上 下
53 / 81

52

しおりを挟む
『……』

今、死んだ……って……。

フィオナは全身が粟立つ感覚を覚える。改めてオリフェオを見遣ると項垂れ、憔悴しきった顔をしていた。とても冗談を言ってフィオナを揶揄っている様には思えない。

『少し語弊があるな。ニクラスは、殺されていたんだ』

『……っ』

『何時も朝早い彼奴が、私が今朝登院したら教室に姿がなかった。珍しいと思っていたら……図書室で死んでいた。これはまだ一部の人間にしか知らされていない。ニクラスを発見した生徒と、私、教師だけだ。生徒等がパニックにならないようにな』

フィオナは黙って話を聞いていた。かける言葉も見つからないのもあるが、そもそも驚き過ぎて声が出ない。心臓が煩いくらいに、脈打っていた。嫌な感覚がする。

『……心臓が、抜き取られていたんだ』

オリフェオが言うには、友人ニクラスに目立った外傷はなかったが、胸元に穴が空いており綺麗に心臓だけが抜き取られていたそうだ。ぞっとした。
口の中が酷く乾き……動悸が止まらない。フィオナは、ゆっくりと息を吐き、気持ちを落ち着かせた。

『そんな大切な事を、私などに話してしまって、宜しいのですか?』

一通り話が終わり、ようやく声が出た。少しだけ震える。

『どうせ、お前は話す相手もいないだろう』

その嫌味な言葉に口元が引き攣る。確かに以前ならそうだったかも知れないが、今は違う。失礼だと、フィオナはムッとするが直ぐにそんな気持ちはなくなった。

虚なその横顔を見て思う。きっと、誰かに聞いて貰いたかったのだろうと……。

『あの……それで、殿下は何故この様な場所へ……』

『教室に戻る気分じゃない……だからと言って帰る気分でもない』

子供の様な物言いに苦笑するが、何となく気持ちは分かる。
どうやらオリフェオは朝から今まで、校内を徘徊していおり、たまたま裏庭に行き着いた様だ。

彼にとってニコラスは余程大切な存在だったのだろう。今彼はニコラスの死を受け止めきれずにいる。謂わば現実逃避の様な状態なのかも知れない。

『で、殿下?何方へ……』

不意に彼は立ち上がる。そして覚束無い足取りで歩いて行ってしまう。フィオナは、ようやく立ち去ってくれた事の安堵感よりも、彼が心配になった。別にフィオナには関係ない事だ……。友人でもなければ、顔を合わせるのも二回目であり、寧ろ以前嫌な思いをさせられた。他人であり、関わりたくない人物だ。

『……』

フィオナは慌ててお弁当の包みを纏めて、立ち上がるとオリフェオの後を追いかけた。



そして今に至る。

オリフェオはあれからずっと宛もなく校内をウロウロとしていた。昼休みは疾うの前に終わっており、結局授業をサボってしまった……。だがこんな状態のオリフェオをほっておく事は出来ない故、致し方がない。

気が付けば図書室の前まで来ていた。立ち入り禁止になっており、入れない様になっているにも関わらずオリフェオは平然と中へ入って行ってしまう。フィオナも慌てて追いかけた。

「どうして、貴方が……」

今はまだ授業中であり、誰もいないと思われたが図書室にはまさかの先客がいた。

「ハンス様……」


しおりを挟む
感想 34

あなたにおすすめの小説

妹が聖女の再来と呼ばれているようです

田尾風香
ファンタジー
ダンジョンのある辺境の地で回復術士として働いていたけど、父に呼び戻されてモンテリーノ学校に入学した。そこには、私の婚約者であるファルター殿下と、腹違いの妹であるピーアがいたんだけど。 「マレン・メクレンブルク! 貴様とは婚約破棄する!」  どうやらファルター殿下は、"低能"と呼ばれている私じゃなく、"聖女の再来"とまで呼ばれるくらいに成績の良い妹と婚約したいらしい。 それは別に構わない。国王陛下の裁定で無事に婚約破棄が成った直後、私に婚約を申し込んできたのは、辺境の地で一緒だったハインリヒ様だった。 戸惑う日々を送る私を余所に、事件が起こる。――学校に、ダンジョンが出現したのだった。 更新は不定期です。

婚約破棄され逃げ出した転生令嬢は、最強の安住の地を夢見る

拓海のり
ファンタジー
 階段から落ちて死んだ私は、神様に【救急箱】を貰って異世界に転生したけれど、前世の記憶を思い出したのが婚約破棄の現場で、私が断罪される方だった。  頼みのギフト【救急箱】から出て来るのは、使うのを躊躇うような怖い物が沢山。出会う人々はみんな訳ありで兵士に追われているし、こんな世界で私は生きて行けるのだろうか。  破滅型の転生令嬢、腹黒陰謀型の年下少年、腕の立つ元冒険者の護衛騎士、ほんわり癒し系聖女、魔獣使いの半魔、暗部一族の騎士。転生令嬢と訳ありな皆さん。  ゆるゆる異世界ファンタジー、ご都合主義満載です。  タイトル色々いじっています。他サイトにも投稿しています。 完結しました。ありがとうございました。

野生児少女の生存日記

花見酒
ファンタジー
とある村に住んでいた少女、とある鑑定式にて自身の適性が無属性だった事で危険な森に置き去りにされ、その森で生き延びた少女の物語

転生令嬢は現状を語る。

みなせ
ファンタジー
目が覚めたら悪役令嬢でした。 よくある話だけど、 私の話を聞いてほしい。

捨てられ令嬢は、異能の眼を持つ魔術師になる。私、溺愛されているみたいですよ?

miy
ファンタジー
アンデヴァイセン伯爵家の長女であるイルシスは、『魔眼』といわれる赤い瞳を持って生まれた。 魔眼は、眼を見た者に呪いをかけると言い伝えられ…昔から忌み嫌われる存在。 邸で、伯爵令嬢とは思えない扱いを受けるイルシス。でも…彼女は簡単にはへこたれない。 そんなイルシスを救おうと手を差し伸べたのは、ランチェスター侯爵家のフェルナンドだった。 前向きで逞しい精神を持つ彼女は、新しい家族に出会い…愛されていく。 そんなある日『帝国の砦』である危険な辺境の地へ…フェルナンドが出向くことに。 「私も一緒に行く!」 異能の能力を開花させ、魔術だって使いこなす最強の令嬢。 愛する人を守ってみせます! ※ご都合主義です。お許し下さい。 ※ファンタジー要素多めですが、間違いなく溺愛されています。 ※本編は全80話(閑話あり)です。 おまけ話を追加しました。(10/15完結) ※この作品は、ド素人が書いた2作目です。どうか…あたたかい目でご覧下さい。よろしくお願い致します。

悪役令嬢エリザベート物語

kirara
ファンタジー
私の名前はエリザベート・ノイズ 公爵令嬢である。 前世の名前は横川禮子。大学を卒業して入った企業でOLをしていたが、ある日の帰宅時に赤信号を無視してスクランブル交差点に飛び込んできた大型トラックとぶつかりそうになって。それからどうなったのだろう。気が付いた時には私は別の世界に転生していた。 ここは乙女ゲームの世界だ。そして私は悪役令嬢に生まれかわった。そのことを5歳の誕生パーティーの夜に知るのだった。 父はアフレイド・ノイズ公爵。 ノイズ公爵家の家長であり王国の重鎮。 魔法騎士団の総団長でもある。 母はマーガレット。 隣国アミルダ王国の第2王女。隣国の聖女の娘でもある。 兄の名前はリアム。  前世の記憶にある「乙女ゲーム」の中のエリザベート・ノイズは、王都学園の卒業パーティで、ウィリアム王太子殿下に真実の愛を見つけたと婚約を破棄され、身に覚えのない罪をきせられて国外に追放される。 そして、国境の手前で何者かに事故にみせかけて殺害されてしまうのだ。 王太子と婚約なんてするものか。 国外追放になどなるものか。 乙女ゲームの中では一人ぼっちだったエリザベート。 私は人生をあきらめない。 エリザベート・ノイズの二回目の人生が始まった。 ⭐️第16回 ファンタジー小説大賞参加中です。応援してくれると嬉しいです

ひめさまはおうちにかえりたい

あかね
ファンタジー
政略結婚と言えど、これはない。帰ろう。とヴァージニアは決めた。故郷の兄に気に入らなかったら潰して帰ってこいと言われ嫁いだお姫様が、王冠を手にするまでのお話。(おうちにかえりたい編)

微妙なバフなどもういらないと追放された補助魔法使い、バフ3000倍で敵の肉体を内部から破壊して無双する

こげ丸
ファンタジー
「微妙なバフなどもういらないんだよ!」 そう言われて冒険者パーティーを追放されたフォーレスト。 だが、仲間だと思っていたパーティーメンバーからの仕打ちは、それだけに留まらなかった。 「もうちょっと抵抗頑張んないと……妹を酷い目にあわせちゃうわよ?」 窮地に追い込まれたフォーレスト。 だが、バフの新たな可能性に気付いたその時、復讐はなされた。 こいつら……壊しちゃえば良いだけじゃないか。 これは、絶望の淵からバフの新たな可能性を見いだし、高みを目指すに至った補助魔法使いフォーレストが最強に至るまでの物語。

処理中です...