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エピローグ
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あの夜から、数日が経った。
「本当に、行くんだね……」
「はい」
二人が話している後ろで、従者が馬車にロゼッタの荷物を乗せている。暫くしてそれが終わるとロゼッタは踵を返し馬車へと乗ろうとしたが、手を引かれ後ろに蹌踉めく。
「ロゼッタっ」
フェルナンドはそのままロゼッタを引き寄せ抱き締めた。涙こそ流していないが、今にも泣きそうな顔をしていた。まるで捨てられた子供の様なそんな顔だ。
あの時ロゼッタは、敢えてフェルナンドに言わなかった。……本当は兄妹ではないという真実を。きっと兄妹でないと知ったら、彼は絶対に自分を手放してくれないだろうと分かっていたから。
「また……いつか。フェル、兄様……」
「ロゼッタ……」
ロゼッタはフェルナンドから身を離すと、今度こそ馬車に乗り込んだ。背に彼の視線を痛いくらいに感じたが、振り返る事はしない。
椅子に腰を下ろすとカーテンの合間から外を見遣る。すると彼はただ呆然と立ち尽くしこちらを眺めていた。
ゆっくりと馬車は動き出しす。程なくして屋敷も彼の姿も見えなくなっていった。
いつか彼は真実を知る事になるかも知れない。両親達には敢えて言わない様に口止めをしたが、もし彼から訊ねてくる様な事があれば嘘偽りなく話す様に頼んだ。
結局、ロゼッタはフェルナンドと別れる道を選んだ。彼の真意を知り、彼が好きだと自覚した。だがそれと同じくらい赦せない気持ちもあった。
だからこそ、彼から離れようと離れなければならないと思ったのだ。きっとこのまま元に戻ったとしても、ロゼッタもフェルナンドもダメになってしまいそうで……怖かった。
これからロゼッタは郊外にある遠縁の親戚の屋敷で暮らす。実家には戻りたくなかった。かと言って行く場所もない。今考えられる最善の選択だと思っている。
『ごめんなさい』
数日前、クラウスやダーヴィット、ミラベルやジョエルの所へ謝罪と礼、そして別れを告げに言った。
クラウスの所へ行った時だった。彼から、ずっとロゼッタの事を慕っていたという主旨を告げられた。だが、彼の気持ちには応えられない。ロゼッタが謝ると、クラウスはまるで分かっていた様に曇りのない笑みを浮かべた。
『私の所為で、クラウス様は……なのに』
『いや、寧ろ良かった』
『?』
『負い目や同情で僕を選ぼうとしたら……怒ったよ』
『クラウス、様……』
『でもさ、まだ諦めてないから』
挑戦的な瞳で彼は悪戯っ子の様に笑う。
『あの男とは別れるなら、僕にもまだ機会はある。今は黙って見送ってあげるけど、時が来たらロゼッタ、必ず君に会いに行くから……。それまでに僕はもっと成長しないと。君を支える事が出来るくらい立派な男になる。だから……覚悟しておいてよ』
その後ダーヴィットには『寂しいよ、やだ、ダメ!』と必死に引き止められた。
ミラベルは『ロゼッタ様が、その様に決められたのなら……』寂しそうに笑っていた。
ジョエルには『何かあったら直ぐに連絡しろ。直ぐに俺たちが駆け付ける』そう言われ頭を撫でられた。
ロゼッタは窓の外を眺めながら思い出すと、笑みを浮かべた。友想いの優しく頼りになるロゼッタの友人達。彼らに感謝の気持ちが溢れてくると同じに急に心細くもなる。
「また、いつか……」
彼等と再会する時までに……立派な淑女にならないとね。
数ヶ月後、実家から届いた知らせではロゼッタの両親は離縁し父は爵位を剥奪されたと聞いた。フェルナンドの両親も離縁し叔母は屋敷を追い出され、その後消息不明に。
家族だったものが、呆気なく壊れてなくなってしまった。これで良かったのか、ロゼッタには分からない。
もしもあの時、幼いフェルナンドが……何も知らずにいたなら……今頃ロゼッタは彼の隣でただ優しく笑っていられたのだろうか……。
下らない妄想だ。この世にもしもなんてありはしない。ロゼッタは手紙を丁寧に封筒に戻すと、机に閉まった。
数年後……少し大人びた女性へと成長したロゼッタの元へ『彼』が訪ねて来た。それから二人は暫しの時間を得て、結ばれた。
終わり
「本当に、行くんだね……」
「はい」
二人が話している後ろで、従者が馬車にロゼッタの荷物を乗せている。暫くしてそれが終わるとロゼッタは踵を返し馬車へと乗ろうとしたが、手を引かれ後ろに蹌踉めく。
「ロゼッタっ」
フェルナンドはそのままロゼッタを引き寄せ抱き締めた。涙こそ流していないが、今にも泣きそうな顔をしていた。まるで捨てられた子供の様なそんな顔だ。
あの時ロゼッタは、敢えてフェルナンドに言わなかった。……本当は兄妹ではないという真実を。きっと兄妹でないと知ったら、彼は絶対に自分を手放してくれないだろうと分かっていたから。
「また……いつか。フェル、兄様……」
「ロゼッタ……」
ロゼッタはフェルナンドから身を離すと、今度こそ馬車に乗り込んだ。背に彼の視線を痛いくらいに感じたが、振り返る事はしない。
椅子に腰を下ろすとカーテンの合間から外を見遣る。すると彼はただ呆然と立ち尽くしこちらを眺めていた。
ゆっくりと馬車は動き出しす。程なくして屋敷も彼の姿も見えなくなっていった。
いつか彼は真実を知る事になるかも知れない。両親達には敢えて言わない様に口止めをしたが、もし彼から訊ねてくる様な事があれば嘘偽りなく話す様に頼んだ。
結局、ロゼッタはフェルナンドと別れる道を選んだ。彼の真意を知り、彼が好きだと自覚した。だがそれと同じくらい赦せない気持ちもあった。
だからこそ、彼から離れようと離れなければならないと思ったのだ。きっとこのまま元に戻ったとしても、ロゼッタもフェルナンドもダメになってしまいそうで……怖かった。
これからロゼッタは郊外にある遠縁の親戚の屋敷で暮らす。実家には戻りたくなかった。かと言って行く場所もない。今考えられる最善の選択だと思っている。
『ごめんなさい』
数日前、クラウスやダーヴィット、ミラベルやジョエルの所へ謝罪と礼、そして別れを告げに言った。
クラウスの所へ行った時だった。彼から、ずっとロゼッタの事を慕っていたという主旨を告げられた。だが、彼の気持ちには応えられない。ロゼッタが謝ると、クラウスはまるで分かっていた様に曇りのない笑みを浮かべた。
『私の所為で、クラウス様は……なのに』
『いや、寧ろ良かった』
『?』
『負い目や同情で僕を選ぼうとしたら……怒ったよ』
『クラウス、様……』
『でもさ、まだ諦めてないから』
挑戦的な瞳で彼は悪戯っ子の様に笑う。
『あの男とは別れるなら、僕にもまだ機会はある。今は黙って見送ってあげるけど、時が来たらロゼッタ、必ず君に会いに行くから……。それまでに僕はもっと成長しないと。君を支える事が出来るくらい立派な男になる。だから……覚悟しておいてよ』
その後ダーヴィットには『寂しいよ、やだ、ダメ!』と必死に引き止められた。
ミラベルは『ロゼッタ様が、その様に決められたのなら……』寂しそうに笑っていた。
ジョエルには『何かあったら直ぐに連絡しろ。直ぐに俺たちが駆け付ける』そう言われ頭を撫でられた。
ロゼッタは窓の外を眺めながら思い出すと、笑みを浮かべた。友想いの優しく頼りになるロゼッタの友人達。彼らに感謝の気持ちが溢れてくると同じに急に心細くもなる。
「また、いつか……」
彼等と再会する時までに……立派な淑女にならないとね。
数ヶ月後、実家から届いた知らせではロゼッタの両親は離縁し父は爵位を剥奪されたと聞いた。フェルナンドの両親も離縁し叔母は屋敷を追い出され、その後消息不明に。
家族だったものが、呆気なく壊れてなくなってしまった。これで良かったのか、ロゼッタには分からない。
もしもあの時、幼いフェルナンドが……何も知らずにいたなら……今頃ロゼッタは彼の隣でただ優しく笑っていられたのだろうか……。
下らない妄想だ。この世にもしもなんてありはしない。ロゼッタは手紙を丁寧に封筒に戻すと、机に閉まった。
数年後……少し大人びた女性へと成長したロゼッタの元へ『彼』が訪ねて来た。それから二人は暫しの時間を得て、結ばれた。
終わり
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めちゃくちゃ好きだった!
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