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16バレンタインは誰にチョコをあげますか

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 冬休みが明けて、一月も終わりに近づき、店ではチョコレートが大々的に売り出される季節となった。

「それでは、今から第一回バレンタイン会議を始めたいと思います」

 どうしてこうなったのか。私とジャスミン、綾崎さん、九尾に翼君、狼貴君の六人が、私の家のリビングに一堂に会していた。私とジャスミン、綾崎さん人間が三人、九尾たち人外が三人の六人が一つのテーブルを囲んで座っていた。ジャスミンが声高らかにその場にいる全員に聞こえるような大声で宣言した。





 ことの発端は、ジャスミンだった。

「蒼紗は、誰かチョコをあげる予定の人はいるかしら?」

「チョコですか。なんの話ですか。誰か、甘いもの好きでもいましたか?」

「蒼紗って、よくここまで無事に生きてこれたものだわ。その世間から離れている感じは嫌いじゃないけど、もっと世間に近づく努力をした方がいいと思うわよ」


 大学の食堂で、三人で昼食を食べていた時のことだ。ジャスミンが唐突に問いかけた質問が始まりだった。ちなみに本日の服装は、冬ということで、もこもこの白い衣装で身を包み、ウサギの耳のついたパーカーを着ていた。白うさぎのイメージだ。ジャスミンも同じように白いもこもこのパーカーを着ていたが、私よりももこもこしていて、さらにもこもこした白いスカートで、まるで雪だるまのようだった。

「蒼紗さんは世間からずれている天然さんで、その天然さが魅力の一つなので、世間に近づく努力は不要です!」

 私の答えた回答は、ジャスミンのお気に召さなかったようだ。綾崎さんからは、本人はほめているつもりらしい、謎の発言をされてしまった。

「チョコの話ですよね。いったい、何が言いたいんですか?」


『バレンタインに決まっているでしょう』

 ジャスミンと綾崎さんの声が見事にハモり、食堂に木霊した。はっと周りを見るが、時すでに遅し。二人の大声によって、私たちは注目されてしまった。いたたまれなくなり、私は思わず言ってしまったのだ。

「話は私の家で聞きます」と。

自分の発言に後悔するも、言ってしまった手前、やっぱり私の家はダメですなんて言える雰囲気はなく、ジャスミンも綾崎さんも意気揚々に私についてきた。せめてもと思い。九尾たちが家に居ませんようにとの願いむなしく、家には、ケモミミ少年姿の人外三人が待っていた。







 そして、今の状況に至る。いつの間にか戻ってきた九尾と狼貴君、家に居た翼君もなぜか、ジャスミンたちの話が面白そうだと思ったのか、自分たちの部屋に戻ることなく、私たちと同じ場所にいるのだった。

「会議って、バレンタインに何の会議がいるんでしょうか。バレンタインは知っていますよ。二月十四日に、女性が好きな男性にチョコをプレゼントする日でしょう。個人個人、思い思い好きな人に送ればいいだけなのに、どうして『会議』する必要が……」

「蒼紗さん、そこの三人の少年は一体誰なのですか!こんな大きな子供がいるなんて聞いていませんよ!」

「いるわけないでしょう」

 会議の必要性をジャスミンに問いかけたのに、綾崎さんの叫びで私の叫びは掻き消されてしまった。綾崎さんの言葉は即座に否定した。

「子どもではないぞ。名前がちゃんとある。我は九尾。そこの二人は翼に狼貴だ。覚えておくといい。小娘よ」

 子供と言われて、それを否定して自己紹介を始める九尾。翼君と狼貴君は、九尾に紹介されて、ぺこりと頭を下げる。それを見届け、九尾はバレンタインに興味があるのか、言葉を続ける。

「それにしても、ばれんたいんとは、面白い行事だな。我もチョコをもらいたいものだ」

『九尾は一度黙ってください』

 どうにも、私の周りには我の強い者が多いらしい。とりあえず、九尾たちがこの家に居る説明を綾崎さんにすることが先決である。





「蒼紗さんの子供でないとすると、そこの子供たちはいったい……」

 私が大声を出したのでびっくりしたのか、恐る恐るといった感じで綾崎さんが再度、九尾たちの説明を私に求めた。さて、どうやって紹介したらいいだろうか。まさか、九尾が本当は神様で、翼君と狼貴君がその眷属というわけにもいかない。それに、この姿で会うのは初めてだが、以前大学で、青年姿の九尾と翼君には会ったことがあるのだ。そこら辺の説明もしなければならず、ますます説明するのが難しい状況となっていた。


「ああ、こいつらは気にしなくても大丈夫よ。蒼紗が好きすぎて家出してきた、悪ガキ三人組だから。怪しいけど、怪しくないから」

 ジャスミンが雑に九尾たちの説明を始めた。そんな適当な話を信じる人はいない。さすがにその説明で綾崎さんが納得してくれるとは思えないが。

「蒼紗さんが好きとは、この子たちはわかっていますね。わかりました。佐藤さん、話を続けてください」

 なぜか綾崎さんは、ジャスミンの雑な説明に納得してしまった。そんな簡単に人の話を信じていいのか。しかし、本当のことを聞かれても説明できないので、納得してくれるならばそれに越したことはない。しかし、一つ大きな問題があった。

「蒼紗さんが好きということは、その耳や尻尾は蒼紗さんの趣味ということですか?蒼紗さんって、いつもコスプレをしていますが、他人にも強いる趣味だったのですね。今日、また新たに蒼紗さんについて知ることができました!」

『私の趣味ではありません!』

 綾崎さんが変な方向に私を認識してもらっては困るので、そこは全力で否定させてもらった。確かに今の九尾たちを見れば、その可能性も否定はできないが、私が言い出したのではない。彼らの元の姿であるので、断じて私の趣味ではない。

「うむ。この姿に興奮しているのは否めぬが、我たちがこの姿をしているのは元からだ」

「元から!」

「そうだ。この前、娘とは大学で会っただろう。あの時にいた青年が我たちの兄弟だ。あやつらが我たちにこの姿を強要しておる」

 もう、どこから突っ込んでいいのかわからなくなった。そもそも、大学での姿は九尾たちが変身した姿で、元の姿がケモミミ少年だ。似ているのは当たり前だ。そんな説明で……。

「なるほど。以前に大学で出会った彼らも蒼紗さんのことが好きということですね。そうですか。蒼紗さんはケモミミ姿に萌えるということですか。それなら、私も明日から、大学ではケモミミ少女として通すことに……」

 綾崎さんのことは、ジャスミンよりはまともだと思っていたが、その認識を修正する必要がある。ジャスミンと同等、もしくはそれ以上のおかしい人であると認識することにした。



 綾崎さんが九尾たちに関して納得してもらったことで、ジャスミンが話を再開する。

「では、話を戻しますが、今年のバレンタインについてですが、皆がそれぞれ、蒼紗にチョコを渡すということに決定いたしました!バレンタイン当日は、蒼紗の家に集まって、皆で蒼紗にチョコを渡しましょう。その中で、一番を蒼紗に決めてもらいます!」

 会議と言っておきながら、ジャスミンの中ではすでに結論が出ていたようだ。会議の意味を知っているのだろうか。

「ジャスミンは彼氏がいたでしょう。彼氏のことはいいのですか?」

「何をバカなことを言っているのかしら。私の優先順位は、蒼紗が一番に決まっているでしょう」

「それはいいアイデアです。ですが、蒼紗さんの言う通り、佐藤さんは、バレンタインを彼氏さんと過ごすべきです。チョコは私が佐藤さんの分まで愛をこめて作りますので、蒼紗さんのチョコの心配は無用です」


「綾崎さん、綾崎さんも大学生にもなって、彼氏の一人も作らず、私のような人間と一緒に過ごすことはありません。バレンタイン当日まで一緒に過ごす必要も、私にチョコを準備する必要はないです!」







「ということで、バレンタイン会議とやらはここで終了です。明日も大学があるし、課題もテスト勉強もしなくてはいけないでしょう」

 これ以上、こんな無駄な話をしていてはたまらない。私はここで、無理やりバレンタイン会議とやらを強制終了させて、ジャスミンと綾崎さんを家に帰したのだった。

 二人を私の家から強制的に追い出した後、ふとジャスミンの彼氏のことを思い出す。

「ジャスミンは彼氏とうまくいっていないのだろうか?」

 この時、もっと彼女の彼氏について意識を向けていればよかったと思うことになるが、この時の私は知る由もなかった。
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