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その時、マカはミナの家の前にいた。
無表情ながらも、その心境は複雑だった。
「杞憂ならいいが…」
クラスメート達から聞いた【解放】後のこと。
ミナはすでに中毒症状が出ていた。
忠告はしていたが、ミナには届いたのか…。
ガシャーンッ!
突如響いた音に、マカは顔を上げた。
ミナの家の窓ガラスが割れた音だ。
マカはミナの家に入った。
そしてミナは…。
―ぐるるるぅっ…―
理性の失った眼をして、リビングで暴れていた。
「チッ、予想通りか」
マカは舌打ちし、素早くリビング内を見回した。
リビングの隅に、ミナの両親がお互いを抱き締め合いながら小さくなっていた。
「ミナのご両親、そこにいろよ」
ミナの両親はいきなり現れたマカの言葉に、首を縦に振って答えた。
「ミナっ!」
マカが呼びかけると、ミナは手に持っていたイスを落とし、こちらを向いた。
「今度は理性から【解放】されることを望んだか…。いや、自分を抑える者達からか? どちらにしろ、そんな強さは偽物だ」
―ぐうっ…―
「言いたいことがあるなら、聞こう。ただし、場所を変えてな!」
そう言うとマカは踵を返し、家から飛び出した。
続いてミナも追って来る。
マカはケータイ電話を取り出し、素早く操作をし、例のサイトから魔方陣の画面を出した。
黒い画面に浮かぶ青白い魔方陣。
「私は【解放】を望む。限界からの【解放】をっ!」
マカがそう呟くと、魔方陣が赤く光輝いた。
マカはその光を眼に受けると、地面を思いっきり強く蹴った。
マカの体は二階建ての家の屋根の上に上がった。
―ぐるっ!―
するとミナも同じように飛んで来た。
マカはケータイを握り締めながら、屋根に飛び移る。
しばらくミナと走り、二人は学校の屋上までやって来た。
「ここなら誰の邪魔も入らないだろう」
そう言って、マカはミナと向き合った。
「さて、ミナ。人間としての理性を失ってまで得た【解放】の力はどうだ? 今のその姿が、お前の望んだものなのか」
―ぐっ…!―
「お前が何を思い、【解放】の力を求めたのかは私は知らないし、知らない方が良いのだろう。だが…」
マカは真っ直ぐにミナを見た。
「今のお前は私の親友じゃない」
ミナの眼が揺らいだ。
そんなミナの様子を見て、マカは苦笑した。
「今のミナは好きじゃないよ」
ミナの眼が大きく見開かれた。
―ぐっおおおおおっ!―
空に向かってほえたミナの体から、青白い光が飛び出てきた。
その光が全て抜けた時、ミナの体から力が抜けた。
「ミナっ!」
駆け寄ったマカは、ミナの体を受け止めた。
「マ…カ」
虚ろな表情だが、ミナは理性を戻していた。
やつれた顔で、マカの顔を見る。
「ゴメン、ね」
「…いや、いい。迷惑を掛け合うのも、親友の醍醐味だろ?」
「ふふっ…。ありが…と、う」
柔らかく笑うと、ミナはそのまま気を失った。
ミナの体を一度強く抱き締めると、静かに横たえた。
そしてマカはケータイ電話を見た。
「―さて、ミナは失敗したぞ? 諦めることだな」
赤く浮かぶ魔法陣に向かって声をかける。
―フフッ…。残念だなぁ―
しかしケータイ電話から、少年の声が聞こえてくる。
「雑魚食いは悪食が過ぎるぞ? そんなに空腹なワケではあるまい」
―まあね。ちょっとおもしろそうなゲームを考えたから、やってみただけ。ちょうど良い具合に腹も膨れたし、ここいらで引き上げるよ―
「人間の持つ、本能の力を食らうとはお前らしいが、選ぶ相手はあまりよくないみたいだな」
【解放】後、病院に入院する者達が絶えないらしい。
クラスメート達はそれを心配していた。
【解放】とはいろいろな仕方があるそうだが、最終的には理性を失い、暴れ出す。
そうなれば、病院へ行くしかない。
しかし入院しても理性は戻らず、まるで動物のようになってしまう。
あるいは最悪、廃人状態にもなりうる。
―う~ん。そこら辺は相手次第なんだよ。どれだけの【解放】を望むか、だね―
「ウソをつくな。ある程度抑えられるのも、お前の力加減次第だろう?」
―ボクはキミのように力加減が上手くないんだよ―
「ならしばらくはおとなしくしていることだな。力加減を覚えるまで、お前の好き勝手にはさせない」
マカの真剣さに、声の主は深くため息をついた。
―…分かったよ。しばらくは自重する。しばらくは、ね―
含み笑いをし、ケータイ電話の画面は元の待ち受け画面に戻った。
「ったく…。イタズラが過ぎるぞ」
グチりながら、マカはケータイをしまった。
そしてぐったりとしているミナの体を抱き上げた。
「…まったく。お前が関わらなければ、私も動くことはなかったのに」
苦笑しながら、ミナの額に口付ける。
「…どーもバカな子には甘いらしい。年は取りたくないものだな」
そう言って地面を蹴り、屋上から地面へ飛び降りた。
―【開放】の力を使わずに。
「おっと。人目があるかもしれなかったな。いかんせん、癖は直りにくい。…言葉遣いも気を付けねばな」
ため息をついたマカの眼は、鈍く赤く光っていた。
「ウワサにもなっているみたいだしな。都市伝説とはあなどりにくい。…まっ、それが私だと気付いた者はいないだろうが。…同属以外は、な」
無表情ながらも、その心境は複雑だった。
「杞憂ならいいが…」
クラスメート達から聞いた【解放】後のこと。
ミナはすでに中毒症状が出ていた。
忠告はしていたが、ミナには届いたのか…。
ガシャーンッ!
突如響いた音に、マカは顔を上げた。
ミナの家の窓ガラスが割れた音だ。
マカはミナの家に入った。
そしてミナは…。
―ぐるるるぅっ…―
理性の失った眼をして、リビングで暴れていた。
「チッ、予想通りか」
マカは舌打ちし、素早くリビング内を見回した。
リビングの隅に、ミナの両親がお互いを抱き締め合いながら小さくなっていた。
「ミナのご両親、そこにいろよ」
ミナの両親はいきなり現れたマカの言葉に、首を縦に振って答えた。
「ミナっ!」
マカが呼びかけると、ミナは手に持っていたイスを落とし、こちらを向いた。
「今度は理性から【解放】されることを望んだか…。いや、自分を抑える者達からか? どちらにしろ、そんな強さは偽物だ」
―ぐうっ…―
「言いたいことがあるなら、聞こう。ただし、場所を変えてな!」
そう言うとマカは踵を返し、家から飛び出した。
続いてミナも追って来る。
マカはケータイ電話を取り出し、素早く操作をし、例のサイトから魔方陣の画面を出した。
黒い画面に浮かぶ青白い魔方陣。
「私は【解放】を望む。限界からの【解放】をっ!」
マカがそう呟くと、魔方陣が赤く光輝いた。
マカはその光を眼に受けると、地面を思いっきり強く蹴った。
マカの体は二階建ての家の屋根の上に上がった。
―ぐるっ!―
するとミナも同じように飛んで来た。
マカはケータイを握り締めながら、屋根に飛び移る。
しばらくミナと走り、二人は学校の屋上までやって来た。
「ここなら誰の邪魔も入らないだろう」
そう言って、マカはミナと向き合った。
「さて、ミナ。人間としての理性を失ってまで得た【解放】の力はどうだ? 今のその姿が、お前の望んだものなのか」
―ぐっ…!―
「お前が何を思い、【解放】の力を求めたのかは私は知らないし、知らない方が良いのだろう。だが…」
マカは真っ直ぐにミナを見た。
「今のお前は私の親友じゃない」
ミナの眼が揺らいだ。
そんなミナの様子を見て、マカは苦笑した。
「今のミナは好きじゃないよ」
ミナの眼が大きく見開かれた。
―ぐっおおおおおっ!―
空に向かってほえたミナの体から、青白い光が飛び出てきた。
その光が全て抜けた時、ミナの体から力が抜けた。
「ミナっ!」
駆け寄ったマカは、ミナの体を受け止めた。
「マ…カ」
虚ろな表情だが、ミナは理性を戻していた。
やつれた顔で、マカの顔を見る。
「ゴメン、ね」
「…いや、いい。迷惑を掛け合うのも、親友の醍醐味だろ?」
「ふふっ…。ありが…と、う」
柔らかく笑うと、ミナはそのまま気を失った。
ミナの体を一度強く抱き締めると、静かに横たえた。
そしてマカはケータイ電話を見た。
「―さて、ミナは失敗したぞ? 諦めることだな」
赤く浮かぶ魔法陣に向かって声をかける。
―フフッ…。残念だなぁ―
しかしケータイ電話から、少年の声が聞こえてくる。
「雑魚食いは悪食が過ぎるぞ? そんなに空腹なワケではあるまい」
―まあね。ちょっとおもしろそうなゲームを考えたから、やってみただけ。ちょうど良い具合に腹も膨れたし、ここいらで引き上げるよ―
「人間の持つ、本能の力を食らうとはお前らしいが、選ぶ相手はあまりよくないみたいだな」
【解放】後、病院に入院する者達が絶えないらしい。
クラスメート達はそれを心配していた。
【解放】とはいろいろな仕方があるそうだが、最終的には理性を失い、暴れ出す。
そうなれば、病院へ行くしかない。
しかし入院しても理性は戻らず、まるで動物のようになってしまう。
あるいは最悪、廃人状態にもなりうる。
―う~ん。そこら辺は相手次第なんだよ。どれだけの【解放】を望むか、だね―
「ウソをつくな。ある程度抑えられるのも、お前の力加減次第だろう?」
―ボクはキミのように力加減が上手くないんだよ―
「ならしばらくはおとなしくしていることだな。力加減を覚えるまで、お前の好き勝手にはさせない」
マカの真剣さに、声の主は深くため息をついた。
―…分かったよ。しばらくは自重する。しばらくは、ね―
含み笑いをし、ケータイ電話の画面は元の待ち受け画面に戻った。
「ったく…。イタズラが過ぎるぞ」
グチりながら、マカはケータイをしまった。
そしてぐったりとしているミナの体を抱き上げた。
「…まったく。お前が関わらなければ、私も動くことはなかったのに」
苦笑しながら、ミナの額に口付ける。
「…どーもバカな子には甘いらしい。年は取りたくないものだな」
そう言って地面を蹴り、屋上から地面へ飛び降りた。
―【開放】の力を使わずに。
「おっと。人目があるかもしれなかったな。いかんせん、癖は直りにくい。…言葉遣いも気を付けねばな」
ため息をついたマカの眼は、鈍く赤く光っていた。
「ウワサにもなっているみたいだしな。都市伝説とはあなどりにくい。…まっ、それが私だと気付いた者はいないだろうが。…同属以外は、な」
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