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騎士様のご自宅は、理想のお家でした④

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「いいじゃないか。せっかくだからご厚意に甘えて、次にデッケン伯のお屋敷へ伺う時は、ジャンもサーリアも一緒に行こう。
デッケン伯は賑やかなのが好きな方だ、きっと歓迎してくれるよ」

このザックの提案に、手を叩いて喜んだのはリリーだった。

「いいですわね、ぜひ両家で交流会をしましょう!!
うちの酒蔵ワインセラーには、百人の酒豪が百日かけたって飲みきれないくらい沢山のお酒が置いてあって、お父様は振る舞いたくてしょうがないんだから。……あ」

そういえば、まさにその酒蔵から父自身が吟味して選りすぐったザックへの手土産が、乗ってきた馬車へ積んだままにしてあることを、今更ながら思い出した。

慌てて振り向くと、その手土産の酒類を詰めた箱を両手に抱えたジェンナが、こちらへ歩いてくるのが見えた。

いかにも重そうな木箱の上には、自分が持ってきたバスケットも乗っていて、リリーと目が合うとジェンナはやれやれといった感じで苦笑いしてみせる。

「もう、お嬢様ったら、ザック様のお顔を見た途端に飛び出しちゃうんだから……お熱いのは結構ですけれど、ちゃんとしてくださいな」

ばつが悪いやら恥ずかしいやらで赤くなりながらリリーは、ゴメンナサイと小さな声で謝って、木箱の上にあるバスケットを手に取った。

「あの、ザック様、これ……」

おずおずと差し出すと、ザックは小首を傾げた。
不思議そうにしているその顔を見て、急に不安になってくる……

準備している時はこれ、すごく楽しかったけれど、いざ渡すとなると急に自信なくなる……
でもここで引っ込める訳にはいかないし。もう、どうにでもなれだわ。

破れかぶれといった心情で、リリーはザックへバスケットを突き出す。

「ブランデーソース入りのミートローフと、ジンジャークッキーです。
この前お手に触れた時、指先が冷たかったので、内側から温まるものをと思いまして……
両方とも私が作ったので、お口に合うかどうか……」

「え、リリー様が、手作りで?」

ひどく驚いたザックに、リリーは頷く。

やっぱり余計なお世話だったかしら、母親じゃないんだから、と反省しかけたが、ザックはフッと笑って、手を伸ばしてきた。

「お心づかいに感謝します」

「……お嫌いじゃないといいんですけど……」

「どちらも好物ですよ。というか俺は、何でも食べます。
戦地では好き嫌いなんて悠長なこと、言ってられませんでしたから」

冗談めかして礼を言ってくれるザックに、ほっとしながらバスケットを渡す。
あとはジェンナが持っている酒をどうにかしないと。

「こっちの箱には、父がザック様とお家の方々へぜひにって、ワインと林檎酒、それにブルーベリーやサクランボのお酒が入っているんですけれど、どこへ置きましょう?」

「それは有り難い。俺もジャンも酒は好きなので……
家の中に食糧の貯蔵庫がありますから、そっちへ案内しましょう。どうぞこちらへ……えっ、と」

ザックの視線を受け、酒の箱を持っているジェンナは、深めに頭を下げた。

「ジェンナと申します。どうぞお見知りおきを、ザック様」

「こちらこそよろしく、ジェンナ。
それじゃ、立ち話も何ですから、リリー様もどうぞ。
狭い家ではありますが、上がっていってください」

「はいっ」

元気良く返事したリリーは、子供のようにはしゃぎながらザックの後について、レンガ造りの家の扉をくぐった。
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