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朝目を覚ますとフィオナは自分で身支度を整える。まだこの顔のアザが無かった時には侍女にして貰っていたが、極力人と接したくないので自力で出来る様に努力をした。

仮面を付けてアザを隠しても、侍女等から向ける蔑む視線が嫌だった。それにこのアザはただのアザではない。呪いなのだ。誰もフィオナには触れたがらない。

両親や姉、妹からは「呪いが移る」と莫迦にされ、距離を取られていた。実際移るかどうかはフィオナにも分からない。だが弟だけは「大丈夫だよ、姉さん」そう何時も声を掛け、まるで気にする事なく手を握り励ましてくれる。

「なんて……醜い」

毎朝鏡で自分の顔を見ては、同じ言葉を繰り返す。意味のない言動だが、もうコレは癖の様なもの。鏡台に無造作に置かれた仮面をつけると、ふと目に入る化粧品類……。
何度も何度も、試した。化粧でアザを隠そうと、隙間なく塗りたくる。だがどうやってもアザは隠せない。いっその事、塗料でも塗ろうかと思った事もある……流石に思い止まったが。

無駄だと分かりきっているのに、どうしてフィオナの部屋に化粧品があるかと言うと、たまに衝動に駆られて塗りたくるからだ。
この顔になり、もう十年程経つのにも関わらず、我ながら諦めの悪い事だ。

こんな醜い顔では結婚は望めない。だから、諦めて一人で生きていける様にとひたすら勉学に励んでいる。それでも化粧品を捨てられずにいるのは、心の何処かで諦める事が出来ずにいるからかも知れない。

クローゼットを開けば地味な色と形のドレスばりが並ぶ。とても年頃の娘が着る物ではない。これは妹からの嫌がらせだ。

両親に「お姉様はそうじゃなくても悪目立ちしてるんだから、着る物は地味じゃないとバランスが取れないわ」とよく分からない理論を並べ、それに両親は納得をしていた。

フィオナが暫し立ち尽くしていると、コンコンッと部屋の扉が叩かれた。この部屋は、勝手に部屋に人が入れない様にと、内鍵しかなく外からは開かない様になっている。元々フィオナの部屋は別にあったが、内鍵だけの部屋はここだけだった故に、強引に部屋を変えた。両親等は怒ったが、弟が手を貸してくれた。

「おはよう、姉さん」

扉を開けると爽やかに笑い挨拶をする弟のヨハンが立っていた。その姿に仮面の下の口元も緩む。

「朝食持って来たよ、食べよう」

ヨハンは、トレーを持ち部屋の中へ入ると、手慣れた手付きでテーブルにパンやサラダ、フルーツの乗った皿を並べていく。

「頂きます」

フィオナは仮面を取り、極力顔が見えない様に俯き食べる。だがヨハンはそんなフィオナを気に留める様子もなく、何気ない会話をしながら愉し気に食べていた。フィオナにとって優しい弟がいてくれる事が唯一の救いだと、何時も思う。



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