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 まぶしいくらいの笑顔で、自分の作品について語りたいと言われれば、私の答えは一つしかない。つまり、話をぜひ聞きたいという返事だった。

「ここではゆっくりとお話しできませんから、これから二人で飲みなおしませんか?もちろん、誘っているのは僕なので、僕のおごりです」

「そんな、そこまでしてもらっては申し訳ないです」

「僕が話したいから、誘ったんです。ここは、男の僕を立ててくださいよ」

 私はお恥ずかしいことながら、これまで生きてきた人生で、男性とお付き合いしたことがなかった。彼氏というものがいたことがない。男性とつき合った経験がない、恋愛偏差値ゼロの干物女に、超有名声優の誘いはまるで甘い蜜、禁断の果実のようだった。頭では、私なんかが相手にされるはずがない。彼の周囲の人間にはいない、面白そうな女性だから、からかっているだけだと、警告を鳴らしていた。

「そこまで言うのなら、おごっていただきます」

 しかし、そんな頭の中の警告よりも、禁断の果実をかじりたいという欲求には抗うことができず、私は彼の誘いに応じ、祝賀会の二次会に参加せず、二人きりで飲みなおすことになった。


 彼が誘ってくれたのは、こじんまりとしたおしゃれなワインバーだった。私だったら、店に入るのに躊躇するような店だったが、店の中に置かれたたくさんのワイングラスを見て、あることを思い出し、正直に告げた。

「あ、あの、誘ってくれて申し訳ないんですけど、私、実はお酒があまり得意ではなくて」

「ああ、確かに一次会ではあまり飲んでいませんでしたね。ですが、ここのワインはとてもおいしいんですよ。一杯だけでもどうですか?」

 私が飲んでいないことを見ていたのか、彼は一杯だけでもどうですかと勧めてきたため、仕方なくおススメを教えてもらい、一杯だけ付き合うことにした。

 一杯だけで泥酔するほど酒に弱いわけではないので、私にと勧められたワインをちびちびと飲み進めながら、彼の言っていた私の作品への話を聞くことにした。しかし、彼はそこで急に態度を変えて、作品ではなく、私の私生活について質問を始めた。

「じゃあ、浅羽先生は今、彼氏などはいないということですね」

「お恥ずかしながら、今までに男性とつき合ったことはありません。笑ってしまいますよね。神永さんはモテますから、たくさんの女性とお付き合いがありそうで、少しうらやましいです。今も、アニソン歌手のREONAさんと同棲中だとか」

 ほろ酔い気分で、彼からの問いに正直に答えてしまう。そんな私の答えにうっすらと悪い笑みを浮かべていることを私は知る由もなかった。



「今日はもう、遅いですけど、家はどちらですか?」

 それからも、彼は私にたくさんの質問をして、それに対して私がバカ正直に答えていくということの繰り返しだった。おかげで、私のことはだいぶ彼に知られてしまった。話し込んでいるうちにだいぶ時間が過ぎてしまったようだ。彼から時間を告げられ、スマホで時刻を確認すると、確かに深夜に近い時間となっていた。さすがにそろそろ家に帰った方がいい。

「ええと、ここからそこまで遠くはないので、タクシーでも拾って帰ろうかと」

「では、私も途中までご一緒しましょう」

 私の言葉に彼が答え、途中まで一緒にタクシーで帰ることになった。

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