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45【新百寿人】とは

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「多田さんの携帯でよろしいですか?白石流星と申します。ええと、高校時代にミステリー研究部に所属していたんですけど……」

『流星君?久しぶりだね。部長から連絡があったけど、元気そうでよかった。僕は社会人として、社畜として働いているよ』

 夕方、多田にも連絡を入れたが、既に不破から連絡をもらっていたようだ。そのため、明寿が説明するまでもなく話はスムーズに進んだ。10年ぶりだというのに、彼らは明寿に対して、高校の時と同じような態度で話してくれた。

『そういえば、流星君の秘密って何?部長は本人に聞いてみたらいいって』

「秘密……」

 明寿の名前の言い間違いから、不破は明寿が【新百寿人】だと気付いた。今回は電話に出て自分の名前を伝えるときは、細心の注意を払った。現在使用している「白石流星」ときちんと名乗ることができたはずだ。

『部長が流星君の秘密を知れたということは、僕にだってわかるはずだよね?曲がりなりにも僕もミステリー研究部の一員だったんだから。謎解きは得意なはず……』

 電話越しに多田の悩んでいる様子が目に浮かぶ。ううんと唸っている声が聞こえるが、明寿は自分が【新百寿人】だと気付かれたくはない。できれば、高校時代の部活の仲間で、久しぶりに連絡を取ったというだけの関係にしておきたい。

「私の秘密なんて知っても、面白くな」

『もしかして、流星君が【新百寿人】だった、とか?あははは。そんなわけないか』

「……。そんなわけないでしょう?いくら私が【新百寿人】に興味を持っていたとしても、冗談にしてはきつ」

『いやいや、今、謎の間があったよね?不自然だったから。いやいや、まさか流星君が【新百寿人】だったなんて……。とはいえ、それはそれで納得というか。高校時代、妙に達観していたなと思っていたけど。あれ、ということは、昔の記憶がないってこと?でも、そんな感じにはみえなか』

「いったん、電話を切ってもいいですか?」

 多田の怒涛の言葉を聞いていられず、思わず話の途中であるにもかかわらず口を挟んでしまった。まさか、不破だけでなく多田にも正体がばれるとは思わなかった。明寿の淡い期待はあっけなく崩れ去った。

(いつ、【新百寿人】とばれるような行動をとっただろうか。一般人と違うおかしなところがあっただろうか)

 高校時代は普通の高校生らしいふるまいをしていたつもりだったし、今だって電話に出た多田に対して、キチンと社会人として自分の名前を名乗った。別におかしなところはないはずだ。

 とりあえず、これ以上聞いていたら、明寿が【新百寿人】の中でも異端の記憶持ちだということまでばれてしまいそうだ。不破は独自の研究でそこまでたどり着いていたが、多田がそこまで熱心に研究していたとは限らない。

(お願いだから、このまま当たり障りなく電話を切ってくれ)

『ちょ、ちょっと待って。もう少しで話は終わるから。とりあえず、流星君は【新百寿人】ということでいいんだよね?ああ、このことは他の人には秘密にしていたりする?だとしたら、これ以上詮索するのは迷惑だよね。ああ、心配しなくてもいいよ。このことは誰にも言うつもりはないから』

「も、申し訳ない。次の用事を思い出したんだ。別に多田君との電話が不愉快になったとかでは決してないから。ええと、また電話してもいいかな」

 明寿が話を途中で遮ったせいで、多田に余計な気を遣わせてしまった。とはいえ、これで平穏に電話が終わりそうだ。10年ぶりに高校時代の知人に連絡が取れたのだから、和やかに電話を切りたいものだ。

『全然かまわないよ。どうせなら、どこかで部長も交えて3人で会えたらいいね。じゃあね』

「仕事、頑張ってね」

(今後、君たちと連絡を取り合うこともないだろう)

 今回はたまたま、佐戸から連絡先を教えてもらったから電話した。2人の元気な様子を知ることができてよかったが、次に連絡をする予定はない。明寿は、今後自分たちの子孫のもとを訪ねて転々とする予定だ。彼らには彼らの生活があるので、お互い自分たちの生活を満喫していけばいい。そこに交流の余地はない。

 電話を終え、明寿はスマホを耳元から外す。スマホの真っ黒な画面には、明寿の顔が映り込んでいた。しかし、あえて見ないようにして明寿は今後の予定を考えることにした。

 それにしても、明寿が【新百寿人】だと知る人間が増えてしまった。これからの長い人生、どうしたらよいものか。少し悩んだが、別に正体がばれたらばれたでその都度対処していけばいいだけだ。なるべくばれないように生活しようと心に誓った。



 佐戸と別れて、明寿はまず初めに自分の子供たちの家の近くに引っ越すことにした。

 自分の子孫たちを陰ながら見守っていきたい。

 明寿は新たに引っ越したアパートの一室で、佐戸に伝えた言葉を振り返る。

 明寿の子供だが、彼らもすでに高齢となっていた。明寿の現在の姿は25歳の青年だが、明寿が【新百寿人】として生まれ変わることがなかった場合、つまり老人のまま生きていたら、明寿の年齢は110歳になっている。子供たちが高齢者となっているのは予想できたことだ。

(この姿に慣れ始めて、私も昔は高齢者だったことを忘れてしまうところだった)

 家から出て来た高齢者を見たときは驚いたが、よく考えれば当然のことだった。今はまだ自宅で過ごしているようだが、数年もすれば施設に入ることになるだろう。誰もが年を取り、やがて死んでいく。

「まあ、100歳まで生きることができたら違うかもしれないが」

 今の時代は100歳を迎えると若い姿に生まれ変わるので、そこまで生きたら「死」とは無縁になるかもしれない。しかし、同時に昔の記憶はなくすので「死」とは何かを考えされられる。

 明寿は彼らの家を訪ねることはしなかった。不審者にならない程度に彼らの家を眺めて過ごそうと決めていた。

 彼らの生活を見守ることしか明寿に出来ることはなかった。

 もし、突然、明寿が現在の青年姿のまま彼らの前に姿を現して、「私は君たちの○○だ」と伝えても、信じてもらえないだろう。ただ、彼らが健やかに幸せに暮らしている様子を見るだけで、今の明寿にとっては生きる意味となるだろう。

(文江さん、私たちの子供たちは元気に過ごしているよ)

 子供たちの姿を見て、明寿は生きていてよかったと実感した。

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