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「ゔっ……此処は」
フェルナンドは頭が割れる様な頭痛に襲われて、頭に手を置いた。ゆっくりと目を開けるとそこには、彼女が座っていた。
「なんだ、これは……夢、か……」
いる筈のないロゼッタの姿に、フェルナンドは夢を見ているのだと思った。
「そうですね、これは夢ですよ」
ロゼッタが微笑してこちらを見遣る。部屋の中は薄暗く、テーブルの上のたより無いランプの灯だけが部屋を照らす。
「そうか……これは、夢か」
フェルナンドは脱力した様に手をベッドの上に投げ出す。夢であろうと久しぶりに見た彼女の顔に歓喜し又胸を締め付けられた。
夢なら……触れてもいいだろうか……。
左手を躊躇いがちに彼女へと伸ばすと、そっと握ってくれた。ただそれだけの事に酷く安堵する自分がいる。拒まれなくて、良かったと……。
いやこれは夢だから、きっと自分に都合のいいだけなのだろう。
「ロゼッタ……すまない、すまない、すまない」
何に対してか分からない謝罪が口を突いて出る。兄妹だと分かりながら彼女へ手を伸ばした事への贖罪か、はたまた彼女の前で晒して来た醜態への贖罪か。
彼女は何も言わず、少し困った様な笑みを浮かべたが握る手を離す事はなかった。
「君を、愛してるんだ……ずっと、昔から」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
あの後、馬車はロゼッタ達の屋敷の前に止まった。イグナシオはフェルナンドを抱え部屋まで運ぶと「後は君に交代する……どうなるかは私には分からんが、何か不測の事態があれば私でも、弟のダーヴィットでもいい。頼ってくれて構わない」そう言って彼は屋敷を後にした。
ベッドに酩酊して深い眠りに就く彼は、ぐったりとして微動だにしない。微かに聞こえる寝息だけがやけに耳に響いた。
ロゼッタは何をする訳でもなく、ただフェルナンドを眺める。どれくらい経ったか、彼は息苦しそうに声を上げると目を覚ました。
目を開けた彼は、意外な事を口にする。今のこの状況が夢だと言った。ロゼッタは咄嗟に話を合わせた。
夢だと思っていた方がきっとお互いに話し易い、そう思ったからだ。
すると彼は譫言のようにロゼッタへと謝罪を繰り返した。何への謝罪か……苦しそうに顔を歪めている。責めることも理由を聞く事さえも憚られた。それは、握っていた彼の手が震えていたから。
「君を、愛してるんだ……ずっと、昔から」
心臓が跳ねる。意外過ぎる言葉だった。
「だが……僕と君は……兄妹、なんだ」
そして次の彼の言葉に、ロゼッタは気付いた。フェルナンドは真実を知らないのだと。
「驚かないんだね」
彼は、虚ろな表情でロゼッタを見ていた。
「……両親から、聞きました」
「そっか……知っちゃったんだね……。それでも僕は、君が好きで、愛する事が止められなかった」
ぽつりぽつり、彼は話し出した。兄妹だと知った時、それからどんな想いだったか、ロゼッタに会いたくても会えなかった事、諦める事が出来ずロゼッタを手に入れてしまった、どうしたらいいか分からず毎夜あの様に振る舞いロゼッタを傷付けた、後悔していると……。
「すまない」
一筋、流れた涙……平常の時ならこんな風に彼の話を聞く事は出来なかっただろう。だが今彼は夢だと思い込んでる故にきっとこれが彼の嘘偽りのない気持ちだと分かる。
ロゼッタは静かにフェルナンドの言葉に耳を傾け、まるで子供の様に涙を流す彼の頭を撫でる。そして一晩中窓の外が白むまで、彼の話を聞き続けた。
途中フェルナンドは酔いも覚め、意識も確りとし始めた。これが夢ではなく現実だと認識した様子に見えた。
フェルナンドは頭が割れる様な頭痛に襲われて、頭に手を置いた。ゆっくりと目を開けるとそこには、彼女が座っていた。
「なんだ、これは……夢、か……」
いる筈のないロゼッタの姿に、フェルナンドは夢を見ているのだと思った。
「そうですね、これは夢ですよ」
ロゼッタが微笑してこちらを見遣る。部屋の中は薄暗く、テーブルの上のたより無いランプの灯だけが部屋を照らす。
「そうか……これは、夢か」
フェルナンドは脱力した様に手をベッドの上に投げ出す。夢であろうと久しぶりに見た彼女の顔に歓喜し又胸を締め付けられた。
夢なら……触れてもいいだろうか……。
左手を躊躇いがちに彼女へと伸ばすと、そっと握ってくれた。ただそれだけの事に酷く安堵する自分がいる。拒まれなくて、良かったと……。
いやこれは夢だから、きっと自分に都合のいいだけなのだろう。
「ロゼッタ……すまない、すまない、すまない」
何に対してか分からない謝罪が口を突いて出る。兄妹だと分かりながら彼女へ手を伸ばした事への贖罪か、はたまた彼女の前で晒して来た醜態への贖罪か。
彼女は何も言わず、少し困った様な笑みを浮かべたが握る手を離す事はなかった。
「君を、愛してるんだ……ずっと、昔から」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
あの後、馬車はロゼッタ達の屋敷の前に止まった。イグナシオはフェルナンドを抱え部屋まで運ぶと「後は君に交代する……どうなるかは私には分からんが、何か不測の事態があれば私でも、弟のダーヴィットでもいい。頼ってくれて構わない」そう言って彼は屋敷を後にした。
ベッドに酩酊して深い眠りに就く彼は、ぐったりとして微動だにしない。微かに聞こえる寝息だけがやけに耳に響いた。
ロゼッタは何をする訳でもなく、ただフェルナンドを眺める。どれくらい経ったか、彼は息苦しそうに声を上げると目を覚ました。
目を開けた彼は、意外な事を口にする。今のこの状況が夢だと言った。ロゼッタは咄嗟に話を合わせた。
夢だと思っていた方がきっとお互いに話し易い、そう思ったからだ。
すると彼は譫言のようにロゼッタへと謝罪を繰り返した。何への謝罪か……苦しそうに顔を歪めている。責めることも理由を聞く事さえも憚られた。それは、握っていた彼の手が震えていたから。
「君を、愛してるんだ……ずっと、昔から」
心臓が跳ねる。意外過ぎる言葉だった。
「だが……僕と君は……兄妹、なんだ」
そして次の彼の言葉に、ロゼッタは気付いた。フェルナンドは真実を知らないのだと。
「驚かないんだね」
彼は、虚ろな表情でロゼッタを見ていた。
「……両親から、聞きました」
「そっか……知っちゃったんだね……。それでも僕は、君が好きで、愛する事が止められなかった」
ぽつりぽつり、彼は話し出した。兄妹だと知った時、それからどんな想いだったか、ロゼッタに会いたくても会えなかった事、諦める事が出来ずロゼッタを手に入れてしまった、どうしたらいいか分からず毎夜あの様に振る舞いロゼッタを傷付けた、後悔していると……。
「すまない」
一筋、流れた涙……平常の時ならこんな風に彼の話を聞く事は出来なかっただろう。だが今彼は夢だと思い込んでる故にきっとこれが彼の嘘偽りのない気持ちだと分かる。
ロゼッタは静かにフェルナンドの言葉に耳を傾け、まるで子供の様に涙を流す彼の頭を撫でる。そして一晩中窓の外が白むまで、彼の話を聞き続けた。
途中フェルナンドは酔いも覚め、意識も確りとし始めた。これが夢ではなく現実だと認識した様子に見えた。
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