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「痛っ……」
フィオナが小さく声を上げた。ヴィレームは慌てて、彼女を離す。
「フィオナ⁉︎ごめんっ、痛かった⁉︎」
「違います、ヴィレーム様は悪くありません。ただ、足を捻ってしまったみたいで……」
その言葉に、先程の二人の会話を思い出す。まさか、この男がフィオナに怪我をさせたのか……。男を睨むと、彼はしれっとしてこちらを眺めていた。その態度に、無性に腹が立つ。
「そう、なら取り敢えず中に入って休もう」
ヴィレームはフィオナを抱き上げる。一瞬嫌がられたらどうしようかと思ったが、フィオナは遠慮がちに身を寄せて来た。その事で、気を良くしたらヴィレームは男を見て鼻を鳴らす。すると、今度は苛立った様子で睨まれた。暫し、睨み合いが続く。
「そんな場所で、突っ立ってないでさっさとお入りなさいませ」
シャルロットに頭を軽く叩かれた……。どうしても、格好がつかない。ヴィレームは肩を落とし、フィオナを確りと抱えながら大人しく屋敷へと入った。
フィオナを部屋に運び、一旦シビルに彼女を任せると応接間に向かった。
「フィオナを、送って頂きありがとうございました。彼女はもう大丈夫ですから、お引き取り頂いて結構ですよ、殿下」
ヴィレームの言葉にオリフェオは、鼻を鳴らす。
「覚えていたのか。能天気な顔をして、意外と莫迦ではないようだな」
能天気……。
地味にダメージを受けた。自分ではそんな風に思った事はなかった。無論周りから言われた事もない。だが、言われた事がないだけで本当は皆思っているのか……。まさか、フィオナも……⁉︎
「ふふふ、ヴィレーム~。貴方、能天気ですって。顔は良いのに残念ですわねぇ」
「ははっ、言われてみれば確かに」
キュルキュルキュル。
シャルロットのみならず、ブレソールやいつの間にか長椅子に座って寛いでいるフリュイにすら笑われた……。唯一表情を変えていないクルトと見遣るが、内心絶対笑っているに違いない。彼はそういう人間だ。
「……お褒めの言葉として、受け取っておきます」
顔が引き攣るのを抑えられない。だが何とか毅然とした態度で返した。
「懸命だな」
何で自分がこんな目に遭わないといけないのか……最悪だ。朝からシャルロットには平手打ちを食らい、昼間は馬車馬の様に働き、フィオナは学院でいないし、帰って来たかと思えば男に抱き抱えられていた。
今日は厄日か何かか……。
その後も再三に渡りヴィレームはオリフェオに帰る様に促したのにも関わらず、何を思っているか彼は一向に帰る気配がない。寧ろ寛ぎ出した。
クルトもクルトで、主人に許可なく勝手に茶を出す始末だ。こんな奴、もてなしてどうするつもりだ。
「貴方が、フィオナに怪我を負わせたんですか」
諦め、苛々しながらヴィレームはオリフェオの正面に腰を下ろした。
「不可抗力ではあるが、そうなるな」
何故か勝ち誇った様に語るオリフェオに、更に苛々感は増す。
本当は、フィオナの口から何があったか聞くつもりだったが、この際だ。一応彼からも聞いておこうと思う。
シャルロットやブレソールも加わり、事の顛末を聞いた。オリフェオの言葉には、何処となく引っかかる気もしたが取り敢えずは納得はした。それよりも……。
「姉上、一体何考えてるんですか⁉︎あんな馬鹿でかい鳥、連れて行くなんて」
アトラスはシャルロットの使い魔だ。以前シャルロットが、何とかエリハゲワシなのよぉ~可愛いでしょう?とかなんとか言っていたが忘れた。姉は可愛いと宣うが、人肉こそ食べないが、獰猛な肉食であり体も大きく危険な生き物だ。ただアトラス自体は、割と穏やかで大人しい気質ではある。だが、だからと言って危険な事に変わりない。
「だってぇ、アトラスも一緒に、お勉強したいって言っている気がしたのよぉ」
そんな訳あるか‼︎
心の中で突っ込みを入れるが、直接は言えない……。ヴィレームは咳払いをする。
「それは姉上の気の所為です」
「あら」
「兎に角、今後アトラスをフィオナに近付けないで下さい」
「分かってるけどぉ」
「姉上」
「はぁ~い」
気の抜ける様な返事をするシャルロットに、不安が残る。絶対また何かやらかすに決まっている。昔からそうだった……。懐かしい思い出が蘇り、げんなりする。思い出したくない……。
暫くこんな不毛なやり取りが続いたが、不意にオリフェオは立ち上がると満足したのか帰って行った。
「また、来る」
去り際にそんな要らぬ言葉を残して。
フィオナが小さく声を上げた。ヴィレームは慌てて、彼女を離す。
「フィオナ⁉︎ごめんっ、痛かった⁉︎」
「違います、ヴィレーム様は悪くありません。ただ、足を捻ってしまったみたいで……」
その言葉に、先程の二人の会話を思い出す。まさか、この男がフィオナに怪我をさせたのか……。男を睨むと、彼はしれっとしてこちらを眺めていた。その態度に、無性に腹が立つ。
「そう、なら取り敢えず中に入って休もう」
ヴィレームはフィオナを抱き上げる。一瞬嫌がられたらどうしようかと思ったが、フィオナは遠慮がちに身を寄せて来た。その事で、気を良くしたらヴィレームは男を見て鼻を鳴らす。すると、今度は苛立った様子で睨まれた。暫し、睨み合いが続く。
「そんな場所で、突っ立ってないでさっさとお入りなさいませ」
シャルロットに頭を軽く叩かれた……。どうしても、格好がつかない。ヴィレームは肩を落とし、フィオナを確りと抱えながら大人しく屋敷へと入った。
フィオナを部屋に運び、一旦シビルに彼女を任せると応接間に向かった。
「フィオナを、送って頂きありがとうございました。彼女はもう大丈夫ですから、お引き取り頂いて結構ですよ、殿下」
ヴィレームの言葉にオリフェオは、鼻を鳴らす。
「覚えていたのか。能天気な顔をして、意外と莫迦ではないようだな」
能天気……。
地味にダメージを受けた。自分ではそんな風に思った事はなかった。無論周りから言われた事もない。だが、言われた事がないだけで本当は皆思っているのか……。まさか、フィオナも……⁉︎
「ふふふ、ヴィレーム~。貴方、能天気ですって。顔は良いのに残念ですわねぇ」
「ははっ、言われてみれば確かに」
キュルキュルキュル。
シャルロットのみならず、ブレソールやいつの間にか長椅子に座って寛いでいるフリュイにすら笑われた……。唯一表情を変えていないクルトと見遣るが、内心絶対笑っているに違いない。彼はそういう人間だ。
「……お褒めの言葉として、受け取っておきます」
顔が引き攣るのを抑えられない。だが何とか毅然とした態度で返した。
「懸命だな」
何で自分がこんな目に遭わないといけないのか……最悪だ。朝からシャルロットには平手打ちを食らい、昼間は馬車馬の様に働き、フィオナは学院でいないし、帰って来たかと思えば男に抱き抱えられていた。
今日は厄日か何かか……。
その後も再三に渡りヴィレームはオリフェオに帰る様に促したのにも関わらず、何を思っているか彼は一向に帰る気配がない。寧ろ寛ぎ出した。
クルトもクルトで、主人に許可なく勝手に茶を出す始末だ。こんな奴、もてなしてどうするつもりだ。
「貴方が、フィオナに怪我を負わせたんですか」
諦め、苛々しながらヴィレームはオリフェオの正面に腰を下ろした。
「不可抗力ではあるが、そうなるな」
何故か勝ち誇った様に語るオリフェオに、更に苛々感は増す。
本当は、フィオナの口から何があったか聞くつもりだったが、この際だ。一応彼からも聞いておこうと思う。
シャルロットやブレソールも加わり、事の顛末を聞いた。オリフェオの言葉には、何処となく引っかかる気もしたが取り敢えずは納得はした。それよりも……。
「姉上、一体何考えてるんですか⁉︎あんな馬鹿でかい鳥、連れて行くなんて」
アトラスはシャルロットの使い魔だ。以前シャルロットが、何とかエリハゲワシなのよぉ~可愛いでしょう?とかなんとか言っていたが忘れた。姉は可愛いと宣うが、人肉こそ食べないが、獰猛な肉食であり体も大きく危険な生き物だ。ただアトラス自体は、割と穏やかで大人しい気質ではある。だが、だからと言って危険な事に変わりない。
「だってぇ、アトラスも一緒に、お勉強したいって言っている気がしたのよぉ」
そんな訳あるか‼︎
心の中で突っ込みを入れるが、直接は言えない……。ヴィレームは咳払いをする。
「それは姉上の気の所為です」
「あら」
「兎に角、今後アトラスをフィオナに近付けないで下さい」
「分かってるけどぉ」
「姉上」
「はぁ~い」
気の抜ける様な返事をするシャルロットに、不安が残る。絶対また何かやらかすに決まっている。昔からそうだった……。懐かしい思い出が蘇り、げんなりする。思い出したくない……。
暫くこんな不毛なやり取りが続いたが、不意にオリフェオは立ち上がると満足したのか帰って行った。
「また、来る」
去り際にそんな要らぬ言葉を残して。
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