3 / 10
断罪からの華麗なる論破①
しおりを挟む
「その手紙、私も拝見してよろしいでしょうか?殿下」
純真無垢な少女に嫉妬し、陰で貶めていた性悪で高慢ちきな女、というレッテルを貼られ、さっそく冷たい視線を向けられているファンテーヌだが、動じることなく言葉を発する。
僕はその要求を飲み、法務大臣に頷いた。
お辞儀を返した大臣が手紙を渡すと、ファンテーヌはサッと目を通し、静かな声で言った。
「確かにひどいわ……それに、私の字で書かれているように見えます」
「では、シャーリー嬢への侮辱を認めるのだな?」
「いいえ」
ピシャリと否定して、ファンテーヌは顔を上げる。
「私はこんな手紙、書いた覚えはございません」
「しかし、そなたの字であると言ったではないか」
「私の字に見える、と申し上げただけです。
この場にいらっしゃる貴い身分の方々のお耳に入れるのは忍びありませんが、巷には他人の文章を巧妙に真似て悪事に使う贋作師などが大勢います。
そのようなことを生業としている者を雇えばこんな手紙くらい、捏造するのは簡単なことです」
貴族達が不安げにざわつき始める。深窓の令嬢などは世間知らずだから初耳だろうが、ある程度年齢を重ねた貴族ならば思い当たることがあるようだ。
「確かに、そういった者がいるという話はよく聞きます」
「実は我が家も被害に遭ったことが……夫の字をそっくり真似した、偽の権利書が出回ったことがありますわ」
「ううむ。すると、あの手紙の真偽もわからなくなってきましたな」
まんまと貴族達に手紙への不信感を植え付けることに成功したファンテーヌは、すかさず次の手に打って出る。
「ところで、私もシャーリー様へ一つ、お訊ねしたいことがあります。
何故貴女は、その手紙の字が私のものだと思ったのです?」
「え?それは……ファンテーヌ様からもらったお茶会の招待状と、同じ字だったから……」
「それは変です。私は淑女の嗜みとして、手紙や招待状、時候のご挨拶などの文書はすべて、我が家で雇っている専門の女官に代筆をさせております。
ただし国王陛下ならびに王太子殿下におきましてはその限りではなく、僭越ながら私の手によって書きしたためましたものを送らせていただいております。
ですから私の字体がどんなものであるか知っているのは、家族を除けば陛下とアンドリュー殿下だけ……
なのにこの手紙の分は、確かに私の字にそっくりで、あまつさえ貴女はそれを知っている……どうしてなのですか?」
彼女の言い分は至極もっとも。家族およびこれから家族になる予定の者以外に手書きの字を見せないのは、大貴族の令嬢の常識だ。
ファンテーヌに注がれていた不穏な視線が、いっせいにシャーリーに向けられる。
いいぞファンテーヌ、その調子。君のターンは今のところ完璧だ。何たってこのゲームはただの乙女ゲーではない。
昨今の悪役令嬢ブームに乗っかって、その勢いで作られた“追放された悪役令嬢が個性豊かなイケメン達に求婚・溺愛され、元婚約者と性悪ヒロインをザマァして返り咲く”という、おいおい今更それかよという内容。
つまり主役はシャーリーじゃなくてファンテーヌ。
という訳で僕は……悪役令嬢からヒロインに乗り換えて、ザマァされる王子でえっす!!!
ところでこのゲーム、タイトルが『悪役令嬢じゃいられない!!秘密のシャイニー・キングダム~断罪された私と7人の求婚者~』なんだけど、絶妙にダサくない?
販売前に死んじゃったからわからないけど、売れたのかなあ……売れなかったろうなあ……
純真無垢な少女に嫉妬し、陰で貶めていた性悪で高慢ちきな女、というレッテルを貼られ、さっそく冷たい視線を向けられているファンテーヌだが、動じることなく言葉を発する。
僕はその要求を飲み、法務大臣に頷いた。
お辞儀を返した大臣が手紙を渡すと、ファンテーヌはサッと目を通し、静かな声で言った。
「確かにひどいわ……それに、私の字で書かれているように見えます」
「では、シャーリー嬢への侮辱を認めるのだな?」
「いいえ」
ピシャリと否定して、ファンテーヌは顔を上げる。
「私はこんな手紙、書いた覚えはございません」
「しかし、そなたの字であると言ったではないか」
「私の字に見える、と申し上げただけです。
この場にいらっしゃる貴い身分の方々のお耳に入れるのは忍びありませんが、巷には他人の文章を巧妙に真似て悪事に使う贋作師などが大勢います。
そのようなことを生業としている者を雇えばこんな手紙くらい、捏造するのは簡単なことです」
貴族達が不安げにざわつき始める。深窓の令嬢などは世間知らずだから初耳だろうが、ある程度年齢を重ねた貴族ならば思い当たることがあるようだ。
「確かに、そういった者がいるという話はよく聞きます」
「実は我が家も被害に遭ったことが……夫の字をそっくり真似した、偽の権利書が出回ったことがありますわ」
「ううむ。すると、あの手紙の真偽もわからなくなってきましたな」
まんまと貴族達に手紙への不信感を植え付けることに成功したファンテーヌは、すかさず次の手に打って出る。
「ところで、私もシャーリー様へ一つ、お訊ねしたいことがあります。
何故貴女は、その手紙の字が私のものだと思ったのです?」
「え?それは……ファンテーヌ様からもらったお茶会の招待状と、同じ字だったから……」
「それは変です。私は淑女の嗜みとして、手紙や招待状、時候のご挨拶などの文書はすべて、我が家で雇っている専門の女官に代筆をさせております。
ただし国王陛下ならびに王太子殿下におきましてはその限りではなく、僭越ながら私の手によって書きしたためましたものを送らせていただいております。
ですから私の字体がどんなものであるか知っているのは、家族を除けば陛下とアンドリュー殿下だけ……
なのにこの手紙の分は、確かに私の字にそっくりで、あまつさえ貴女はそれを知っている……どうしてなのですか?」
彼女の言い分は至極もっとも。家族およびこれから家族になる予定の者以外に手書きの字を見せないのは、大貴族の令嬢の常識だ。
ファンテーヌに注がれていた不穏な視線が、いっせいにシャーリーに向けられる。
いいぞファンテーヌ、その調子。君のターンは今のところ完璧だ。何たってこのゲームはただの乙女ゲーではない。
昨今の悪役令嬢ブームに乗っかって、その勢いで作られた“追放された悪役令嬢が個性豊かなイケメン達に求婚・溺愛され、元婚約者と性悪ヒロインをザマァして返り咲く”という、おいおい今更それかよという内容。
つまり主役はシャーリーじゃなくてファンテーヌ。
という訳で僕は……悪役令嬢からヒロインに乗り換えて、ザマァされる王子でえっす!!!
ところでこのゲーム、タイトルが『悪役令嬢じゃいられない!!秘密のシャイニー・キングダム~断罪された私と7人の求婚者~』なんだけど、絶妙にダサくない?
販売前に死んじゃったからわからないけど、売れたのかなあ……売れなかったろうなあ……
8
お気に入りに追加
365
あなたにおすすめの小説
その国外追放、謹んでお受けします。悪役令嬢らしく退場して見せましょう。
ユズ
恋愛
乙女ゲームの世界に転生し、悪役令嬢になってしまったメリンダ。しかもその乙女ゲーム、少し変わっていて?断罪される運命を変えようとするも失敗。卒業パーティーで冤罪を着せられ国外追放を言い渡される。それでも、やっぱり想い人の前では美しくありたい!
…確かにそうは思ったけど、こんな展開は知らないのですが!?
*小説家になろう様でも投稿しています
午前零時の悪役令嬢~断罪エンドなんてお断りです!?~
木立 花音
恋愛
マリベル王国のフィリップ殿下に見初められ婚約をしていたエリーザ・ビクトリアは、王族が集まっていた社交パーティーの会場で婚約破棄を言い渡されてしまう。
婚約破棄に至った理由は、エリーザが殿下の幼馴染であるマリアを苛め抜いていたこと、だというのだが、とうの本人であるエリーザにはまったく身に覚えのない話。
婚約破棄をされたエリーザは、家族にも見放されて勘当されてしまう。しかし、そんな彼女にも秘密があって──?
悪役令嬢なのに、ヒロインに協力を求められました
霜月零
恋愛
わたくし、クーデリア・タイタニックはいわゆる悪役令嬢です。
破滅の運命を逃れるべく、前世を思い出した十歳の時から婚約者である王子から逃げ回り、学園に通うようになってからは、ヒロインからも逃げまくりましたわ。
ですが……。
なぜそのわたくしが、ヒロインに土下座されて協力を求められていますの?
※他サイトでも掲載中です
乙女ゲームの断罪シーンの夢を見たのでとりあえず王子を平手打ちしたら夢じゃなかった
月
恋愛
気が付くとそこは知らないパーティー会場だった。
そこへ入場してきたのは"ビッターバター"王国の王子と、エスコートされた男爵令嬢。
ビッターバターという変な国名を聞いてここがゲームと同じ世界の夢だと気付く。
夢ならいいんじゃない?と王子の顔を平手打ちしようと思った令嬢のお話。
四話構成です。
※ラテ令嬢の独り言がかなり多いです!
お気に入り登録していただけると嬉しいです。
暇つぶしにでもなれば……!
思いつきと勢いで書いたものなので名前が適当&名無しなのでご了承下さい。
一度でもふっと笑ってもらえたら嬉しいです。
伯爵令嬢に転生したんだが、でっち上げで婚約破棄された。
ほったげな
恋愛
好きな乙女ゲームの登場キャラである伯爵令嬢のセレスティーヌに転生した私。しかし、いじめをしていたという理由で、婚約者から婚約破棄を言い渡された。
悪役令嬢は婚約破棄したいのに王子から溺愛されています。
白雪みなと
恋愛
この世界は乙女ゲームであると気づいた悪役令嬢ポジションのクリスタル・フェアリィ。
筋書き通りにやらないとどうなるか分かったもんじゃない。それに、貴族社会で生きていける気もしない。
ということで、悪役令嬢として候補に嫌われ、国外追放されるよう頑張るのだったが……。
王子さま、なぜ私を溺愛してらっしゃるのですか?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる