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25私のせいですか
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「さて、これで心置きなく話を進められるな。狼貴もここに居るのだろう」
「うわ。狼貴君。今までどこにいたの?」
「……」
いきなり狼貴君がその場に現れた。やはり、彼らは人間ではない。
「面倒なことになったものだ。我はただ、人間に縛られることなく、自由気ままに生きていきたいだけなのに」
「それは同感ですが、これ以上、蒼紗さんに迷惑をかけないでください。僕のことを気まぐれで助けてくれたのは、感謝しています。しかし、それとこれとは話が別です。蒼紗さんにも僕は助けられていますから」
「同感。彼女に迷惑はかけたくない」
翼君の姿はいつものケモミミ少年に戻り、ウサギの耳がぴんと立っていた。こわばった表情で九尾に反抗していた。狼貴君もケモミミ少年姿で狼の耳がぴんと立っていた。九尾もいつの間にかケモミミ少年へと姿を戻していた。ふさふさした九つに分かれていた尻尾は一本に減り、一本となった尻尾がふさふさと揺れていた。
「そう怒るな。別に我も、主に迷惑をかけたいとは思っていない」
私たちが話をしていると、リビングの床でうめき声が聞こえた。すっかり忘れていたが、ジャスミンの彼氏を私の家に連れてきて、床に転がしていたのだった。
「こ、ここは……」
焦点の合わない瞳であたりを見渡しているうちに、目が覚めたのだろう。自分が見知らぬ家に居ることに気付くと、慌てて起き上がろうとするが、突然起き上がろうとしたため、めまいがしたのか、ふらついてまた床に倒れこむ。ごんと痛い音がした。男はまた気を失ってしまった。
「この男のことは放っておくとして、少し話をしておこう。主の部屋で話すことにしよう」
「ええと、男のことはこのままでいい……」
「狼貴」
私が話し終える前に、九尾に名前を呼ばれた狼貴君が、無言で手に持っていたロープで男を縛りあげる。さらには、猿ぐつわまでかましていた。
「これでいいだろう。我たちが話をしている間、おとなしくしてもらうことにした」
ずいぶん厳重な拘束だ。狼貴君が使っていたロープなどの出どころが気になるが、突っ込んで聞くことはしなかった。
私たちは、二階にある私の部屋にあがって、九尾の話を聞くことにした。
「まずは、さっきの男たちの正体だが、あれは、西園寺家を護衛していた奴らだな。ガタイもよかったし、何より、我のことを見ても、驚きもしていなかっただろう?」
「確かに九尾のことを見ても、驚いていませんでしたが、それなら、どうして西園寺家の護衛の人たちが私の家に来たのですか?」
「決まっておろう。我とお主の確保だ」
九尾は彼らの目的をはっきりと言い切った。九尾の確保については頷けるが、私も西園寺家に確保される必要がわからない。
「簡単な話だ。我が主を気に入ったからだ。お主を確保すれば、我が西園寺家に従うと思っておるようだぞ」
九尾は私の心を読んで疑問を解決する。とはいえ、私を確保したところで、九尾が西園寺家に従うとは思えないが。
「現に九尾は蒼紗さんの家にもう、半年ほど居候しています。僕も同じですが……。ということは、それだけ蒼紗さんに九尾が執着しているということになります」
「死んだ」
話の途中で、狼貴君が唐突につぶやいた。いきなり何の前触れもなくつぶやかれた言葉は、小さいながらも、私の部屋に響き渡った。
「しん、だとは……」
「そのままの意味だ。下にいる男が死んだ。翼もそこの狐も気付いた」
「ふうむ。やはり、下で転がっている男もまた、西園寺家の使いのものだったのかもしれん。いや、違うか。西園寺家ではなく、直接あやつが使えると判断した駒だったが、利用価値がなくなって殺された、が正しいかもしれんな」
「下にいる男、まさか……。そんな、見てもないのにどうしてそんなことが。先ほど、狼貴君が拘束しているときは生きていましたよね?」
狼貴君もそうだが、九尾もいきなり何を言い出すのだろうか。死んだ?下の男とは、ジャスミンの彼氏がたったいま、亡くなったというとでも言うのだろうか。
「あやつは容赦がないからな。これで、男から直接話を聞けなくなってしまったわけだ。とはいえ、急に死んだのは、あやつがかかわっていると言っているようなものだ」
「どうしますか。このままここにおいておけば、蒼紗さんが殺人犯になってしまいます」
「それは困る。我はまだこの家に居候したいのでな。外に捨てておくのはどうだ。死因がわからぬように、海にでも山にでも遺棄すれば問題はなかろう。どうせ、あやつが目につけた人間。いきなりいなくなっても、誰も探しはしないだろう」
九尾と翼君は、階下で亡くなっているだろう男について、遺体の処理をどうするか話している。一番に亡くなっていると報告した狼貴君も顔色一つ変えずに二人の話を聞いている。このままこの場にとどまって話を聞いていたら、気がおかしくなってしまう。人が一人死んでいるかもしれない状況に、私以外、驚きもせず、動揺もしていない。
「ちょっと、下を見てきます!」
自ら男の状況を確認するという名目で、私は部屋を出る。私を止める者はおらず、九尾たちは私のことは気にせず、話を続けていた。
「事態は面倒なことになっている。いっそのこと、我が直接あやつに会いに行くということもできるが、それはそれで、不快だな。神である我が、わざわざ会いに行く必要があるのかというと、答えは、否、だ」
「ですが、これ以上、蒼紗さんに」
「早期解決を求める」
「本当に主は愛されておるなあ。仕方ない。では、特別に我自ら出迎えてやるか」
部屋を出て、扉を閉めると、一つ深呼吸をする。気持ちを落ち着かせてから、階段を下りて、急いでリビングにいる男のもとに駆け寄った。生死の確認のため、首筋に手を当てて脈を計る。狼貴君の言葉が間違いであって欲しいという願いはあっけなく崩れ去った。
「ほ、本当に死」
「だから言っておろう。狼貴が言ったとおりだ。確認するまでもない。ああ、触ってしまったのか。お主の指紋が残っていては、お主が犯人と疑われてしまう」
話は終わったのか、私の後ろには九尾が無表情で立っていた。後ろを振り返ると、翼君と狼貴君もいた。九尾は私が触った男の首元に手を立てると、何やらぶつぶつとつぶやいた。男の首元が発光して、すぐに光は消える。
「これでよい。翼に狼貴。こいつをどこか、人目につかないところに遺棄しておけ」
「わかりました」
「わかった」
「ちょっ、ちょっと待ってください!」
あまりにも無情な九尾の言葉に慌てて言葉をかける。なんだと言わんばかりの態度にいろいろな感情があふれ出る。言いたいことはたくさんあるのに、言葉にならない。
「……」
「たかが、人が一人死んだくらいで動揺するなんて、お主はまだまだ人間のままだな。彼らの方が人間をやめてまだそれほど立っていないのに、よほど割り切れている」
わかっている。私も長いこと生きてきて、人の死をたくさん見てきた。それでも、理不尽に人が亡くなっている状況に目をつむるほど非常にはなりきれない。
「大丈夫だ。主に被害が及ばないようにしておく。そのためにそこの死体をすててくるのだから」
話はこれで終わりとばかりに九尾が二人に目配せすると、二人は頷き、男の身体を持ち上げ、その場から消えてしまった。
「うわ。狼貴君。今までどこにいたの?」
「……」
いきなり狼貴君がその場に現れた。やはり、彼らは人間ではない。
「面倒なことになったものだ。我はただ、人間に縛られることなく、自由気ままに生きていきたいだけなのに」
「それは同感ですが、これ以上、蒼紗さんに迷惑をかけないでください。僕のことを気まぐれで助けてくれたのは、感謝しています。しかし、それとこれとは話が別です。蒼紗さんにも僕は助けられていますから」
「同感。彼女に迷惑はかけたくない」
翼君の姿はいつものケモミミ少年に戻り、ウサギの耳がぴんと立っていた。こわばった表情で九尾に反抗していた。狼貴君もケモミミ少年姿で狼の耳がぴんと立っていた。九尾もいつの間にかケモミミ少年へと姿を戻していた。ふさふさした九つに分かれていた尻尾は一本に減り、一本となった尻尾がふさふさと揺れていた。
「そう怒るな。別に我も、主に迷惑をかけたいとは思っていない」
私たちが話をしていると、リビングの床でうめき声が聞こえた。すっかり忘れていたが、ジャスミンの彼氏を私の家に連れてきて、床に転がしていたのだった。
「こ、ここは……」
焦点の合わない瞳であたりを見渡しているうちに、目が覚めたのだろう。自分が見知らぬ家に居ることに気付くと、慌てて起き上がろうとするが、突然起き上がろうとしたため、めまいがしたのか、ふらついてまた床に倒れこむ。ごんと痛い音がした。男はまた気を失ってしまった。
「この男のことは放っておくとして、少し話をしておこう。主の部屋で話すことにしよう」
「ええと、男のことはこのままでいい……」
「狼貴」
私が話し終える前に、九尾に名前を呼ばれた狼貴君が、無言で手に持っていたロープで男を縛りあげる。さらには、猿ぐつわまでかましていた。
「これでいいだろう。我たちが話をしている間、おとなしくしてもらうことにした」
ずいぶん厳重な拘束だ。狼貴君が使っていたロープなどの出どころが気になるが、突っ込んで聞くことはしなかった。
私たちは、二階にある私の部屋にあがって、九尾の話を聞くことにした。
「まずは、さっきの男たちの正体だが、あれは、西園寺家を護衛していた奴らだな。ガタイもよかったし、何より、我のことを見ても、驚きもしていなかっただろう?」
「確かに九尾のことを見ても、驚いていませんでしたが、それなら、どうして西園寺家の護衛の人たちが私の家に来たのですか?」
「決まっておろう。我とお主の確保だ」
九尾は彼らの目的をはっきりと言い切った。九尾の確保については頷けるが、私も西園寺家に確保される必要がわからない。
「簡単な話だ。我が主を気に入ったからだ。お主を確保すれば、我が西園寺家に従うと思っておるようだぞ」
九尾は私の心を読んで疑問を解決する。とはいえ、私を確保したところで、九尾が西園寺家に従うとは思えないが。
「現に九尾は蒼紗さんの家にもう、半年ほど居候しています。僕も同じですが……。ということは、それだけ蒼紗さんに九尾が執着しているということになります」
「死んだ」
話の途中で、狼貴君が唐突につぶやいた。いきなり何の前触れもなくつぶやかれた言葉は、小さいながらも、私の部屋に響き渡った。
「しん、だとは……」
「そのままの意味だ。下にいる男が死んだ。翼もそこの狐も気付いた」
「ふうむ。やはり、下で転がっている男もまた、西園寺家の使いのものだったのかもしれん。いや、違うか。西園寺家ではなく、直接あやつが使えると判断した駒だったが、利用価値がなくなって殺された、が正しいかもしれんな」
「下にいる男、まさか……。そんな、見てもないのにどうしてそんなことが。先ほど、狼貴君が拘束しているときは生きていましたよね?」
狼貴君もそうだが、九尾もいきなり何を言い出すのだろうか。死んだ?下の男とは、ジャスミンの彼氏がたったいま、亡くなったというとでも言うのだろうか。
「あやつは容赦がないからな。これで、男から直接話を聞けなくなってしまったわけだ。とはいえ、急に死んだのは、あやつがかかわっていると言っているようなものだ」
「どうしますか。このままここにおいておけば、蒼紗さんが殺人犯になってしまいます」
「それは困る。我はまだこの家に居候したいのでな。外に捨てておくのはどうだ。死因がわからぬように、海にでも山にでも遺棄すれば問題はなかろう。どうせ、あやつが目につけた人間。いきなりいなくなっても、誰も探しはしないだろう」
九尾と翼君は、階下で亡くなっているだろう男について、遺体の処理をどうするか話している。一番に亡くなっていると報告した狼貴君も顔色一つ変えずに二人の話を聞いている。このままこの場にとどまって話を聞いていたら、気がおかしくなってしまう。人が一人死んでいるかもしれない状況に、私以外、驚きもせず、動揺もしていない。
「ちょっと、下を見てきます!」
自ら男の状況を確認するという名目で、私は部屋を出る。私を止める者はおらず、九尾たちは私のことは気にせず、話を続けていた。
「事態は面倒なことになっている。いっそのこと、我が直接あやつに会いに行くということもできるが、それはそれで、不快だな。神である我が、わざわざ会いに行く必要があるのかというと、答えは、否、だ」
「ですが、これ以上、蒼紗さんに」
「早期解決を求める」
「本当に主は愛されておるなあ。仕方ない。では、特別に我自ら出迎えてやるか」
部屋を出て、扉を閉めると、一つ深呼吸をする。気持ちを落ち着かせてから、階段を下りて、急いでリビングにいる男のもとに駆け寄った。生死の確認のため、首筋に手を当てて脈を計る。狼貴君の言葉が間違いであって欲しいという願いはあっけなく崩れ去った。
「ほ、本当に死」
「だから言っておろう。狼貴が言ったとおりだ。確認するまでもない。ああ、触ってしまったのか。お主の指紋が残っていては、お主が犯人と疑われてしまう」
話は終わったのか、私の後ろには九尾が無表情で立っていた。後ろを振り返ると、翼君と狼貴君もいた。九尾は私が触った男の首元に手を立てると、何やらぶつぶつとつぶやいた。男の首元が発光して、すぐに光は消える。
「これでよい。翼に狼貴。こいつをどこか、人目につかないところに遺棄しておけ」
「わかりました」
「わかった」
「ちょっ、ちょっと待ってください!」
あまりにも無情な九尾の言葉に慌てて言葉をかける。なんだと言わんばかりの態度にいろいろな感情があふれ出る。言いたいことはたくさんあるのに、言葉にならない。
「……」
「たかが、人が一人死んだくらいで動揺するなんて、お主はまだまだ人間のままだな。彼らの方が人間をやめてまだそれほど立っていないのに、よほど割り切れている」
わかっている。私も長いこと生きてきて、人の死をたくさん見てきた。それでも、理不尽に人が亡くなっている状況に目をつむるほど非常にはなりきれない。
「大丈夫だ。主に被害が及ばないようにしておく。そのためにそこの死体をすててくるのだから」
話はこれで終わりとばかりに九尾が二人に目配せすると、二人は頷き、男の身体を持ち上げ、その場から消えてしまった。
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