12 / 22
騎士様のご自宅は、理想のお家でした④
しおりを挟む
「いいじゃないか。せっかくだからご厚意に甘えて、次にデッケン伯のお屋敷へ伺う時は、ジャンもサーリアも一緒に行こう。
デッケン伯は賑やかなのが好きな方だ、きっと歓迎してくれるよ」
このザックの提案に、手を叩いて喜んだのはリリーだった。
「いいですわね、ぜひ両家で交流会をしましょう!!
うちの酒蔵には、百人の酒豪が百日かけたって飲みきれないくらい沢山のお酒が置いてあって、お父様は振る舞いたくてしょうがないんだから。……あ」
そういえば、まさにその酒蔵から父自身が吟味して選りすぐったザックへの手土産が、乗ってきた馬車へ積んだままにしてあることを、今更ながら思い出した。
慌てて振り向くと、その手土産の酒類を詰めた箱を両手に抱えたジェンナが、こちらへ歩いてくるのが見えた。
いかにも重そうな木箱の上には、自分が持ってきたバスケットも乗っていて、リリーと目が合うとジェンナはやれやれといった感じで苦笑いしてみせる。
「もう、お嬢様ったら、ザック様のお顔を見た途端に飛び出しちゃうんだから……お熱いのは結構ですけれど、ちゃんとしてくださいな」
ばつが悪いやら恥ずかしいやらで赤くなりながらリリーは、ゴメンナサイと小さな声で謝って、木箱の上にあるバスケットを手に取った。
「あの、ザック様、これ……」
おずおずと差し出すと、ザックは小首を傾げた。
不思議そうにしているその顔を見て、急に不安になってくる……
準備している時はこれ、すごく楽しかったけれど、いざ渡すとなると急に自信なくなる……
でもここで引っ込める訳にはいかないし。もう、どうにでもなれだわ。
破れかぶれといった心情で、リリーはザックへバスケットを突き出す。
「ブランデーソース入りのミートローフと、ジンジャークッキーです。
この前お手に触れた時、指先が冷たかったので、内側から温まるものをと思いまして……
両方とも私が作ったので、お口に合うかどうか……」
「え、リリー様が、手作りで?」
ひどく驚いたザックに、リリーは頷く。
やっぱり余計なお世話だったかしら、母親じゃないんだから、と反省しかけたが、ザックはフッと笑って、手を伸ばしてきた。
「お心づかいに感謝します」
「……お嫌いじゃないといいんですけど……」
「どちらも好物ですよ。というか俺は、何でも食べます。
戦地では好き嫌いなんて悠長なこと、言ってられませんでしたから」
冗談めかして礼を言ってくれるザックに、ほっとしながらバスケットを渡す。
あとはジェンナが持っている酒をどうにかしないと。
「こっちの箱には、父がザック様とお家の方々へぜひにって、ワインと林檎酒、それにブルーベリーやサクランボのお酒が入っているんですけれど、どこへ置きましょう?」
「それは有り難い。俺もジャンも酒は好きなので……
家の中に食糧の貯蔵庫がありますから、そっちへ案内しましょう。どうぞこちらへ……えっ、と」
ザックの視線を受け、酒の箱を持っているジェンナは、深めに頭を下げた。
「ジェンナと申します。どうぞお見知りおきを、ザック様」
「こちらこそよろしく、ジェンナ。
それじゃ、立ち話も何ですから、リリー様もどうぞ。
狭い家ではありますが、上がっていってください」
「はいっ」
元気良く返事したリリーは、子供のようにはしゃぎながらザックの後について、レンガ造りの家の扉をくぐった。
デッケン伯は賑やかなのが好きな方だ、きっと歓迎してくれるよ」
このザックの提案に、手を叩いて喜んだのはリリーだった。
「いいですわね、ぜひ両家で交流会をしましょう!!
うちの酒蔵には、百人の酒豪が百日かけたって飲みきれないくらい沢山のお酒が置いてあって、お父様は振る舞いたくてしょうがないんだから。……あ」
そういえば、まさにその酒蔵から父自身が吟味して選りすぐったザックへの手土産が、乗ってきた馬車へ積んだままにしてあることを、今更ながら思い出した。
慌てて振り向くと、その手土産の酒類を詰めた箱を両手に抱えたジェンナが、こちらへ歩いてくるのが見えた。
いかにも重そうな木箱の上には、自分が持ってきたバスケットも乗っていて、リリーと目が合うとジェンナはやれやれといった感じで苦笑いしてみせる。
「もう、お嬢様ったら、ザック様のお顔を見た途端に飛び出しちゃうんだから……お熱いのは結構ですけれど、ちゃんとしてくださいな」
ばつが悪いやら恥ずかしいやらで赤くなりながらリリーは、ゴメンナサイと小さな声で謝って、木箱の上にあるバスケットを手に取った。
「あの、ザック様、これ……」
おずおずと差し出すと、ザックは小首を傾げた。
不思議そうにしているその顔を見て、急に不安になってくる……
準備している時はこれ、すごく楽しかったけれど、いざ渡すとなると急に自信なくなる……
でもここで引っ込める訳にはいかないし。もう、どうにでもなれだわ。
破れかぶれといった心情で、リリーはザックへバスケットを突き出す。
「ブランデーソース入りのミートローフと、ジンジャークッキーです。
この前お手に触れた時、指先が冷たかったので、内側から温まるものをと思いまして……
両方とも私が作ったので、お口に合うかどうか……」
「え、リリー様が、手作りで?」
ひどく驚いたザックに、リリーは頷く。
やっぱり余計なお世話だったかしら、母親じゃないんだから、と反省しかけたが、ザックはフッと笑って、手を伸ばしてきた。
「お心づかいに感謝します」
「……お嫌いじゃないといいんですけど……」
「どちらも好物ですよ。というか俺は、何でも食べます。
戦地では好き嫌いなんて悠長なこと、言ってられませんでしたから」
冗談めかして礼を言ってくれるザックに、ほっとしながらバスケットを渡す。
あとはジェンナが持っている酒をどうにかしないと。
「こっちの箱には、父がザック様とお家の方々へぜひにって、ワインと林檎酒、それにブルーベリーやサクランボのお酒が入っているんですけれど、どこへ置きましょう?」
「それは有り難い。俺もジャンも酒は好きなので……
家の中に食糧の貯蔵庫がありますから、そっちへ案内しましょう。どうぞこちらへ……えっ、と」
ザックの視線を受け、酒の箱を持っているジェンナは、深めに頭を下げた。
「ジェンナと申します。どうぞお見知りおきを、ザック様」
「こちらこそよろしく、ジェンナ。
それじゃ、立ち話も何ですから、リリー様もどうぞ。
狭い家ではありますが、上がっていってください」
「はいっ」
元気良く返事したリリーは、子供のようにはしゃぎながらザックの後について、レンガ造りの家の扉をくぐった。
170
お気に入りに追加
3,884
あなたにおすすめの小説
父が再婚してから酷い目に遭いましたが、最終的に皆罪人にして差し上げました
四季
恋愛
母親が亡くなり、父親に新しい妻が来てからというもの、私はいじめられ続けた。
だが、ただいじめられただけで終わる私ではない……!
婚約破棄され聖女も辞めさせられたので、好きにさせていただきます。
松石 愛弓
恋愛
国を守る聖女で王太子殿下の婚約者であるエミル・ファーナは、ある日突然、婚約破棄と国外追放を言い渡される。
全身全霊をかけて国の平和を祈り続けてきましたが、そういうことなら仕方ないですね。休日も無く、責任重すぎて大変でしたし、王太子殿下は思いやりの無い方ですし、王宮には何の未練もございません。これからは自由にさせていただきます♪
婚約破棄をしてくれた王太子殿下、ありがとうございました
hikari
恋愛
オイフィア王国の王太子グラニオン4世に婚約破棄された公爵令嬢アーデルヘイトは王国の聖女の任務も解かれる。
家に戻るも、父であり、オルウェン公爵家当主のカリオンに勘当され家から追い出される。行き場の無い中、豪商に助けられ、聖女として平民の生活を送る。
ざまぁ要素あり。
婚約破棄を申し込まれたので、ちょっと仕返ししてみることにしました。
夢草 蝶
恋愛
婚約破棄を申し込まれた令嬢・サトレア。
しかし、その理由とその時の婚約者の物言いに腹が立ったので、ちょっと仕返ししてみることにした。
どうして別れるのかと聞かれても。お気の毒な旦那さま、まさかとは思いますが、あなたのようなクズが女性に愛されると信じていらっしゃるのですか?
石河 翠
恋愛
主人公のモニカは、既婚者にばかり声をかけるはしたない女性として有名だ。愛人稼業をしているだとか、天然の毒婦だとか、聞こえてくるのは下品な噂ばかり。社交界での評判も地に落ちている。
ある日モニカは、溺愛のあまり茶会や夜会に妻を一切参加させないことで有名な愛妻家の男性に声をかける。おしどり夫婦の愛の巣に押しかけたモニカは、そこで虐げられている女性を発見する。
彼女が愛妻家として評判の男性の奥方だと気がついたモニカは、彼女を毎日お茶に誘うようになり……。
八方塞がりな状況で抵抗する力を失っていた孤独なヒロインと、彼女に手を差し伸べ広い世界に連れ出したしたたかな年下ヒーローのお話。
ハッピーエンドです。
この作品は他サイトにも投稿しております。
扉絵は写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID24694748)をお借りしています。
完結 貴族生活を棄てたら王子が追って来てメンドクサイ。
音爽(ネソウ)
恋愛
王子の婚約者になってから様々な嫌がらせを受けるようになった侯爵令嬢。
王子は助けてくれないし、母親と妹まで嫉妬を向ける始末。
貴族社会が嫌になった彼女は家出を決行した。
だが、有能がゆえに王子妃に選ばれた彼女は追われることに……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる