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27西園寺雅人の用事
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ジャスミンの彼氏が亡くなってから、受験の悪魔による被害者が出たというニュースを見ることがなくなった。
「そういえば、受験の悪魔が起こしたと言われる事件を、ここ最近聞かなくなりましたね」
「確かに聞かなくなったわね。でも、受験の悪魔、なんて言うからには、まだまだ被害は出てもよさそうよね。だって、今からが受験本番って感じでしょう。中学受験も高校受験も、私たちが頑張った大学受験も三月に行われるもの。まあ、大学は二月の終わりだけど。それなのに、聞かなくなったのは変な気がするわ」
ジャスミンの彼氏が亡くなったと同時に噂を聞かなくなったということは、「受験の悪魔」とやらに、彼が関与していたということだろうか。彼が亡くなって噂を聞かなくなったなんて、それしか考えられない。それなら、何が目的で行っていたのか理由を知る必要がある。
私に興味があり、尊敬していて近づきたいから、ジャスミンに接近したこと、受験の悪魔。はたから見たら関係のない二つだが、もしかしたら、彼のなかでは何か関連付けがあったのかもしれない。ジャスミンに彼氏がいたことを秘密にされて、結局、亡くなった彼がどんな人間だったのか知らなかったことを思い出す。
「ジャスミンが彼氏と言っていた男のことですが、少し聞いてもいいですか?」
私たちはまた、先日のように文化部の控室にいた。今日もこの場に綾崎さんはいなかった。彼女は授業の単位に直結する課題が終わらないと言って、授業が終わるとすぐに大学の図書室に駆け込んでいた。私たちが取っていない、駒沢の専門授業の課題らしい。今日もまた、控室には私たち二人だけとなった。文化部が使っていいという控室だが、利用する人はあまり多くなく、特に今の時期は、皆、課題やテスト勉強をするために図書室に行ったり、家に帰ったりする人が多いようだ。控室を利用するのは私たちくらいのものだった。
ジャスミンは私の質問に少し考えていたが、それでも答えることに問題はないようだった。
「別に聞いてもらってもいいけど、彼氏っていう響きはなんかむかつくわ。『あの男』とでも言ってくれるかしら」
「わかりました。それで、『あの男』についてですが、彼は、どんな人物だったのでしょうか。私は少ししか会っていないので、よくわからないのですが、ジャスミンから見て、『あの男』はどんな性格だったのですか」
ジャスミンがあの男との出会いを話してくれたが、それだけではまだ彼のことがつかめない。もっと詳しく聞けば、何かわかるかもしれない。
「そんなこと聞いて意味あるのかしら?だって、蒼紗が言うには、『あの男』はすでに死んでいるのでしょう。死者のことを知ろうとする必要があるとは思えないけど」
「やあ、面白い話をしているようだね。僕も混ぜてもらってもいいかな?」
「げっ、西園寺雅人!」
「その反応は傷つくなあ。僕、これでも女子からモテてるんだけどね。そんなに嫌がられるのは三度目だよ」
「それで、何の用事ですか」
西園寺雅人が突然、前触れもなく控室の扉を開けて入ってきた。この男の行動には驚かされてばかりである。今回は一体何の用事でここに来たのだろうか。
「そんなに警戒しないでよ。ここでどうこうしようとか思ってはいないよ。だって、大学内で何かあったらダメでしょう?」
西園寺雅人は一人で控室に入ってきた。今日はお供の人がいないようだ。西園寺雅人の言っていることは一理ある。大学内で何か事件が起これば警察が入り、大事となる。それを避けようとでも言うのだろうか。とはいえ、彼は倒産したとはいえ、西園寺家の跡取り息子の一人だった男だ。大学内での騒動などもみ消すことくらい造作もないに違いない。大学内だからといって油断はできない。
「だから、そんなに警戒しないで。今回は、朔夜さんの友達のせいで、いろいろ計画が狂ってしまったことについての話なんだけど、どう責任を取ってくれるのかな?」
「責任っていったい何のことかしら?私はただ、あのくそ男に呼ばれた場所に行ったら、殺されそうになって、その場から逃げただけよ」
西園寺雅人の意味深な言葉や、九尾が言っていたことを思い出す。彼らの言葉を合わせていくと、一つの仮説が浮かび上がる。
「もしかして、ジャスミンの元カレが亡くなったのは、あなたたち西園寺家のせ……」
「それは、口にしない方が賢明だよ。口は災いの元ともいうしね。とりあえず、僕の話を聞いてみたいとは思うだろう?」
「聞いてみたいとは思いますが、それを聞かせる理由は何ですか。ただで情報を与えるなんてことをあなたがするとは思えま」
「一応、あの男は私の彼氏だったから、彼のことを話してくれるというなら、話は聞こうじゃないの。私と蒼紗の二人で話を聞いてもいいかしら?」
私が西園寺雅人に返事をしている最中に、ジャスミンが私の言葉にかぶせるように話し出す。
「もちろん、二人で一緒に話を聞いても構わないよ。もうすぐ帰宅時間になると思うから、大学近くのファミレスで落ち合おう。ファミレスで夕食でも食べながら、ゆっくりと語り合おう」
西園寺雅人は、私たちと約束だけ取り付けて、その場を去っていった。
「蒼紗、私、あのガキの上から目線に腹が立つけど、一発殴ってもいいかしら?
「腹が立つのは同感ですが、それをやってはいけませんよ。ここは大人として冷静に」
「いや、蒼紗も、冷静になりなさい。紙コップがすごいことになってるわよ。中身が空で幸いだったわね」
私も冷静さを失っていたようだ。手に持っていた紙コップが握りつぶされていた。
「そういえば、受験の悪魔が起こしたと言われる事件を、ここ最近聞かなくなりましたね」
「確かに聞かなくなったわね。でも、受験の悪魔、なんて言うからには、まだまだ被害は出てもよさそうよね。だって、今からが受験本番って感じでしょう。中学受験も高校受験も、私たちが頑張った大学受験も三月に行われるもの。まあ、大学は二月の終わりだけど。それなのに、聞かなくなったのは変な気がするわ」
ジャスミンの彼氏が亡くなったと同時に噂を聞かなくなったということは、「受験の悪魔」とやらに、彼が関与していたということだろうか。彼が亡くなって噂を聞かなくなったなんて、それしか考えられない。それなら、何が目的で行っていたのか理由を知る必要がある。
私に興味があり、尊敬していて近づきたいから、ジャスミンに接近したこと、受験の悪魔。はたから見たら関係のない二つだが、もしかしたら、彼のなかでは何か関連付けがあったのかもしれない。ジャスミンに彼氏がいたことを秘密にされて、結局、亡くなった彼がどんな人間だったのか知らなかったことを思い出す。
「ジャスミンが彼氏と言っていた男のことですが、少し聞いてもいいですか?」
私たちはまた、先日のように文化部の控室にいた。今日もこの場に綾崎さんはいなかった。彼女は授業の単位に直結する課題が終わらないと言って、授業が終わるとすぐに大学の図書室に駆け込んでいた。私たちが取っていない、駒沢の専門授業の課題らしい。今日もまた、控室には私たち二人だけとなった。文化部が使っていいという控室だが、利用する人はあまり多くなく、特に今の時期は、皆、課題やテスト勉強をするために図書室に行ったり、家に帰ったりする人が多いようだ。控室を利用するのは私たちくらいのものだった。
ジャスミンは私の質問に少し考えていたが、それでも答えることに問題はないようだった。
「別に聞いてもらってもいいけど、彼氏っていう響きはなんかむかつくわ。『あの男』とでも言ってくれるかしら」
「わかりました。それで、『あの男』についてですが、彼は、どんな人物だったのでしょうか。私は少ししか会っていないので、よくわからないのですが、ジャスミンから見て、『あの男』はどんな性格だったのですか」
ジャスミンがあの男との出会いを話してくれたが、それだけではまだ彼のことがつかめない。もっと詳しく聞けば、何かわかるかもしれない。
「そんなこと聞いて意味あるのかしら?だって、蒼紗が言うには、『あの男』はすでに死んでいるのでしょう。死者のことを知ろうとする必要があるとは思えないけど」
「やあ、面白い話をしているようだね。僕も混ぜてもらってもいいかな?」
「げっ、西園寺雅人!」
「その反応は傷つくなあ。僕、これでも女子からモテてるんだけどね。そんなに嫌がられるのは三度目だよ」
「それで、何の用事ですか」
西園寺雅人が突然、前触れもなく控室の扉を開けて入ってきた。この男の行動には驚かされてばかりである。今回は一体何の用事でここに来たのだろうか。
「そんなに警戒しないでよ。ここでどうこうしようとか思ってはいないよ。だって、大学内で何かあったらダメでしょう?」
西園寺雅人は一人で控室に入ってきた。今日はお供の人がいないようだ。西園寺雅人の言っていることは一理ある。大学内で何か事件が起これば警察が入り、大事となる。それを避けようとでも言うのだろうか。とはいえ、彼は倒産したとはいえ、西園寺家の跡取り息子の一人だった男だ。大学内での騒動などもみ消すことくらい造作もないに違いない。大学内だからといって油断はできない。
「だから、そんなに警戒しないで。今回は、朔夜さんの友達のせいで、いろいろ計画が狂ってしまったことについての話なんだけど、どう責任を取ってくれるのかな?」
「責任っていったい何のことかしら?私はただ、あのくそ男に呼ばれた場所に行ったら、殺されそうになって、その場から逃げただけよ」
西園寺雅人の意味深な言葉や、九尾が言っていたことを思い出す。彼らの言葉を合わせていくと、一つの仮説が浮かび上がる。
「もしかして、ジャスミンの元カレが亡くなったのは、あなたたち西園寺家のせ……」
「それは、口にしない方が賢明だよ。口は災いの元ともいうしね。とりあえず、僕の話を聞いてみたいとは思うだろう?」
「聞いてみたいとは思いますが、それを聞かせる理由は何ですか。ただで情報を与えるなんてことをあなたがするとは思えま」
「一応、あの男は私の彼氏だったから、彼のことを話してくれるというなら、話は聞こうじゃないの。私と蒼紗の二人で話を聞いてもいいかしら?」
私が西園寺雅人に返事をしている最中に、ジャスミンが私の言葉にかぶせるように話し出す。
「もちろん、二人で一緒に話を聞いても構わないよ。もうすぐ帰宅時間になると思うから、大学近くのファミレスで落ち合おう。ファミレスで夕食でも食べながら、ゆっくりと語り合おう」
西園寺雅人は、私たちと約束だけ取り付けて、その場を去っていった。
「蒼紗、私、あのガキの上から目線に腹が立つけど、一発殴ってもいいかしら?
「腹が立つのは同感ですが、それをやってはいけませんよ。ここは大人として冷静に」
「いや、蒼紗も、冷静になりなさい。紙コップがすごいことになってるわよ。中身が空で幸いだったわね」
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