どなたか私の旦那様、貰って下さいませんか?

秘密 (秘翠ミツキ)

文字の大きさ
上 下
27 / 27

エピローグ

しおりを挟む
あの夜から、数日が経った。

「本当に、行くんだね……」

「はい」

二人が話している後ろで、従者が馬車にロゼッタの荷物を乗せている。暫くしてそれが終わるとロゼッタは踵を返し馬車へと乗ろうとしたが、手を引かれ後ろに蹌踉めく。

「ロゼッタっ」

フェルナンドはそのままロゼッタを引き寄せ抱き締めた。涙こそ流していないが、今にも泣きそうな顔をしていた。まるで捨てられた子供の様なそんな顔だ。

あの時ロゼッタは、敢えてフェルナンドに言わなかった。……本当は兄妹ではないという真実を。きっと兄妹でないと知ったら、彼は絶対に自分を手放してくれないだろうと分かっていたから。


「また……いつか。フェル、兄様……」

「ロゼッタ……」


ロゼッタはフェルナンドから身を離すと、今度こそ馬車に乗り込んだ。背に彼の視線を痛いくらいに感じたが、振り返る事はしない。

椅子に腰を下ろすとカーテンの合間から外を見遣る。すると彼はただ呆然と立ち尽くしこちらを眺めていた。

ゆっくりと馬車は動き出しす。程なくして屋敷も彼の姿も見えなくなっていった。









いつか彼は真実を知る事になるかも知れない。両親達には敢えて言わない様に口止めをしたが、もし彼から訊ねてくる様な事があれば嘘偽りなく話す様に頼んだ。

結局、ロゼッタはフェルナンドと別れる道を選んだ。彼の真意を知り、彼が好きだと自覚した。だがそれと同じくらい赦せない気持ちもあった。

だからこそ、彼から離れようと離れなければならないと思ったのだ。きっとこのまま元に戻ったとしても、ロゼッタもフェルナンドもダメになってしまいそうで……怖かった。

これからロゼッタは郊外にある遠縁の親戚の屋敷で暮らす。実家には戻りたくなかった。かと言って行く場所もない。今考えられる最善の選択だと思っている。




『ごめんなさい』

数日前、クラウスやダーヴィット、ミラベルやジョエルの所へ謝罪と礼、そして別れを告げに言った。

クラウスの所へ行った時だった。彼から、ずっとロゼッタの事を慕っていたという主旨を告げられた。だが、彼の気持ちには応えられない。ロゼッタが謝ると、クラウスはまるで分かっていた様に曇りのない笑みを浮かべた。

『私の所為で、クラウス様は……なのに』

『いや、寧ろ良かった』

『?』

『負い目や同情で僕を選ぼうとしたら……怒ったよ』

『クラウス、様……』

『でもさ、まだ諦めてないから』

挑戦的な瞳で彼は悪戯っ子の様に笑う。

『あの男とは別れるなら、僕にもまだ機会はある。今は黙って見送ってあげるけど、時が来たらロゼッタ、必ず君に会いに行くから……。それまでに僕はもっと成長しないと。君を支える事が出来るくらい立派な男になる。だから……覚悟しておいてよ』

その後ダーヴィットには『寂しいよ、やだ、ダメ!』と必死に引き止められた。
ミラベルは『ロゼッタ様が、その様に決められたのなら……』寂しそうに笑っていた。
ジョエルには『何かあったら直ぐに連絡しろ。直ぐに俺たちが駆け付ける』そう言われ頭を撫でられた。



ロゼッタは窓の外を眺めながら思い出すと、笑みを浮かべた。友想いの優しく頼りになるロゼッタの友人達。彼らに感謝の気持ちが溢れてくると同じに急に心細くもなる。


「また、いつか……」

彼等と再会する時までに……立派な淑女にならないとね。






数ヶ月後、実家から届いた知らせではロゼッタの両親は離縁し父は爵位を剥奪されたと聞いた。フェルナンドの両親も離縁し叔母は屋敷を追い出され、その後消息不明に。

家族だったものが、呆気なく壊れてなくなってしまった。これで良かったのか、ロゼッタには分からない。

もしもあの時、幼いフェルナンドが……何も知らずにいたなら……今頃ロゼッタは彼の隣でただ優しく笑っていられたのだろうか……。

下らない妄想だ。この世にもしもなんてありはしない。ロゼッタは手紙を丁寧に封筒に戻すと、机に閉まった。



数年後……少し大人びた女性へと成長したロゼッタの元へ『彼』が訪ねて来た。それから二人は暫しの時間を得て、結ばれた。








終わり

















しおりを挟む
感想 132

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(132件)

まゆ
2023.03.30 まゆ

めちゃくちゃ好きだった!
終わり方もフェルナンドとクラウスのどちらか、それとも全然違う誰かって読者の好きなように想像出来るラストというのもいいと思う(最近こういう終わり方少ないですよね)。
浮気絶許の私は途中までクラウスかなってぼんやり思っていたけど、最後まで読んでみてフェルナンドENDだといいなぁ〜
やっぱり2人の物語だと思うし、フェルナンドの苦しみを見てしまったので幸せになって欲しいから。

親たちの関係も壊れててスッキリでした。

解除
椿
2022.03.28 椿
ネタバレ含む
解除
花蘇芳
2022.03.21 花蘇芳
ネタバレ含む
解除

あなたにおすすめの小説

アルバートの屈辱

プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。 『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

王女を好きだと思ったら

夏笆(なつは)
恋愛
 「王子より王子らしい」と言われる公爵家嫡男、エヴァリスト・デュルフェを婚約者にもつバルゲリー伯爵家長女のピエレット。  デビュタントの折に突撃するようにダンスを申し込まれ、望まれて婚約をしたピエレットだが、ある日ふと気づく。 「エヴァリスト様って、ルシール王女殿下のお話ししかなさらないのでは?」   エヴァリストとルシールはいとこ同士であり、幼い頃より親交があることはピエレットも知っている。  だがしかし度を越している、と、大事にしているぬいぐるみのぴぃちゃんに語りかけるピエレット。 「でもね、ぴぃちゃん。私、エヴァリスト様に恋をしてしまったの。だから、頑張るわね」  ピエレットは、そう言って、胸の前で小さく拳を握り、決意を込めた。  ルシール王女殿下の好きな場所、好きな物、好みの装い。  と多くの場所へピエレットを連れて行き、食べさせ、贈ってくれるエヴァリスト。 「あのね、ぴぃちゃん!エヴァリスト様がね・・・・・!」  そして、ピエレットは今日も、エヴァリストが贈ってくれた特注のぬいぐるみ、孔雀のぴぃちゃんを相手にエヴァリストへの想いを語る。 小説家になろうにも、掲載しています。  

婚約破棄でみんな幸せ!~嫌われ令嬢の円満婚約解消術~

春野こもも
恋愛
わたくしの名前はエルザ=フォーゲル、16才でございます。 6才の時に初めて顔をあわせた婚約者のレオンハルト殿下に「こんな醜女と結婚するなんて嫌だ! 僕は大きくなったら好きな人と結婚したい!」と言われてしまいました。そんな殿下に憤慨する家族と使用人。 14歳の春、学園に転入してきた男爵令嬢と2人で、人目もはばからず仲良く歩くレオンハルト殿下。再び憤慨するわたくしの愛する家族や使用人の心の安寧のために、エルザは円満な婚約解消を目指します。そのために作成したのは「婚約破棄承諾書」。殿下と男爵令嬢、お二人に愛を育んでいただくためにも、後はレオンハルト殿下の署名さえいただければみんな幸せ婚約破棄が成立します! 前編・後編の全2話です。残酷描写は保険です。 【小説家になろうデイリーランキング1位いただきました――2019/6/17】

【完結】365日後の花言葉

Ringo
恋愛
許せなかった。 幼い頃からの婚約者でもあり、誰よりも大好きで愛していたあなただからこそ。 あなたの裏切りを知った翌朝、私の元に届いたのはゼラニウムの花束。 “ごめんなさい” 言い訳もせず、拒絶し続ける私の元に通い続けるあなたの愛情を、私はもう一度信じてもいいの? ※勢いよく本編完結しまして、番外編ではイチャイチャするふたりのその後をお届けします。

皇太子夫妻の歪んだ結婚 

夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。 その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。 本編完結してます。 番外編を更新中です。

元カノが復縁したそうにこちらを見ているので、彼の幸せのために身を引こうとしたら意外と溺愛されていました

おりの まるる
恋愛
カーネリアは、大好きな魔法師団の副師団長であるリオンへ告白すること2回、元カノが忘れられないと振られること2回、玉砕覚悟で3回目の告白をした。 3回目の告白の返事は「友達としてなら付き合ってもいい」と言われ3年の月日を過ごした。 もう付き合うとかできないかもと諦めかけた時、ついに付き合うことがてきるように。 喜んだのもつかの間、初めてのデートで、彼を以前捨てた恋人アイオラが再びリオンの前に訪れて……。 大好きな彼の幸せを願って、身を引こうとするのだが。

貴方でなくても良いのです。

豆狸
恋愛
彼が初めて淹れてくれたお茶を口に含むと、舌を刺すような刺激がありました。古い茶葉でもお使いになったのでしょうか。青い瞳に私を映すアントニオ様を傷つけないように、このことは秘密にしておきましょう。

交換された花嫁

秘密 (秘翠ミツキ)
恋愛
「お姉さんなんだから我慢なさい」 お姉さんなんだから…お姉さんなんだから… 我儘で自由奔放な妹の所為で昔からそればかり言われ続けてきた。ずっと我慢してきたが。公爵令嬢のヒロインは16歳になり婚約者が妹と共に出来きたが…まさかの展開が。 「お姉様の婚約者頂戴」 妹がヒロインの婚約者を寝取ってしまい、終いには頂戴と言う始末。両親に話すが…。 「お姉さんなのだから、交換して上げなさい」 流石に婚約者を交換するのは…不味いのでは…。 結局ヒロインは妹の要求通りに婚約者を交換した。 そしてヒロインは仕方無しに嫁いで行くが、夫である第2王子にはどうやら想い人がいるらしく…。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。