上 下
9 / 45

9休み明けは波乱とともに

しおりを挟む
 冬休みが終わり、今日から大学が始まる日だ。冬休みはあっという間に終わってしまったが、京都で過ごした冬休みは、いろいろあったが楽しい思い出となった。最近では珍しく、年始年末を一人で過ごすことはなかった。九尾や翼君、狼貴君、雨水君と一緒に大みそかには、彼らと一緒にカウントダウンをして年始を祝ったり、京都の神社で人ごみの中での初詣などを体験したりした。

 ここ最近の年始年末の過ごし方と比べると、雲泥の差だった。自分の体質に気付き、周囲とはなるべく関わらないようにしながら、いつ仕事を転職してもいいように、人付き合いは最低限を心がけ、波風絶たないように平穏に過ごしてきた。

 当然、年始年末を誰かと過ごすことはなかったので、今年の年始年末の過ごし方を過去の私が見たら、驚いているだろう。

 ちなみに、クリスマスを私と一緒に過ごしたかったジャスミンと綾崎さんだが、彼女たちの願いは成就されたと言える。日帰りとはいえ、クリスマスを一緒に京都観光したり、食事をしたりしたので、少しは満足してくれたと思う。

 結局、京都での滞在期間中は、雨水君の実家にお世話になった。雨水君は現在、実家でアルバイトをしているらしい。雨水君の両親は冬休みに海外旅行に出かけているようで、私たちが泊まっても問題がなかったようだ。




 冬休みの出来事を思い出しながら、私は大学に着くと、今日も更衣室でコスプレの準備をする。今日の衣装は、正月明けということで、巫女さんにした。白と赤のコントラストが正月らしくて華やかだ。更衣室を出ると、ちょうどジャスミンと綾崎さんと出会った。


「あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします」

「あ、あけましておめでとうございます。蒼紗さん。今年もどうか不出来な私ですがよろしくおねがい」

「あけましておめでとう。こちらこそ、蒼紗になら、よろしくお願いされなくても、お願いしちゃうわよ。ちょっと、綾崎さん、そこをどいて頂戴。蒼紗の隣に立たないでもらえるかしら。邪魔だから」

「く、苦しいので、一度離れてもらえますか?」


 久しぶりに会うジャスミンと綾崎さんに私は抱き着かれていた。私は今、絶賛モテキのようだ。ただし、変な女性に限るという制約付きだ。珍しく、綾崎さんもジャスミンも私と同じ格好をしていた。今日は、三人そろって、巫女さんの姿となっていた。

 私の言葉を聞き、二人は少しだけ抱き着く力を緩めたが、私から離れてはくれなかった。仕方ないので、そのままじっとしていたのだが、つい今日の服装について言葉をこぼしていた。

「今日は、おそろいですね」

 ぼそっとつぶやいた言葉はしっかりと拾われていた。

「そうなの。正月といえば、初詣。それで、きっと正月明けだからきっと蒼紗は巫女装束で来ると踏んでいたわけ。そこの似非巫女の事情は知らないけど」

「私も不本意ながら、同じ考えです」

 ようやく、二人は私から離れていく。二人曰く、会えなかった分の『蒼紗成分』の補給らしい。それが満たされたようだ。


「それにしても、正月に入ってからずいぶんと寒いわねえ。こうも寒いと気が滅入るね」

 再開のハグが終わり、一限目の授業に向かう途中で、ジャスミンが身体を震わせて最近の気候について文句を言う。

「私は結構、寒いのは得意な方ですが、それでも正月明けからの寒さは異常だと思います」

「寒さもありますが、雪も例年より多い気がしますから、これも地球温暖化の影響とでも言うのでしょうか。早く暖かくなって欲しいものですよ!」



「朔夜さん、朔夜さんの、大学での話が面白かったから、どんなところから見に来ちゃいました!」

 寒い寒いと、口にしながらも廊下を歩いていると、大学で聞くことはないだろう声が廊下に響き渡る。声をかけてきたのは、つい先日あったばかりの、西園寺家の次期当主として、西園寺桜華に次ぐ候補に挙げられていた、西園寺雅人(さいおんじまさと)だった。

「あ、あなたはもしかして……」

 綾崎さんは西園寺雅人のことを知っているようだった。西園寺グループの血縁者なのだから、有名で当然なのだろうか。私はその手のことに詳しくないので、西園寺雅人の顔を見たのは、京都での滞在が初めてだった。


「雅人君ってまだ高校生でしたよね?高校に行かず、こんなところにいて大丈夫なのですか?」

 西園寺雅人の年齢を思い出して、私は心配になる。確か、今年で高校三年生になると言っていた気がする。それが本当なら今年は受験をするか、就職するか、いろいろ大変な時期である。

「大丈夫ですよ。僕は成績がいいので、大学も推薦がもらえていますから。僕のことを心配してくれたんですか。うれしいなあ」


「すまない。朔夜。止めようとしたんだが、どうにもこいつには逆らえなくて」

 後ろからひょっこり顔を出したのは雨水君だった。私たちの町を近い内に訪れるとは、西園寺雅人の護衛としてということだったのだろうか。


「ひどいなあ、静流は。でもまあ、ここはいいね。自由だから何でもできそうだ。それに、あいつもいる」


「ど、どうして、こんなところに西園寺グループ血縁の子供が」

「蒼紗あ。説明してもらおうかしら?私の居ないところで、また人をたらしこんだのねえ」

 綾崎さんは、西園寺雅人がここに居ることにひどく動揺し、ジャスミンは私に詰め寄って理由を説明しろと圧をかけてくる。雨水君は困ったような顔でしきりにすまないと謝ってくる。西園寺雅人は、大学が珍しいのか、辺りをキョロキョロ見渡していた。




 
 スマホでこっそり、現在の時刻を確認すると、すでに一限目の授業は始まっていた。ここに居る人たちを赤の他人と思い、私だけでも一限目の授業を受けようかと思ったが、すでに授業が始まっているし、このまま彼らを放置しておいても、ろくなことにならないことは目に見えている、


「はあ」

とりあえず、西園寺雅人には、大学に来ないように説得しなければならない。とっとと自分の地元の京都に帰って欲しい。


 窓から見える景色は、寒そうな雪空だった。いかにも雪が降りそうな、黒い雲に覆われた空が、私の今の気持ちを表しているようだった。

これは面倒事になりそうだと新年早々、疲れがたまる一日の始まりとなった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

朔夜蒼紗の大学生活④~別れを惜しむ狼は鬼と対峙する~

折原さゆみ
キャラ文芸
朔夜蒼紗(さくやあおさ)はこの春、大学2年生となった。今年こそは、平和な日常を過ごしたいと意気込むが、彼女にそんな日常は訪れることはない。 「蒼紗さん、私のサークルに新しい子が入りました!」 「鬼崎美瑠(おにざきみる)です」 「蒼紗さん、僕も大学に入学することになりました、七尾(ななお)です!」 大学2年生となり、新入生が入学するのは当然だ。しかし、個性豊かな面々が蒼紗の周りに集まってくる。彼女と一緒に居る綾崎の所属するサークルに入った謎の新入生。蒼紗に興味を持っているようで。 さらには、春休みに出会った、九尾(きゅうび)の元眷属のケモミミ少年もなぜか、大学に通うことになっていた。 「紅犬史(くれないけんし)です。よろしくお願いします」 蒼紗がアルバイトをしている塾にも新しい生徒が入ってきた。この塾にも今年も興味深い生徒が入学してきて。 さらには、彼女の家に居候している狼貴(こうき)君と翼(つばさ)君を狙う輩も現れて。アルバイト先の上司、死神の車坂(くるまざか)の様子もおかしいようだ。 大学2年生になっても、彼女の日常は平穏とは言い難いが、今回はどのような騒動に巻き込まれるのだろうか。 朔夜蒼紗の大学生活4作目になります。引き続き、朔夜蒼紗たちをよろしくお願いします。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

朔夜蒼紗の大学生活⑥

折原さゆみ
キャラ文芸
大学二年の夏休みが終わり、後期が始まった。後期最初のイベントいえば文化祭。そこにある特別ゲストが参加するらしい。彼の名前は【西炎(さいえん)】。二年目の後期も波乱に満ちたものになりそうだ。 朔夜蒼紗の大学生活シリーズ第6作目になります。サブタイトルは決まり次第、付け加えます。 初見の方は、ぜひ1作目から目を通していただけると嬉しいです。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

【NL】花姫様を司る。※R-15

コウサカチヅル
キャラ文芸
 神社の跡取りとして生まれた美しい青年と、その地を護る愛らしい女神の、許されざる物語。 ✿✿✿✿✿  シリアスときどきギャグの現代ファンタジー短編作品です。基本的に愛が重すぎる男性主人公の視点でお話は展開してゆきます。少しでもお楽しみいただけましたら幸いです(*´ω`)💖 ✿✿✿✿✿ ※こちらの作品は『カクヨム』様にも投稿させていただいております。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

骨董品鑑定士ハリエットと「呪い」の指環

雲井咲穂(くもいさほ)
キャラ文芸
家族と共に小さな骨董品店を営むハリエット・マルグレーンの元に、「霊媒師」を自称する青年アルフレッドが訪れる。彼はハリエットの「とある能力」を見込んで一つの依頼を持ち掛けた。伯爵家の「ガーネットの指環」にかけられた「呪い」の正体を暴き出し、隠された真実を見つけ出して欲しいということなのだが…。 胡散臭い厄介ごとに関わりたくないと一度は断るものの、差し迫った事情――トラブルメーカーな兄が作った多額の「賠償金」の肩代わりを条件に、ハリエットはしぶしぶアルフレッドに協力することになるのだが…。次から次に押し寄せる、「不可解な現象」から逃げ出さず、依頼を完遂することはできるのだろうか――?

恋する座敷わらし、あなたへの電話

kio
キャラ文芸
家では座敷わらしとの同居生活、学校では学生からのお悩み相談。 和音壱多《わおんいちた》の日常は、座敷わらしの宇座敷千代子《うざしきちよこ》に取り憑かれたことで激変していた。 これは──想いを"繋ぐ"少年と、恋する座敷わらしの、少し不思議で、ちょっとだけ切ない物語。

処理中です...