけるなよ」
しかしカイトは爽やかな笑顔で返す…。
「ところでカイト、この前教えていただいた料理教室のことですけどね」
「ああ、オレの兄貴が教えているヤツ?」
「はい。ヒミカも興味を持ちましてね。もう一度説明をお願いしてもいいですか?」
「ああ、いいぜ」
カイトはカバンから一枚のチラシを出して、アタシに差し出した。
「オレの兄貴、普段はホテルでイタリアンの料理長をしてるんだけど、ここの教室借りて、土・日に料理教室を開いてるんだ」
「ここの教室で?」
そんなことまで、この学校はやってるのか。
「ああ、何せここの卒業生だし」
…スゴク納得。
「昔から肉料理が得意でね。肉料理中心に教えてるんだ。ヒミカさん、肉料理が好きなんだって?」
ぎゅむっ★
キシの足を踏むも、ヘラヘラし続けている。
「土・日どっちでもOKだから。キシと一緒に参加してみてよ」
「あっ、どうも」
チラシを受け取り、アタシとキシは教室を出た。
「…随分、彼には打ち解けているのね」
「妬かないでくださいよ。ボクにはアナタだけなんですから」
「違うっつーの」
コイツは親友と恋人の境界線が無いのか。
「で、次で最後なんでしょ? どこに行くのよ?」
「屋上ですよ」
「屋上?」
思わずテンションも声も低くなる。
「ええ、屋上には温室がありまして、野菜を育てているでしょう? そこの担当者が、最後の方です」
その言葉で、アタシは誰だかすぐに分かった。
「サガミ…先生?」
「ええ。和食部門で野菜料理担当のサガミ先生です」
知った名だった。…と言うか、身近な人だ。
アタシのクラスの担任でもあり、野菜料理を教えてくれる先生。
「でもサガミ先生は野菜担当なんでしょう? よく肉料理の教室のこと、知ってたわね」
「それはまあ、後程。本人の口から聞きましょう」
屋上へは階段を使って行った。
重い扉を開けると、生暖かい風が頬を撫でた。
目の前には透明な小屋がある。
ここで野菜を育てているのが、サガミ先生。
恐る恐る扉を開けると、明るい照明の元には緑が一面に広がる。
「サガミ先生、いらっしゃいますか?」
キシが声をかけると、奥からサガミ先生が出てきた。
「やあヒミカくんにキシくん。珍しい組み合わせだね。どうしたの?」
柔らかい口調と物腰。
サガミ先生は癒やし系の先生として人気だった。
他が…個性が強過ぎるからなぁ。
「サガミ先生にこの間教えてもらった料理教室、とても良かったですよ」
「それは良かった。キシくんのご希望に叶ったかな?」
「ええ、それでですね…」
「あっ、もしかしてヒミカくんも興味を持った?」
おおっと…。これは予想外。
察しが早い人だ。
「えっええ」
「興味を持ってもらえて嬉しいよ。あいにくとチラシは今、手元に無くてね。まあ無くてもすぐ隣だから」
「隣?」
サガミ先生が指差した方向には…隣のビルがある。
「あのビルの8階でやっているんだ。講師は僕の先輩夫婦。若い人向きの肉料理を教えてくれるんだ」
…なるほど。接点はあったんだな。
野菜料理担当という名前に、頭が回らなくなってた。
「ところでサガミ先生は、あそこの料理教室のメニューをご存知なんですか?」
「全部というワケではないけどね。ある程度なら知っているよ」
キシの問い掛けにも、サガミ先生は穏やかに答える。
「そうですか…」
「うん。話は僕の方で先輩達に伝えておくから、いつでも行くと良いよ」
「はっはい」
…やっぱり穏やかな人だなぁ。
終始ニコニコ。
でも、この温室の匂いは…。
「さっ、ヒミカ。用事は済みましたよ。行きましょう」
キシがまたアタシの肩を抱いて歩き出す。
「あっ、サガミ先生! ありがとうございました!」
「はい」
キシに強引に温室から引っ張り出された。
嫉妬深いヤツだな、本当に。
5階がアタシの選択コースである、和食専用教室。
6階はキシの洋食コースの教室。
そして7階はデザートコースの教室。
アタシとキシは、6階の洋食コースの教室に来ていた。
6階のフロアを出ると、教室数が3つあり、キシな真ん中の教室に入った。
さすがに知り合いが多いらしく、声をよくかけられる。
キシは笑顔で答えながら、一人の青年の所へ向かった。
「おはようございます。カイト」
「んっ? ああ、おはようさん。キシ」
爽やかなイケメンが、キシを見て笑顔になった。
妖艶な雰囲気を持つキシとは、正反対のタイプだな。
「おっ、キミがウワサのヒミカさん?」
「えっええ、そうだけど…」
彼はアタシを見ると、興味津々といった感じになった。
「キシからよく聞いているよ。とうとう落ちちゃったんだって?」
…何かもう怒りを通り越して、力が抜けてきた。
「カイト、ヒミカは恥ずかしがり屋ですから」
「っ!?」
「ああ、そうだったな。でも本当に付き合い始めるとはなぁ。キシが言うのを聞いてると、コイツがただストーカーしてるだけかと思ってたんだけど」
まさにそうです!
「違いますよ。ボクとヒミカは結ばれる運命なんですから」
そう言って、肩を引き寄せてきたキシを、殴り飛ばしたい…!
「ははっ。見せつけるなよ」
しかしカイトは爽やかな笑顔で返す…。
「ところでカイト、この前教えていただいた料理教室のことですけどね」
「ああ、オレの兄貴が教えているヤツ?」
「はい。ヒミカも興味を持ちましてね。もう一度説明をお願いしてもいいですか?」
「ああ、いいぜ」
カイトはカバンから一枚のチラシを出して、アタシに差し出した。
「オレの兄貴、普段はホテルでイタリアンの料理長をしてるんだけど、ここの教室借りて、土・日に料理教室を開いてるんだ」
「ここの教室で?」
そんなことまで、この学校はやってるのか。
「ああ、何せここの卒業生だし」
…スゴク納得。
「昔から肉料理が得意でね。肉料理中心に教えてるんだ。ヒミカさん、肉料理が好きなんだって?」
ぎゅむっ★
キシの足を踏むも、ヘラヘラし続けている。
「土・日どっちでもOKだから。キシと一緒に参加してみてよ」
「あっ、どうも」
チラシを受け取り、アタシとキシは教室を出た。
「…随分、彼には打ち解けているのね」
「妬かないでくださいよ。ボクにはアナタだけなんですから」
「違うっつーの」
コイツは親友と恋人の境界線が無いのか。
「で、次で最後なんでしょ? どこに行くのよ?」
「屋上ですよ」
「屋上?」
思わずテンションも声も低くなる。
「ええ、屋上には温室がありまして、野菜を育てているでしょう? そこの担当者が、最後の方です」
その言葉で、アタシは誰だかすぐに分かった。
「サガミ…先生?」
「ええ。和食部門で野菜料理担当のサガミ先生です」
知った名だった。…と言うか、身近な人だ。
アタシのクラスの担任でもあり、野菜料理を教えてくれる先生。
「でもサガミ先生は野菜担当なんでしょう? よく肉料理の教室のこと、知ってたわね」
「それはまあ、後程。本人の口から聞きましょう」
屋上へは階段を使って行った。
重い扉を開けると、生暖かい風が頬を撫でた。
目の前には透明な小屋がある。
ここで野菜を育てているのが、サガミ先生。
恐る恐る扉を開けると、明るい照明の元には緑が一面に広がる。
「サガミ先生、いらっしゃいますか?」
キシが声をかけると、奥からサガミ先生が出てきた。
「やあヒミカくんにキシくん。珍しい組み合わせだね。どうしたの?」
柔らかい口調と物腰。
サガミ先生は癒やし系の先生として人気だった。
他が…個性が強過ぎるからなぁ。
「サガミ先生にこの間教えてもらった料理教室、とても良かったですよ」
「それは良かった。キシくんのご希望に叶ったかな?」
「ええ、それでですね…」
「あっ、もしかしてヒミカくんも興味を持った?」
おおっと…。これは予想外。
察しが早い人だ。
「えっええ」
「興味を持ってもらえて嬉しいよ。あいにくとチラシは今、手元に無くてね。まあ無くてもすぐ隣だから」
「隣?」
サガミ先生が指差した方向には…隣のビルがある。
「あのビルの8階でやっているんだ。講師は僕の先輩夫婦。若い人向きの肉料理を教えてくれるんだ」
…なるほど。接点はあったんだな。
野菜料理担当という名前に、頭が回らなくなってた。
「ところでサガミ先生は、あそこの料理教室のメニューをご存知なんですか?」
「全部というワケではないけどね。ある程度なら知っているよ」
キシの問い掛けにも、サガミ先生は穏やかに答える。
「そうですか…」
「うん。話は僕の方で先輩達に伝えておくから、いつでも行くと良いよ」
「はっはい」
…やっぱり穏やかな人だなぁ。
終始ニコニコ。
でも、この温室の匂いは…。
「さっ、ヒミカ。用事は済みましたよ。行きましょう」
キシがまたアタシの肩を抱いて歩き出す。
「あっ、サガミ先生! ありがとうございました!」
「はい」
キシに強引に温室から引っ張り出された。
嫉妬深いヤツだな、本当に。
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