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イジメによってはじめて知った、クラスの支配者

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「やだぁ、やっぱり忘れたぁ」

ランドセルの中身をゴソゴソといじる。

けれど手帳は無い。

ピンク色の手帳には赤い蝶々が印刷されていて、いつもそれこそ肌身離さず持っていた。

でも校舎を出る前に、ふと違和感を感じた。

そしてランドセルをあさってみたら…案の定。

手帳を忘れてた。

「きっと教室だ。取りに行かなきゃ!」

あの手帳は大事な物。

だから手元に無いと、不安でたまらない。

ホントはダメだけど、廊下を走った。

5-2の教室の前で、息を吐いた。

「はあ…」

一階から三階までのダッシュがキツイなんて…歳かしら?

引き戸を一気に開けると…。

「えっ…?」

振り返った顔を見て、わたしはすぐに誰だか分かった。

クラス委員長を務めている上に、生徒会書記までしている優等生クンだった。

「あら、まだ残っていたの?」

教室には夕日の光が差し込んでいる。

下校時刻まで残り十分程度だ。

わたしは彼の驚いた顔を見ながら、自分の席へと歩いて行った。

だけど…。

わたしの席の周りには、人だかりが出来ていた。

そこに、二人のクラスメートが倒れていた。

けれど二人の体には、殴られたような蹴られたような跡がある。

ちなみに二人を囲んでいるクラスメートの中には、わたしといつも一緒にいるグループのコもいた。

「ルナ…ちゃん。何で…」

グループの中の一人の女の子が、消え入りそうな声で言ってきた。

「忘れ物しちゃってさ。ちょっとそこ、どいてくんない?」

わたしは優等生クンを指さした。

彼は驚きつつも、避けてくれる。

わたしは机の中を覗き込み、目的の物を発見した!

「やった♪ やっぱりここにあった!」

手帳を取り出し、一安心。

「じゃ、お邪魔してゴメンなさいね。わたしは帰るわ」

シュタッと手を上げ、わたしは教室から出た。

もうすぐ下校時刻だ。先生が見回りに来ちゃう。

「ちょっと待って!」

グイッと腕を捕まれ、わたしは振り返った。

「ん? どうしたの? あっ、途中まで一緒に帰る?」

「…そうだね。話したいこともあるし、一緒に帰ろう」

「うん!」

わたしはランドセルに手帳を入れて、上機嫌で鼻歌まで歌ってしまう。

学校を出たところで、彼が声をかけてきた。

「驚かないんだね?」

「何が?」

「イジメ。目撃しても、全然動じない」

柔らかな物腰で、彼は言った。楽しそうに。

「動じることのことかしら?」

けれどわたしは相変わらずの態度。

「イジメなんて今時どこにでもあるし、誰が首謀者かなんて知らないのは悪いことでもないんじゃない?」

担任や親でさえ知らないことを、クラスメートだからって知っていて当然ということはない。

「言うねぇ。…じゃ、気付いたんだ? 首謀者が誰か?」

「アナタじゃない」

わたしは彼の眼を真っ直ぐに見て言った。

彼もわたしの眼を見る。

「本当に面白いぐらいに動じないね。僕のこと、怖くないの?」

「アナタを怖がって、わたしに一体何の得があるの?
あるんだったら、教えてほしいわ」

「う~ん…。イジメの標的になるとか?」

「なったとしても、転校すればいいだけの話じゃない」

「―なるほど。1番早い解決方法だ」

彼はすぐに納得した。

頭の良い人だ。さすが成績順位トップキープ者。

「えっと…。キミのこと、ルナって呼んでもいい?」

「構わないわよ? みんなそう呼んでるし」

「ありがとう。僕のことはアオイって名前を呼び捨てで良いよ」

いつも彼のことは委員長と呼んでいた。

クラスメートもそう呼ぶから。

「そう? 何だか親しくなった気がして嬉しいわ」

「うん、僕もだよ。ルナのこと、気に入った」

その後、他愛の無い話をして、帰り道を歩いた。

そして分かれ道。

「やれやれ。楽しい時間っていうのは、早く過ぎるものだね」

「そうね。でもまた明日、学校で会えるじゃない?」

「そうだね」

「うん。それじゃ、また…」

さよならの手を振ろうとした時、その手を掴まれた。

そして…キス、された。

冷たくて、とろけるような甘いキスを…。

触れて十秒後。

彼はゆっくりと離れた。

「…また、明日」

「えっええ…」

彼はにっこり笑って、わたしとは反対方向に歩いていく。

その姿が見えなくなるまで、わたしは見つめ続けていた。

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