26 / 50
令息だからって偉そうにしてんじゃねえぞコラ
⑥
しおりを挟む
「ベイオニールとパルミネッラが、種族を越えて愛し合い、最後には父王にも認められて結ばれたように、王子様と庶民出身のご令嬢も、たくさんの試練を乗り越えて、いつかは結婚して幸せになるんだって。
そんな素敵な話が現実でも起こるんだってワクワクしてたんですけど……やっぱり、現実はダメですね。何も上手くいかない」
語っているうちに勢いを失い、シュンとしてしまったタリサに対して、カノンは複雑な表情でうーんと唸りながらポリポリ顎を掻く。
「そうねー……それはねー……確かにお伽話のようにはならなかったけど……
愛し合ってたかって言われると、そうじゃない気もするし」
「えっ、そうなんですか?」
王太子と平民の娘、身分違いの恋の行方に胸をときめかせていたであろうタリサが驚いて目を丸くすると、カノンは困ったような顔で笑った。
「うん、まあ、嫌いではなかったけどね。
ハンサムで頭が良くて、ちょっと横暴なところもあったけど注意すれば直そうと努力してくれたし……
いい人ではあったわよ。お付き合いしてる時も、楽しかった」
……結局、女が集まると恋愛の話になるか。くだらん、聞いてられん。
かつての恋人についてカノンが話していることに、ちょっぴり嫉妬している自分がいることには気づかず、二人に背を向けて立ち去ろうとしたマルセルだが、
「でも気の毒な人でもあったわ……
お付きの若い騎士も取り巻きの上級貴族のご子息も、み~んなアンリ殿下に気に入られようとおべっか使うばっかりで、本音で話せる人なんて一人もいなくてさ。
剣の稽古で本気で打ち込んできたり、チェスやボードゲームで負かしてくるような、肝の据わった友達が欲しかったみたいだけど、そんな人にも恵まれなくて……
この城に泊まって賭けトランプした時も、マルセル様が手加減してわざと負けたってことに気づいてたし」
ふいに名前を出され、足が止まった。
王太子と賭けトランプをした夜、もちろん覚えている……カノンが言った通りわざと強い手を出さず、勝ちを譲ったことも。
「え…マルセルが?本当ですか?」
良くも悪くもまっすぐな気質の従兄弟が、そんな卑怯な真似をするなんて信じられなかったのだろう。
意外そうに眉を寄せるタリサに、カノンは二度、三度と頷く。
「ええ。森で一緒に狩りをした時は乗馬の姿勢を注意してくれたり、獲物の追い方を教えてくれたりして楽しかったのに、トランプ勝負では明からさまに手を抜かれてガッカリしたって言ってたわ。
おべっかばっかりのゴマすり貴族たちとは違うと思ったのに、悲しくなったんですって」
そうか……それで。
あの夜、せっかく大勝ちしたというのに、つまらなそうな顔をしていた王太子の様子を思い出し、合点がいった。
カノンが話している通り、マルセルは二年前、クローベル領を訪れた王太子と連れ立って鹿狩りへ出た折り、若手の兵士にするように彼にも色々と指導をした。
アンリの馬に乗る姿勢はまずますだったが、もう少し改善すればもっと良くなりそうだったからその旨を助言したし、
鹿を追うのはおろか森に入るのも初めてだというから木の根につまずかないよう馬を歩かせるコツや、
獲物が近づいてきた時に猟犬が送ってくる合図など、事細かに説明しながら狩りを進めた。
王太子は一つ一つ聞き入って頷き、実行してくれたおかげで、その日の成果は上々。
アンリも喜んでくれたから良かったと思っていたら、城に着くなり従者たちからすごい勢いで叱責された。
『田舎貴族ふぜいが、王太子殿下に向かって何と言う口のきき方!!』
『上からものを言いおって、王様にでもなったつもりか!!』
『ここが王都なら、お前など不敬罪で即・刻・追・放・だ!!!この田舎者!!!』
『山猿!!!』
『猪坊主!!!』
…などなど、あまりにギャンギャン責め立てられ、怒りよりもまず呆気に取られていたら、上級貴族よる社交界流の華麗なる処世術を教えてやる、と、初心者でも簡単にできるトランプ賭博でのイカサマを数種類、手ほどきされた。
もちろん勝つ為のものではなく、負け方の指南である。
『いいか、夕食の後に我々は殿下をトランプ遊びに誘う。
その席にお前も呼んでやるから、さっきの技を使ってきちんと負けるのだぞ!
それから、土地とか宝石とか、何か気の利いた物を賞品として用意しておけよ。わかったな!!』
そんな感じで好き勝手に喚くだけ喚いて従者たちが去ると、これはもう自分だけの手に負えないと判断したマルセルは、祖父のもとへ相談に行った。
どうするのが正解かわからず途方に暮れたマルセルから話を聞いた祖父と、世話役として王太子に同行していた侯爵閣下…ユージェニア嬢の父で、いずれアンリ殿下の義父となる御仁…は、
二人してやれやれと溜め息をつき、狩りでの振る舞いも含め王太子殿下に対するマルセルの態度には何の問題も無く、むしろ良くやってくれていると前置きした上で、トランプ遊びについては従者たちの言う通りにしなさいと指示してきた。
『今は大貴族の子息に過ぎない連中だが、成長すれば王都の実験を握るようになる者達だ。
不本意かもしれんが、これもお前の将来の為。趣味の悪い遊びに、付き合ってやってくれ』
圧倒的に目上の存在である二人から頭を下げられ、マルセルが断れるはずもない。
そんな素敵な話が現実でも起こるんだってワクワクしてたんですけど……やっぱり、現実はダメですね。何も上手くいかない」
語っているうちに勢いを失い、シュンとしてしまったタリサに対して、カノンは複雑な表情でうーんと唸りながらポリポリ顎を掻く。
「そうねー……それはねー……確かにお伽話のようにはならなかったけど……
愛し合ってたかって言われると、そうじゃない気もするし」
「えっ、そうなんですか?」
王太子と平民の娘、身分違いの恋の行方に胸をときめかせていたであろうタリサが驚いて目を丸くすると、カノンは困ったような顔で笑った。
「うん、まあ、嫌いではなかったけどね。
ハンサムで頭が良くて、ちょっと横暴なところもあったけど注意すれば直そうと努力してくれたし……
いい人ではあったわよ。お付き合いしてる時も、楽しかった」
……結局、女が集まると恋愛の話になるか。くだらん、聞いてられん。
かつての恋人についてカノンが話していることに、ちょっぴり嫉妬している自分がいることには気づかず、二人に背を向けて立ち去ろうとしたマルセルだが、
「でも気の毒な人でもあったわ……
お付きの若い騎士も取り巻きの上級貴族のご子息も、み~んなアンリ殿下に気に入られようとおべっか使うばっかりで、本音で話せる人なんて一人もいなくてさ。
剣の稽古で本気で打ち込んできたり、チェスやボードゲームで負かしてくるような、肝の据わった友達が欲しかったみたいだけど、そんな人にも恵まれなくて……
この城に泊まって賭けトランプした時も、マルセル様が手加減してわざと負けたってことに気づいてたし」
ふいに名前を出され、足が止まった。
王太子と賭けトランプをした夜、もちろん覚えている……カノンが言った通りわざと強い手を出さず、勝ちを譲ったことも。
「え…マルセルが?本当ですか?」
良くも悪くもまっすぐな気質の従兄弟が、そんな卑怯な真似をするなんて信じられなかったのだろう。
意外そうに眉を寄せるタリサに、カノンは二度、三度と頷く。
「ええ。森で一緒に狩りをした時は乗馬の姿勢を注意してくれたり、獲物の追い方を教えてくれたりして楽しかったのに、トランプ勝負では明からさまに手を抜かれてガッカリしたって言ってたわ。
おべっかばっかりのゴマすり貴族たちとは違うと思ったのに、悲しくなったんですって」
そうか……それで。
あの夜、せっかく大勝ちしたというのに、つまらなそうな顔をしていた王太子の様子を思い出し、合点がいった。
カノンが話している通り、マルセルは二年前、クローベル領を訪れた王太子と連れ立って鹿狩りへ出た折り、若手の兵士にするように彼にも色々と指導をした。
アンリの馬に乗る姿勢はまずますだったが、もう少し改善すればもっと良くなりそうだったからその旨を助言したし、
鹿を追うのはおろか森に入るのも初めてだというから木の根につまずかないよう馬を歩かせるコツや、
獲物が近づいてきた時に猟犬が送ってくる合図など、事細かに説明しながら狩りを進めた。
王太子は一つ一つ聞き入って頷き、実行してくれたおかげで、その日の成果は上々。
アンリも喜んでくれたから良かったと思っていたら、城に着くなり従者たちからすごい勢いで叱責された。
『田舎貴族ふぜいが、王太子殿下に向かって何と言う口のきき方!!』
『上からものを言いおって、王様にでもなったつもりか!!』
『ここが王都なら、お前など不敬罪で即・刻・追・放・だ!!!この田舎者!!!』
『山猿!!!』
『猪坊主!!!』
…などなど、あまりにギャンギャン責め立てられ、怒りよりもまず呆気に取られていたら、上級貴族よる社交界流の華麗なる処世術を教えてやる、と、初心者でも簡単にできるトランプ賭博でのイカサマを数種類、手ほどきされた。
もちろん勝つ為のものではなく、負け方の指南である。
『いいか、夕食の後に我々は殿下をトランプ遊びに誘う。
その席にお前も呼んでやるから、さっきの技を使ってきちんと負けるのだぞ!
それから、土地とか宝石とか、何か気の利いた物を賞品として用意しておけよ。わかったな!!』
そんな感じで好き勝手に喚くだけ喚いて従者たちが去ると、これはもう自分だけの手に負えないと判断したマルセルは、祖父のもとへ相談に行った。
どうするのが正解かわからず途方に暮れたマルセルから話を聞いた祖父と、世話役として王太子に同行していた侯爵閣下…ユージェニア嬢の父で、いずれアンリ殿下の義父となる御仁…は、
二人してやれやれと溜め息をつき、狩りでの振る舞いも含め王太子殿下に対するマルセルの態度には何の問題も無く、むしろ良くやってくれていると前置きした上で、トランプ遊びについては従者たちの言う通りにしなさいと指示してきた。
『今は大貴族の子息に過ぎない連中だが、成長すれば王都の実験を握るようになる者達だ。
不本意かもしれんが、これもお前の将来の為。趣味の悪い遊びに、付き合ってやってくれ』
圧倒的に目上の存在である二人から頭を下げられ、マルセルが断れるはずもない。
3
お気に入りに追加
233
あなたにおすすめの小説
冤罪から逃れるために全てを捨てた。
四折 柊
恋愛
王太子の婚約者だったオリビアは冤罪をかけられ捕縛されそうになり全てを捨てて家族と逃げた。そして以前留学していた国の恩師を頼り、新しい名前と身分を手に入れ幸せに過ごす。1年が過ぎ今が幸せだからこそ思い出してしまう。捨ててきた国や自分を陥れた人達が今どうしているのかを。(視点が何度も変わります)
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
別に構いませんよ、離縁するので。
杉本凪咲
恋愛
父親から告げられたのは「出ていけ」という冷たい言葉。
他の家族もそれに賛同しているようで、どうやら私は捨てられてしまうらしい。
まあいいですけどね。私はこっそりと笑顔を浮かべた。
懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。
梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。
あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。
その時までは。
どうか、幸せになってね。
愛しい人。
さようなら。
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話
ラララキヲ
恋愛
長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。
しかし寝室に居た妻は……
希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──
一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……──
<【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました>
◇テンプレ浮気クソ男女。
◇軽い触れ合い表現があるのでR15に
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇ご都合展開。矛盾は察して下さい…
◇なろうにも上げてます。
※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)
断罪されて婚約破棄される予定のラスボス公爵令嬢ですけど、先手必勝で目にもの見せて差し上げましょう!
ありあんと
恋愛
ベアトリクスは突然自分が前世は日本人で、もうすぐ婚約破棄されて断罪される予定の悪役令嬢に生まれ変わっていることに気がついた。
気がついてしまったからには、自分の敵になる奴全部酷い目に合わせてやるしか無いでしょう。
おデブな悪役令嬢の侍女に転生しましたが、前世の技術で絶世の美女に変身させます
ちゃんゆ
恋愛
男爵家の三女に産まれた私。衝撃的な出来事などもなく、頭を打ったわけでもなく、池で溺れて死にかけたわけでもない。ごくごく自然に前世の記憶があった。
そして前世の私は…
ゴットハンドと呼ばれるほどのエステティシャンだった。
サロン勤めで拘束時間は長く、休みもなかなか取れずに働きに働いた結果。
貯金残高はビックリするほど貯まってたけど、使う時間もないまま転生してた。
そして通勤の電車の中で暇つぶしに、ちょろーっとだけ遊んでいた乙女ゲームの世界に転生したっぽい?
あんまり内容覚えてないけど…
悪役令嬢がムチムチしてたのだけは許せなかった!
さぁ、お嬢様。
私のゴットハンドを堪能してくださいませ?
********************
初投稿です。
転生侍女シリーズ第一弾。
短編全4話で、投稿予約済みです。
私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?
新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。
※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる