光輪学院シリーズ・神無月の憂鬱

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「旦那さんは一応は必死だったわよ? 奥さんを助けようとする姿はある」




「そうだねぇ。それがまた、滑稽だとも言えるけどね」




イジワルそうにクスクス笑う依琉。




思わず眉をひそめる。




「そういう態度はあんまりよろしくないわよ? いくら美少年でもね」




「褒め言葉だと思っておくよ」




見た目は儚げな美少年なのに、腹の中は真っ黒な依琉だった。




やがて教室から二人が出てきた。




妻の手には赤いお守りが握られている。




「あっ、お嬢さん」




夫は神無月を見つけるなり、駆け寄った。




「あなたの言葉は力があると、お祖母さまから聞きました。あなたからも彼女を元気付けるお言葉をかけていただけませんか?」




「はあ…」

夫婦越しに祖母が立っているのが見えた。




何とも言えない複雑そうな顔で、肩を竦めた。




「…分かりました。では奥さま、前へ」




「はい」




神無月は妻の前に来ると、右手を上げ、彼女の胸の辺りにかざした。




―大丈夫。あなたは病気にならない―




ピシっと空気が揺らいだ。




神無月の<言霊>は妻の体に染み渡る。




不安そうな顔色は、元気そうな肌色になる。




「あっありがとうございます! 何だか元気になれた気がします」




「良かったな」




「ええ!」




喜びあう二人を見て、神無月は苦笑するしかない。




「あっ、タクシーを呼びますので、妻のこと、ちょっとお願いします」




「はい」

夫はケータイ電話片手に、外に出た。




この神社は山の上に建っているので、電波が通じにくいのだ。




神無月は妻に話しかける。




「良い旦那さんですね」




「ええ。わたしが病気がちなのを気にして、いろんな神社や病院に付き添ってくれるんです」




妻は明るい笑顔で語る。




「でも…時々不安にもなるんです」




しかし急に表情を曇らせ、出て行った夫の後姿を切なそうに見る。




「こんなに多くの神社や病院に行くなんて…。本当は重い病にかかっていて、もう自分は長くないんじゃないのかなって」




「そんなことはありませんよ。ちょっと病気がちなだけでしょう?」




神無月が励ますように言うと、妻は苦笑する。




「そうだと良いんですけど…」




「あの、失礼ですけど、結婚して何年目ですか?」




「三年目になります」


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