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「ブーブー」
スマホのバイブ音で目を覚ます。目を閉じてすぐに寝てしまったらしい。窓を見ると、すでに日が暮れて、暗くなっていた。私が家に着いたのはまだ日が高い時間だったので、だいぶ時間が過ぎてしまったようだ。
「もしもし」
「ああ、電話に出てくれた。突然のお電話で申し訳ありません。REONAです」
寝起きで電話の相手を確認しなかったことを後悔した。突然の電話の相手は、私が今まさに頭を悩ましている家族の一人、あの男の奥方であり、翔琉君の母親からだった。
「REONAさんが、個人的に私に電話とは、驚きました」
「私もまさか、先生に電話することになるとは思っていませんでした。この前は、息子がお世話になったみたいで、まずはそのお礼と思いまして。息子を一晩泊めていただきありがとうございました」
「いえ、こちらこそ、大事な息子を赤の他人でもある、しかもただのアラフォーのおばさんの家に泊めてしまい、申し訳ありません」
REONAさんが私に直接電話してきたという驚きで、すっかり目が覚めた私は、頭を覚醒させるために、コーヒーを入れることにした。自分の部屋からキッチンに向かい、通話をスピーカーモードにして、キッチンカウンターに置く。ドリップコーヒーの袋を開けて、マグカップにセットしてお湯を入れる。
「赤の他人なんて、水臭いですよ。先生と私の仲です。息子だって、先生に懐いていたのでしょう?あの日は、彼と居酒屋をはしごしていましたから、急に翔琉から外泊の連絡が来た時は驚きました」
「はあ、でも彼は、友達の家に泊まると連絡していたと言っていましたけど」
「友達、なんてあいまいな表現、息子は使いません。いつもはだれだれの家に泊まるとか、部活の集まりでとか、具体的なことを言ってくるんですよ。怪しいなと後日問い詰めたら、先生の家だと判明しました」
電話越しにふふふと楽しそうに笑う声が聞こえたが、どうにも腑に落ちない。彼女と私は世間では、ただのアニメの原作者とそのアニメの主題歌を歌ったという接点しかない。こんなに親しく話しかけられる理由がない。親しく話しかけられる理由はわからないが、反対の理由ならすぐに思いつく。
「もしかして、私と神永さんのこと」
「さあ、何のことでしょうか。彼と先生の間に、何か隠しておきたいことがありましたか?」
「いえ」
「息子に誰の家に泊まったのかを白状させたときに、面白いことを言っていました。なんでも、先生から、自分と息子のクラスメイトの秘密について。そして、大胆にも彼が先生にある依頼ごとをしたことも聞きました」
話はどんどん、やばい方向に進んでいる。このまま進んでいけば、どうなってしまうのか。彼女はいったい、私にどのような反応を期待しているのだろうか。いっそのこと、聞いてみてしまおうか。一方的に話を続ける彼女の言葉を遮ることなく、私は回答を模索する。コーヒーを淹れ終え、アツアツのコーヒーをすすりながら、正しい回答を導こうと必死に頭を働かせる。
「先生、私ね、実は、先生と彼の秘密は、ずっと前から知っていましたよ」
「ずっと前から」
不意にかけられた言葉にどきりとする。家には誰もいないのに、つい周囲を確認して声を潜めてしまう。
「ずっと前と言っても、先生と彼が会ったのは一度きり。あの時ですよね。アニメ放映を記念しての飲み会。あの時に二人は」
「それ以上は!」
「お電話したのは、そのことについてです。とはいえ、あれは彼の悪い癖が出てしまっただけのこと。すでに過去のこととして割り切っています。先生は私の相談を聞く義務があると思いませんか?」
ニコニコした顔を思い浮かぶような優しい声で話しかけられても、ぞくりと鳥肌が立つ。笑顔で無言の圧力をかけてくる。私ははいと答えるしかなかった。
スマホのバイブ音で目を覚ます。目を閉じてすぐに寝てしまったらしい。窓を見ると、すでに日が暮れて、暗くなっていた。私が家に着いたのはまだ日が高い時間だったので、だいぶ時間が過ぎてしまったようだ。
「もしもし」
「ああ、電話に出てくれた。突然のお電話で申し訳ありません。REONAです」
寝起きで電話の相手を確認しなかったことを後悔した。突然の電話の相手は、私が今まさに頭を悩ましている家族の一人、あの男の奥方であり、翔琉君の母親からだった。
「REONAさんが、個人的に私に電話とは、驚きました」
「私もまさか、先生に電話することになるとは思っていませんでした。この前は、息子がお世話になったみたいで、まずはそのお礼と思いまして。息子を一晩泊めていただきありがとうございました」
「いえ、こちらこそ、大事な息子を赤の他人でもある、しかもただのアラフォーのおばさんの家に泊めてしまい、申し訳ありません」
REONAさんが私に直接電話してきたという驚きで、すっかり目が覚めた私は、頭を覚醒させるために、コーヒーを入れることにした。自分の部屋からキッチンに向かい、通話をスピーカーモードにして、キッチンカウンターに置く。ドリップコーヒーの袋を開けて、マグカップにセットしてお湯を入れる。
「赤の他人なんて、水臭いですよ。先生と私の仲です。息子だって、先生に懐いていたのでしょう?あの日は、彼と居酒屋をはしごしていましたから、急に翔琉から外泊の連絡が来た時は驚きました」
「はあ、でも彼は、友達の家に泊まると連絡していたと言っていましたけど」
「友達、なんてあいまいな表現、息子は使いません。いつもはだれだれの家に泊まるとか、部活の集まりでとか、具体的なことを言ってくるんですよ。怪しいなと後日問い詰めたら、先生の家だと判明しました」
電話越しにふふふと楽しそうに笑う声が聞こえたが、どうにも腑に落ちない。彼女と私は世間では、ただのアニメの原作者とそのアニメの主題歌を歌ったという接点しかない。こんなに親しく話しかけられる理由がない。親しく話しかけられる理由はわからないが、反対の理由ならすぐに思いつく。
「もしかして、私と神永さんのこと」
「さあ、何のことでしょうか。彼と先生の間に、何か隠しておきたいことがありましたか?」
「いえ」
「息子に誰の家に泊まったのかを白状させたときに、面白いことを言っていました。なんでも、先生から、自分と息子のクラスメイトの秘密について。そして、大胆にも彼が先生にある依頼ごとをしたことも聞きました」
話はどんどん、やばい方向に進んでいる。このまま進んでいけば、どうなってしまうのか。彼女はいったい、私にどのような反応を期待しているのだろうか。いっそのこと、聞いてみてしまおうか。一方的に話を続ける彼女の言葉を遮ることなく、私は回答を模索する。コーヒーを淹れ終え、アツアツのコーヒーをすすりながら、正しい回答を導こうと必死に頭を働かせる。
「先生、私ね、実は、先生と彼の秘密は、ずっと前から知っていましたよ」
「ずっと前から」
不意にかけられた言葉にどきりとする。家には誰もいないのに、つい周囲を確認して声を潜めてしまう。
「ずっと前と言っても、先生と彼が会ったのは一度きり。あの時ですよね。アニメ放映を記念しての飲み会。あの時に二人は」
「それ以上は!」
「お電話したのは、そのことについてです。とはいえ、あれは彼の悪い癖が出てしまっただけのこと。すでに過去のこととして割り切っています。先生は私の相談を聞く義務があると思いませんか?」
ニコニコした顔を思い浮かぶような優しい声で話しかけられても、ぞくりと鳥肌が立つ。笑顔で無言の圧力をかけてくる。私ははいと答えるしかなかった。
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