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令息だからって偉そうにしてんじゃねえぞコラ

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「ベイオニールとパルミネッラが、種族を越えて愛し合い、最後には父王にも認められて結ばれたように、王子様と庶民出身のご令嬢も、たくさんの試練を乗り越えて、いつかは結婚して幸せになるんだって。

そんな素敵な話が現実でも起こるんだってワクワクしてたんですけど……やっぱり、現実はダメですね。何も上手くいかない」

語っているうちに勢いを失い、シュンとしてしまったタリサに対して、カノンは複雑な表情でうーんと唸りながらポリポリ顎を掻く。

「そうねー……それはねー……確かにお伽話のようにはならなかったけど……
愛し合ってたかって言われると、そうじゃない気もするし」

「えっ、そうなんですか?」

王太子と平民の娘、身分違いの恋の行方に胸をときめかせていたであろうタリサが驚いて目を丸くすると、カノンは困ったような顔で笑った。

「うん、まあ、嫌いではなかったけどね。
ハンサムで頭が良くて、ちょっと横暴なところもあったけど注意すれば直そうと努力してくれたし……
いい人ではあったわよ。お付き合いしてる時も、楽しかった」

……結局、女が集まると恋愛の話になるか。くだらん、聞いてられん。

かつての恋人についてカノンが話していることに、ちょっぴり嫉妬している自分がいることには気づかず、二人に背を向けて立ち去ろうとしたマルセルだが、

「でも気の毒な人でもあったわ……
お付きの若い騎士も取り巻きの上級貴族のご子息も、み~んなアンリ殿下に気に入られようとおべっか使うばっかりで、本音で話せる人なんて一人もいなくてさ。

剣の稽古で本気で打ち込んできたり、チェスやボードゲームで負かしてくるような、肝の据わった友達が欲しかったみたいだけど、そんな人にも恵まれなくて……

この城に泊まって賭けトランプした時も、マルセル様が手加減してわざと負けたってことに気づいてたし」

ふいに名前を出され、足が止まった。

王太子と賭けトランプをした夜、もちろん覚えている……カノンが言った通りわざと強い手を出さず、勝ちを譲ったことも。

「え…マルセルが?本当ですか?」

良くも悪くもまっすぐな気質の従兄弟が、そんな卑怯な真似をするなんて信じられなかったのだろう。
意外そうに眉を寄せるタリサに、カノンは二度、三度と頷く。

「ええ。森で一緒に狩りをした時は乗馬の姿勢を注意してくれたり、獲物の追い方を教えてくれたりして楽しかったのに、トランプ勝負では明からさまに手を抜かれてガッカリしたって言ってたわ。

おべっかばっかりのゴマすり貴族たちとは違うと思ったのに、悲しくなったんですって」

そうか……それで。

あの夜、せっかく大勝ちしたというのに、つまらなそうな顔をしていた王太子の様子を思い出し、合点がいった。

カノンが話している通り、マルセルは二年前、クローベル領を訪れた王太子と連れ立って鹿狩りへ出た折り、若手の兵士にするように彼にも色々と指導をした。

アンリの馬に乗る姿勢はまずますだったが、もう少し改善すればもっと良くなりそうだったからその旨を助言したし、
鹿を追うのはおろか森に入るのも初めてだというから木の根につまずかないよう馬を歩かせるコツや、
獲物が近づいてきた時に猟犬が送ってくる合図など、事細かに説明しながら狩りを進めた。

王太子は一つ一つ聞き入って頷き、実行してくれたおかげで、その日の成果は上々。
アンリも喜んでくれたから良かったと思っていたら、城に着くなり従者たちからすごい勢いで叱責された。

『田舎貴族ふぜいが、王太子殿下に向かって何と言う口のきき方!!』

『上からものを言いおって、王様にでもなったつもりか!!』

『ここが王都なら、お前など不敬罪で即・刻・追・放・だ!!!この田舎者!!!』

『山猿!!!』

『猪坊主!!!』

…などなど、あまりにギャンギャン責め立てられ、怒りよりもまず呆気に取られていたら、上級貴族よる社交界流の華麗なる処世術を教えてやる、と、初心者でも簡単にできるトランプ賭博でのイカサマを数種類、手ほどきされた。

もちろん勝つ為のものではなく、負け方の指南である。

『いいか、夕食の後に我々は殿下をトランプ遊びに誘う。
その席にお前も呼んでやるから、さっきの技を使ってきちんと負けるのだぞ!

それから、土地とか宝石とか、何か気の利いた物を賞品として用意しておけよ。わかったな!!』

そんな感じで好き勝手に喚くだけ喚いて従者たちが去ると、これはもう自分だけの手に負えないと判断したマルセルは、祖父のもとへ相談に行った。

どうするのが正解かわからず途方に暮れたマルセルから話を聞いた祖父と、世話役として王太子に同行していた侯爵閣下…ユージェニア嬢の父で、いずれアンリ殿下の義父となる御仁…は、
二人してやれやれと溜め息をつき、狩りでの振る舞いも含め王太子殿下に対するマルセルの態度には何の問題も無く、むしろ良くやってくれていると前置きした上で、トランプ遊びについては従者たちの言う通りにしなさいと指示してきた。

『今は大貴族の子息に過ぎない連中だが、成長すれば王都の実験を握るようになる者達だ。
不本意かもしれんが、これもお前の将来の為。趣味の悪い遊びに、付き合ってやってくれ』

圧倒的に目上の存在である二人から頭を下げられ、マルセルが断れるはずもない。
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