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第一章

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 王都についたわたしたちは汽車を降りてルペリア学園に向かった。
 学園は駅と隣接しており、非常に近い場所にある。
 すぐに学園に着くことができた。

 わたしたち新入生の今日のスケジュールは単純だ。
 日本の学校でいうところの入学式のような式典。
 通称”入学の儀”に出席し、その後自分の興味のある部活動に、挨拶と入籍の申請をしに行く。

 という流れである。

 なので、わたしたちはまずその入学の儀とかいう式典が行われる会場へと足を運んだ。

 ルペリア学園の敷地はとんでもなく広かった。
 地球の西洋の建物に似た、とは言っても少しだけどこか違うような、変わったデザインの建物が並んでいる。
 案内がないのでどれがどの建物かわからない。
 一人で歩いていればまず、迷子になるだろう。

 なんとなく人の流れに従って歩いた先には、すでにたくさんの人がならんで待っていた。
 制服はまだ支給されていないのでみんな私服だが、誰もが高そうな衣服に身を包んでいる。
 ここにいるということはみんなわたしたちと同じ新入生だ。

「ねえ、二人とも! ルペリア学園ってすごいところだねっ。敷地の建物はどれも豪華だし、大きいし、それにたくさんあって、どの建物がどこにあるのか、覚えておかないと迷子になっちゃいそうだよっ!」
「うん。そうだね……その通りだね」

 メーロルがうつむきながら、機械のように反応する。

「……ええっと! ふええ、すごい人数だね! これみんな新入生なんだよね。しかもみんな高貴なオーラが漂ってるよ。わたし田舎者ってバレないかな? 心配だよ~」

 ルペリア学園はおじさんが言っていたように、トートルペリでもっとも格式の高い学び屋で、学問や芸術、武術といったさまざまな分野の最先端をいく。
 というわけで、ここに集うものたちはみな一様にエリートだ。
 剣術や魔術に長けた者、ずば抜けて頭のいい者。
 財閥や貴族の御曹司、御令嬢などなど。
 すごい肩書や経歴の人たちがいっぱいいるはずだ。

「うん。そうだね……そのとおりだね……」

 わたしはしきりにメーロルとラナに話しかける。
 しかし、案の定メーロルの返事は適当だった。

 わたしが何か言っても、メーロルは「うん。そうだね……その通りだね」しか言わない。壊れた人形のようにそればかり繰り返す。
 ラナに至っては返事すらしてくれない。
 うつ向いてぶつぶつ何か言っている。

 ここに来るまでもずっとそうだった。
 アベリア先輩とアリスの一件で、二人は元気がない。

「はああ……」

 どうしよ……胃が痛い。
 どうしたら、二人は元気を取り戻してくれるのか。
 案外すぐに持ち直してくれると思ってたんだけどな……

 たしかに二人が落ち込んでいるのも頷ける。
 ずっと目標だった剣術部の試験官(しかも剣士)から、不合格の烙印を押されたのだ。
 まだ試験に受けていないにもかかわらずだ。
 理不尽としかいいようがない。

「というか、それを理由にいきなり攻撃してくるなんて非常識すぎるよ」

 そもそも一介の試験官に試験合否を勝手に決める権限なんてあるのか?
 ……いや、ミハニアさんの一件を見ている限り、剣士の常識ならあり得る気がする。
 アベリア先輩は学園有数の剣士
 剣士の権力は絶大だ。
 こいつ気に入らねえから不合格!とかありえそうだ……

「これより入学の儀を執り行います。楽隊前へ」

 そんなことを思っていると、前から号令が出され吹奏楽器の音が鳴り響く。
 どうやら、式典が始まったようだ。

「演奏とかあるんだ。派手だな……ってラナ?」
「……うん、やっぱりおかしいよ……ぼくがあんな簡単に負けるなんて……ふいうちじゃなかったら負けることなかった」

 何かぶつぶつ言ってると思ったら、ラナが小刻みに震えだした。

「うおおおおおおおっ!」
「どうしたの、ラナ!? いきなり、さけんで」
「やっぱりあんなのおかしいと思って! リリィもそう思うよね!?」
「え? おかしいって……」
「アリスとの戦いのことだよ! いきなり攻撃してきて……あんな不意打ちじゃなかったら負けてなかった!」
「あっ、うん……そ、そうかな……?」

 たしかにいきりなり攻撃してきたのは事実だけども。
 正直、ラナとアリスの間にはかなりの実力差があったように思える……

「このままじゃ終われない!  試験で絶対リベンジしてやる!」

ラナは予備で携えていた木剣を手にし、走り出してしまった。

「ちょっと待って! どこ行くの? 今、式がはじまったばかりだよ!」
「試験開始まで剣の素振りしてくるっ!!」
「いや、だから式が……」

 何を考えているんだあの子は……
 周囲の人たちが何事かとこちらを見ている。
 入学早々、大事な式典をバックレるなんて……

「くそおおおおおおっ!!」
「ええッ!?」

 今度はメーロルが叫びだした。

「リリィちゃん、わたしも行くね…… 剣の練習……少しでもして強くならなきゃ……」
「ふえぇっ! メーロルちゃん……!?」

 メーロルは力強く顔を上げる。
 彼女のかけているメガネがきらりと光る。
 何かを決意したような目だった。

「わたし考えていて思ったんだ。アベリアさんがわたしたちを認めないっていうのなら、実力で認めさせるしかないって……」
「う、うん……」
「アリスちゃんは倒せないかもしれないけど、上位に食い込めば試験に合格することも可能だって……」
「うん……」
「だから、行くね……少しでも練習しなきゃ……」
「えぇ……」

 アリスには手も足もでないかもしれないが、何も剣術部の試験が合格枠が一人ということはないだろう。たしかにアリスには到底かなわなくても合格のチャンスはある。本番でアベリア先輩をギャフンと言わせるような成果を出せたらいい。
 けど、今から練習したところで試験までほとんど時間ないし意味はない、そもそも今は入学式の最中で……

「ちょっと……バックレはまずいよ」

 メーロルはラナと同じように木剣の予備をもって走り出してしまった。

「だから式はどうするのさ……」

 前をみれば、いかにも偉そうな衣服に身を包んだ学園関係者と思わしき人物たちがこちらを睨んでる。
 ほら、入学そうそう目をつけられてるじゃないですか……
 主にわたしが……

「おい、今剣術部って言わなかったか?」
「言ってたよね。試験がどうのって……」

 ラナとメーロルが走っていた方向をたくさんの人が見ている。
 ひそひそと話し声も聞こえる。
 大声を出すから、完全に注目の的だ。

「おい、抜け駆けじゃないのか? まさか試験の内容を事前に知っていて……!」
「そうに違いないわ! 彼女たち目付きが違ったもの!」

 一人の剣術部志望者と思わしき人物がそんなことを言い出す。
 周りのやつらもそれに同意する。
 いや、絶対に違うと思うんだけど。
 試験の内容を知っていても、試験が始まってない以上、抜け駆けしようもないでしょ……
 よくみると彼らも目がギラギラと輝いていた。

「クソっ! こうしちゃいられんっ! 俺も先に行かせてもらうっ」

 一人の男が先人をきって、歩き出した。
 行くってどこに?
 しかし、それに釣られて複数の人が勝手に自分の列を抜けて出口に向かい始める。

「さきに行かせてたまるものか! わたしたちも行くぞ」
「もしかすると、もう始まっているかもしれないしね。情報がない以上、ここで動いておくのが賢明だわ……」

 その勢いは次第に増し、多くの人が出口に向かうようになった。

「ええ……今式典の最中だってのに、みんな自由すぎるよ」

 高そうな衣服に身を包んでいるのに、やってることは不良のそれと変わらない。
 剣士を目指す人間はみんな脳ミソが筋肉でできているのだろうか?
 賢明の本当の意味を知りたければ辞書を貸してやるが?

 楽隊は演奏をやめ、楽器を磨いている。
 偉そうな学校関係者たちは頭を抱えてうつ向いている。
 式典の司会者はオロオロしている。

 式典は開始早々グダグダになりつつある。
 これがトートルペリ国一番の学園の入学式か。
 王立なんでしょここ? 王様が出張ってきてカツ入れ直した方がいいんじゃないの?

「毎年こんな感じらしいわよ」
「ええ……そうなの?」
「それにしても剣術部の連中ってバカだよね。何にも考えてないっていうか」

 横にいたローブをきた女の子が話しかけてくる。
 激しく同感だ。
 魔術師志望者の人とは価値観があいそうだ。

「ちょっと司会者さんっ。もうこんな感じになっちゃったし、これでお開きにしない? こんな式典やるだけ無駄だしさー」
「そんな……勝手に言われても困ります」
「ええー、いいよね。どうせ、ありがたいお話を永遠と聞くだけなんだからさあ」

 フードを被った怪しい人が、司会者の人と言い合っている。
 誰だろ、あの人……
 フードで顔が隠れて見えないため怪しさ全開だ。

「何ですか、あなた? そんなこと勝手にきめられないですよ」
「ええ~、いいじゃん。私、こういうものだからさ。式典の管理者とは話を通してあるからあっ」
「えええっ!? そうなのですか! 失礼しました、ならこれで終わりにしても……」

 フードの人が司会者に耳打ちする。
 剣の柄が見えるので剣士かな。
 どことなくミハニアさんに雰囲気が似ている気がする……
 いや、いくらルペリア学園の入学式とはいえ、多忙なミハニアさんがいるわけがないか。

「ということで式典はこれでおしまいです。関係者の方々、来訪者の方々ありがとうございました。学生諸君はこのあと自ら所属したい部まで足を運んでください。クラスや選択する授業に関しては後日になります。では以上です。解散……」
「えぇっ、もう終わりなの? まだはじまったばかりだよ……」

 司会者の人が終わりの宣言をする。
 まだ、開始して十分もたってないように思える。
 いいのかこれで……?

 ずらずらと新入生が出ていく。
 わたしも仕方なく会場を後にした。

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