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第一章 入学式

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 入学式は、何事もなく終了した。美彩は、眠気と戦いながらも、何とか眠らず入学式を乗り切った。そのため、誰が代表挨拶をしたのか、学長がどんな話をしていたのか全く覚えていなかった。

「では、この後、各学部、学科でのガイダンスがありますので、指定の教室まで移動してください」

 美彩は眠い目をこすりながら、ガイダンスが行われる教室まで移動しようと席を立ち、人の流れに沿って講堂を出ようと歩き出す。


「あれ、陽炎じゃん。おまえ、この大学の試験受けていたんだな」

 聞き覚えのある声に呼び止められた。嫌々、声のした方に視線を向けると、そこには髪を茶髪に染めた、スーツ姿の新入生がいた。

「私が試験を受けていちゃいけないわけ?ていうか、私に何の用?」

「いや、見知った顔を見かけたら、声をかけるのは普通だろ。ところで、お前、いまだに人には見えないものが見えるとか言っているのか?」

 男子学生の言葉に、美彩は一瞬、言葉を詰まらせる。しかし何とか平静を保ちながら、軽く答えようとした。

「な、何を言っているのかわからないんだけど、そ、そんなこと、言ったおぼえは」

『ああ、思い出した。こいつはお前をいじめていたやつか』


 美彩の身体に巻き付いているシラコの言葉にかすかに頷く。美彩は男子学生を見た瞬間から、身体の震えが止まらなくなっていた。これ以上、目の前の男と会話をしていたら、倒れてしまうと自覚があった。

「もしそうなら、相談に乗って欲しい奴がいるんだ、おい、顔が真っ青だけど大丈夫か?」

「だ、大丈夫。と、とりあえず、今からガイダンスがあるから、話はその後でもいいよね。高橋君、学部は?」

「オレか?オレは工学部。お前は?」

「私は、文学部。じゃあ、またね」

 急いで立ち去る美彩を高橋は引き留めようとするが、美彩は無視して講堂を出て、ガイダンスが行われる教室に早足で向かう。高橋も工学部のガイダンスに参加するため、美彩を追うことはなかった。


「はあ、はあ」

 急いで走ってきたため、ガイダンスが行われる教室にたどりつくころには、美彩の息は絶え絶えとなっていた。すでに他の同じ学科の生徒たちは席に着いており、美彩は空いていた席に、静かに着席する。あたりを見渡すと、入学式で見た時よりも、全体的に落ち着いた学生が多いことに気付く。髪を染めている人などもいるが、大人しめな印象を受けた。

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