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第六章 真実と結末

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「明日で約束の一週間ですけど、今日、僕をここに呼びだしたのはなぜですか?」

 久瑠羽は、美彩の母親と向かい合わせにソファに座っていた。土曜日、久瑠羽は朝から美彩の家に来ていた。仕事部屋には久瑠羽と母親の二人きりだった。

あれから一週間、宣言通り、久瑠羽は知り合いの家々を転々として、兄と一緒に住んでいるマンションには一度も戻っていなかった。今日も知り合いの家からこの家にやってきた。

「たぶん、私の娘は、このままだと霊に身体を返してもらえないと思うの」

「それって、彼女の霊が美彩さんの身体を自分の物にしてしまうということですか?」

「簡単に言うとそうだけど、そんなことをすれば、双方によくないわ」

 母親は深いため息を吐いて、今の状況が芳しくないことを伝える。

「普通なら、元カノという立場から、彼とデートなり二人きりで過ごすなりして、満足して成仏するはず。そう思っていたのだけど、彼女の場合、それだけでは未練を解消できない可能性がでてきた。どうにも嫌な予感がする」

 久瑠羽は目の前の美彩の母親をじっと見つめる。嫌な予感がするという割には、あまり焦っていないように見える。娘が危険に晒されようとしているのに、久瑠羽を呼びだしてのんきに話をしている時点で、焦ってはいないのかもしれない。

「もし、彼女の霊が美彩に身体を返そうとせずにそのまま美彩の身体に居残り続けたら、あの子の身体が魂の不一致で壊れてしまう。彼女の魂は悪霊と化し、美彩の魂もろともシラコの食糧になってしまうわね」

「最初からこうなることはわかっていたのですか?」

 母親の言葉に疑問が生じる。そんな危ない橋を渡ってまで、自分の娘の身体に彼女の魂を憑依させる必要があったのだろうか。最初からわかっていたというのなら、他の方法を試すこともできたはずだ。

 久瑠徒の疑問が顔に出ていたのを見て、母親が苦笑する。疲れたような表情を見せる彼女は淡々と彼の疑問に答える。

「基本的に私たちは霊の存在を尊重しているの。できるだけ彼らの未練を晴らし、自然に成仏してくれることを願っているから、今回も大丈夫だろうと思っていたけど、彼女は結構やばい感じの子だったのね」

 美彩が持ってきた案件だったから、彼女に任せようとしたのがいけなかった。もっと彼らのことを調査すべきだった。母親は後悔していたが、まだ約束の日付まで一日残っている。調査していくうちに、ある名案が頭に浮かび、弟の久瑠羽を家に呼ぶことにした。弟の力を借りれば、霊も成仏して、美彩も無事で家に帰ってくることができる。

 母親は久瑠羽に美彩の命運を賭けることにした。

「それでね、今更だけど、あなたたちのことを一週間の間に改めて調べさせてもらったわ。彼女のことも含めてね。久瑠羽君、今からあなたにやってもらいたいことがあるの。頼まれてくれるかしら?」



 久瑠羽は、自分が兄と一緒に住んでいるマンションにやってきた。霊を他人の身体に憑依させる降霊術というものがもつ、メリットやデメリット、それから久瑠羽にしかできないことを美彩の母親に頼まれた。

「彼女の霊が成仏できないのは、お兄さんとの未練でこの世に残っているのではなくて、あなたとの未練があるからだと私は思うの。だから……」

 美彩の母親からの頼みを最後まで聞いていられなかった。自分は彼女の弟でしかなかった。恋人の弟に対して、未練を残すはずがない。そもそも、自分は兄と偽って彼女と逢っていた。彼女も自分が弟だと気づいていなかったはずだ。話の途中で部屋から飛び出してしまった。

 そして、無意識に兄と彼女がいるマンションまでやってきてしまった。ここまで来たのに、今更引き返すわけにはいかず、仕方なくインターホンを鳴らした。

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