交換された花嫁

秘密 (秘翠ミツキ)

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第2章

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「ようやく街に着いたね」

乗合馬車に乗り自国を発ってから約10日余り。ようやく隣国の城下町に到着したが、予定より数日遅くなってしまった。

「さて、先ずは宿を探さないとね」

城下町という事もあり街の中はかなり人で賑わっている。食べ物屋や雑貨屋、宿屋など様々な店が建ち並ぶ。

「じゃあ、僕とクーで行って来るからレー君達は此処で待っててね」

「………」

確りと兄弟設定をこなすグラシアノは、何も反応のないオスクの手を取ると人混みに消えて行く。

オスクはこの所放心状態が続いており何の反応も見せない。隣にいるリアスもまた然り。ただ黙り込みその目は虚ろに見える。

レーヴァンはため息を吐いた。予定より数日遅くなったのには理由がある。途中盗賊に馬車が襲われた為だ。盗賊の数は10人を超える多人数だったが、所詮は盗賊に過ぎない。力には雲泥の差であり特に心配は無かった。

…だが多数の盗賊の襲撃に乗客達は混乱をして次から次に我先に逃げようと馬車を降りてしまった。レーヴァンがその場で待機する様に声を掛けるも混乱した乗客達の耳には届かない。

その様子に若干苛つきながらもレーヴァンはリアス、オスクを連れて乗客達に次いで外へ出た。

レーヴァン達が馬車の外に出た時には既に殆どの盗賊達はグラシアノとモデストにより片付けられており参戦する迄もない。レーヴァン達は必要無かったかと思った時だった。2人の男達がレーヴァン達へと斬りかかって来た。

レーヴァンは剣を抜き1人を斬ると男は血を吹き倒れた。もう1人の男はリアスとオスクへ向かってくる。リアスが剣を抜こうとした時、鈍い音が響いた。

「危ないわっ‼︎」

ーバシュッッ‼︎ー

唐突にリアスとオスクの前に現れたのは、レーヴァンとずっと話していた初老の女性だった。リアスとオスクを庇い背中を深く斬られている。

ーポタ…ポタ…ー

血飛沫がリアスの顔に掛かり、紅い血が女性の身体から流れ落ちていく。女性は服が紅く染まりその場に、倒れた。

「あ…」

視界が紅く染まる。

「ぁ、あ…」

流れる時間がゆっくりと、見えた。頭の中が真っ白になる。いつか見た記憶と混同されて、繋がった。

「あああああぁぁぁーーー‼︎」


瞬間悲鳴とも思われる声を上げたリアスは剣を抜き男を斬った。男は血を吹き倒れ、即死だった。だがそれでもリアスは男の上に乗り何度も何度も男を刺す。リアスの身体は返り血を浴び紅く染まっていく。辺りには悲鳴の様な喚き声だけが響いていた。

「ああああぁぁっー‼︎‼︎」

「リアス、リアス…リアスっ‼︎」

レーヴァンはリアスを男から引き離すと突き飛ばした。

「あ…あぁ…」

レーヴァンの冷たい視線がリアスに刺さる。気が触れた様なリアスを見てレーヴァンは少し後悔した。やはり連れて来るべきでは無かったと。

「…だ、いじ、ょ…ぶ…」

その時だった。掠れた声が聞こえる。まだ息があった女性はゆっくりと口を開いた。リアスは視線だけで女性を見ると…笑っていた。女性はリアスとオスクが無事なのを視線で確認出来ると。

「…よか…た」

そう言って息を引き取った。

レーヴァンと女性はこの数日様々な会話を楽しんでいた。そんな中、大分レーヴァンに気を許した様子の女性はこんな事を話していた。

『昔ね、私にも息子がいたのよ。丁度弟さん方くらいの歳だったわ。でも…戦でね、殺されてしまって…攻めて来た隣国の兵達に村を焼かれ、家族も友人も皆殺され…村の人達は半分くらいになってしまったわ…。たまにね、夢を見るのあの時の事を…今でも後悔してるわ、あの時どうして助けてあげられなかったのかって』







この盗賊の襲撃で亡くなったのは女性ただ1人だった。女性の遺体はグラシアノとモデストが近くの森の中に埋めて来た。盗賊達の死骸はそのまま野晒しのままにその場を後にする。その内狼の餌にでもなるだろう。

それからリアスは黙り込み、たまに何かを独り呟いていた。オスクの方は余りにもあの光景が衝撃的だったのか精神的に衰弱している様子だった。


レーヴァン達はグラシアノが宿を見つけて来るまでの間ある場所へ向かった。

「ありがとうございました」

レーヴァン達は両替所から出て来る。自国の貨幣をこの国の貨幣と両替をするついでに情報収集も忘れない。

面白い話が聞けた、とレーヴァンは満足そうな表情を浮かべた。

その後レーヴァン達は戻って来たグラシアノとオスクと合流をし、一先ず宿へ移動した。

「随分とまた面白い宿だね」

グラシアノが連れて行った宿はかなり派手だった。なんと言うか…眩しい。外観は金色が基調とされ、何故か入り口には銅像ならぬ金で出来た像が置かれている。金、金、金、金、金…。兎に角金。


「グラシアノ兄さん?何故この宿を選んだんですか?」

レーヴァンはにこにこと笑っているが、こめかみには怒りで皺が寄っている。こんなに金を惜しげも無く使った派手な宿だ。宿代はかなり値がはりそうなものだが…意外にも宿代は安かった。

「何故か分かりませんが、お客様が入らなくて困ってまして…値を下げたんです…」

元々通常の宿の値段だったらしいが、客入りが悪く仕方なく金額を下げたものの…やはり客は来ず。店主は悩ましげに話すが、理由は簡単だ。多分この店主以外誰でも分かる。



部屋は2部屋取った。本当なら1人1部屋が望ましいが、たかが傭兵がそんな贅沢をすれば怪しまれる。レーヴァンとリアス。グラシアノとオスク、モデストの部屋割りになった。


「悪趣味だ」

珍しく声を発したモデストは、眉を寄せた。それもその筈。まさかの部屋の中まで金、金、金だとは…。考え様によっては豪華な気分を味わえて宿代も安価でお得に思えるが…。

「これでは、休めん」

明らかに責める様な視線に、グラシアノは軽く笑う。

「はは、僕は好きだよ~こう言う部屋。しかも貸切状態で、色々と都合が良いしさ」

グラシアノの言葉にも一理ある。この悪趣味のお陰で他の客はほぼいないに等しい。休める休めないは別として人目につかないのは好都合だ。モデストにもそれは分かっている。グラシアノがこの宿に決めた理由がそこにある事を。

しかし、金の扉、金のカーテン、金のベッド、床、天井…窓枠まで金だった。兎に角何処に視線を遣っても眩しい。目がチカチカする。

「オスクもそう思わない?」

グラシアノがオスクに話を振るが、相変わらず無反応だ。困ったなぁ。ようやく国境を越えたのにこれでは先が思いやられる。そしてリアスは更に不味い。あの様子では任務どころではないだろう。

グラシアノはリアスの事を良く知らない。何度か顔を合わせた事がある程度だ。ただあの様子は尋常じゃない。何かある、と思う。無論レーヴァンは知っている筈だが…どうするつもりか。

あくまで目的は『彼女』の奪還だ。リアスに構っている場合ではない。いざとなればレーヴァンは、リアスを切り捨てるだろう。やはり国境を越える前に置いて来た方が良かったのではないかとグラシアノは思った。


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