上 下
59 / 81

58

しおりを挟む
「痛っ……」

フィオナが小さく声を上げた。ヴィレームは慌てて、彼女を離す。

「フィオナ⁉︎ごめんっ、痛かった⁉︎」

「違います、ヴィレーム様は悪くありません。ただ、足を捻ってしまったみたいで……」

その言葉に、先程の二人の会話を思い出す。まさか、この男がフィオナに怪我をさせたのか……。男を睨むと、彼はしれっとしてこちらを眺めていた。その態度に、無性に腹が立つ。

「そう、なら取り敢えず中に入って休もう」

ヴィレームはフィオナを抱き上げる。一瞬嫌がられたらどうしようかと思ったが、フィオナは遠慮がちに身を寄せて来た。その事で、気を良くしたらヴィレームは男を見て鼻を鳴らす。すると、今度は苛立った様子で睨まれた。暫し、睨み合いが続く。

「そんな場所で、突っ立ってないでさっさとお入りなさいませ」

シャルロットに頭を軽く叩かれた……。どうしても、格好がつかない。ヴィレームは肩を落とし、フィオナを確りと抱えながら大人しく屋敷へと入った。




フィオナを部屋に運び、一旦シビルに彼女を任せると応接間に向かった。

「フィオナを、送って頂きありがとうございました。彼女はもう大丈夫ですから、お引き取り頂いて結構ですよ、殿下」

ヴィレームの言葉にオリフェオは、鼻を鳴らす。

「覚えていたのか。能天気な顔をして、意外と莫迦ではないようだな」

能天気……。

地味にダメージを受けた。自分ではそんな風に思った事はなかった。無論周りから言われた事もない。だが、言われた事がないだけで本当は皆思っているのか……。まさか、フィオナも……⁉︎

「ふふふ、ヴィレーム~。貴方、能天気ですって。顔は良いのに残念ですわねぇ」

「ははっ、言われてみれば確かに」

キュルキュルキュル。

シャルロットのみならず、ブレソールやいつの間にか長椅子に座って寛いでいるフリュイにすら笑われた……。唯一表情を変えていないクルトと見遣るが、内心絶対笑っているに違いない。彼はそういう人間だ。

「……お褒めの言葉として、受け取っておきます」

顔が引き攣るのを抑えられない。だが何とか毅然とした態度で返した。

「懸命だな」

何で自分がこんな目に遭わないといけないのか……最悪だ。朝からシャルロットには平手打ちを食らい、昼間は馬車馬の様に働き、フィオナは学院でいないし、帰って来たかと思えば男に抱き抱えられていた。
今日は厄日か何かか……。

その後も再三に渡りヴィレームはオリフェオに帰る様に促したのにも関わらず、何を思っているか彼は一向に帰る気配がない。寧ろ寛ぎ出した。

クルトもクルトで、主人に許可なく勝手に茶を出す始末だ。こんな奴、もてなしてどうするつもりだ。

「貴方が、フィオナに怪我を負わせたんですか」

諦め、苛々しながらヴィレームはオリフェオの正面に腰を下ろした。

「不可抗力ではあるが、そうなるな」

何故か勝ち誇った様に語るオリフェオに、更に苛々感は増す。
本当は、フィオナの口から何があったか聞くつもりだったが、この際だ。一応彼からも聞いておこうと思う。

シャルロットやブレソールも加わり、事の顛末を聞いた。オリフェオの言葉には、何処となく引っかかる気もしたが取り敢えずは納得はした。それよりも……。

「姉上、一体何考えてるんですか⁉︎あんな馬鹿でかい鳥、連れて行くなんて」

アトラスはシャルロットの使い魔だ。以前シャルロットが、何とかエリハゲワシなのよぉ~可愛いでしょう?とかなんとか言っていたが忘れた。姉は可愛いと宣うが、人肉こそ食べないが、獰猛な肉食であり体も大きく危険な生き物だ。ただアトラス自体は、割と穏やかで大人しい気質ではある。だが、だからと言って危険な事に変わりない。

「だってぇ、アトラスも一緒に、お勉強したいって言っている気がしたのよぉ」

そんな訳あるか‼︎

心の中で突っ込みを入れるが、直接は言えない……。ヴィレームは咳払いをする。

「それは姉上の気の所為です」

「あら」

「兎に角、今後アトラスをフィオナに近付けないで下さい」

「分かってるけどぉ」

「姉上」

「はぁ~い」

気の抜ける様な返事をするシャルロットに、不安が残る。絶対また何かやらかすに決まっている。昔からそうだった……。懐かしい思い出が蘇り、げんなりする。思い出したくない……。

暫くこんな不毛なやり取りが続いたが、不意にオリフェオは立ち上がると満足したのか帰って行った。

「また、来る」

去り際にそんな要らぬ言葉を残して。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

パーティー会場で婚約破棄するなんて、物語の中だけだと思います

みこと
ファンタジー
「マルティーナ!貴様はルシア・エレーロ男爵令嬢に悪質な虐めをしていたな。そのような者は俺の妃として相応しくない。よって貴様との婚約の破棄そして、ルシアとの婚約をここに宣言する!!」 ここ、魔術学院の創立記念パーティーの最中、壇上から声高らかに宣言したのは、ベルナルド・アルガンデ。ここ、アルガンデ王国の王太子だ。 何故かふわふわピンク髪の女性がベルナルド王太子にぶら下がって、大きな胸を押し付けている。 私、マルティーナはフローレス侯爵家の次女。残念ながらこのベルナルド王太子の婚約者である。 パーティー会場で婚約破棄って、物語の中だけだと思っていたらこのザマです。 設定はゆるいです。色々とご容赦お願い致しますm(*_ _)m

虐げられた令嬢、ペネロペの場合

キムラましゅろう
ファンタジー
ペネロペは世に言う虐げられた令嬢だ。 幼い頃に母を亡くし、突然やってきた継母とその後生まれた異母妹にこき使われる毎日。 父は無関心。洋服は使用人と同じくお仕着せしか持っていない。 まぁ元々婚約者はいないから異母妹に横取りされる事はないけれど。 可哀想なペネロペ。でもきっといつか、彼女にもここから救い出してくれる運命の王子様が……なんて現れるわけないし、現れなくてもいいとペネロペは思っていた。何故なら彼女はちっとも困っていなかったから。 1話完結のショートショートです。 虐げられた令嬢達も裏でちゃっかり仕返しをしていて欲しい…… という願望から生まれたお話です。 ゆるゆる設定なのでゆるゆるとお読みいただければ幸いです。 R15は念のため。

彼氏が親友と浮気して結婚したいというので、得意の氷魔法で冷徹な復讐をすることにした。

和泉鷹央
ファンタジー
 幼い頃に住んでいたボルダスの街に戻って来たアルフリーダ。  王都の魔法学院を卒業した彼女は、二級魔導師の資格を持つ氷の魔女だった。  二級以上の魔導師は貴族の最下位である準士の資格を与えられ辺境では名士の扱いを受ける。  ボルダスを管理するラーケム伯と教会の牧師様の来訪を受けた時、アルフリーダは親友のエリダと再会した。  彼女の薦めで、隣の城塞都市カルムの領主であるセナス公爵の息子、騎士ラルクを推薦されたアルフリーダ。  半年後、二人は婚約をすることになるが恋人と親友はお酒の勢いで関係を持ったという。  自宅のベッドで過ごす二人を発見したアルフリーダは優しい微笑みと共に、二人を転送魔法で郊外の川に叩き込んだ。  数日後、謝罪もなく婚約破棄をしたいと申し出る二人に、アルフリーダはとある贈り物をすることにした。  他の投稿サイトにも掲載しています。

【本編完結】ただの平凡令嬢なので、姉に婚約者を取られました。

138ネコ@書籍化&コミカライズしました
ファンタジー
「誰にも出来ないような事は求めないから、せめて人並みになってくれ」  お父様にそう言われ、平凡になるためにたゆまぬ努力をしたつもりです。  賢者様が使ったとされる神級魔法を会得し、復活した魔王をかつての勇者様のように倒し、領民に慕われた名領主のように領地を治めました。  誰にも出来ないような事は、私には出来ません。私に出来るのは、誰かがやれる事を平凡に努めてきただけ。  そんな平凡な私だから、非凡な姉に婚約者を奪われてしまうのは、仕方がない事なのです。  諦めきれない私は、せめて平凡なりに仕返しをしてみようと思います。

婚約破棄され逃げ出した転生令嬢は、最強の安住の地を夢見る

拓海のり
ファンタジー
 階段から落ちて死んだ私は、神様に【救急箱】を貰って異世界に転生したけれど、前世の記憶を思い出したのが婚約破棄の現場で、私が断罪される方だった。  頼みのギフト【救急箱】から出て来るのは、使うのを躊躇うような怖い物が沢山。出会う人々はみんな訳ありで兵士に追われているし、こんな世界で私は生きて行けるのだろうか。  破滅型の転生令嬢、腹黒陰謀型の年下少年、腕の立つ元冒険者の護衛騎士、ほんわり癒し系聖女、魔獣使いの半魔、暗部一族の騎士。転生令嬢と訳ありな皆さん。  ゆるゆる異世界ファンタジー、ご都合主義満載です。  タイトル色々いじっています。他サイトにも投稿しています。 完結しました。ありがとうございました。

全てを諦めた令嬢の幸福

セン
恋愛
公爵令嬢シルヴィア・クロヴァンスはその奇異な外見のせいで、家族からも幼い頃からの婚約者からも嫌われていた。そして学園卒業間近、彼女は突然婚約破棄を言い渡された。 諦めてばかりいたシルヴィアが周りに支えられ成長していく物語。 ※途中シリアスな話もあります。

私を裏切った相手とは関わるつもりはありません

みちこ
ファンタジー
幼なじみに嵌められて処刑された主人公、気が付いたら8年前に戻っていた。 未来を変えるために行動をする 1度裏切った相手とは関わらないように過ごす

【完結】捨てられた双子のセカンドライフ

mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】 王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。 父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。 やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。 これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。 冒険あり商売あり。 さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。 (話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)

処理中です...