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大して眠れないまま朝を迎えた。余り気分は優れない。朝食を出されるも食欲が湧かず、お茶だけを口にした。
「ロゼッタ様っ」
少しだけお茶の残るカップを受け皿に戻した時だった。慌てた様子でエナが食堂へと入って来る。余り行儀の良い行動とは言えないが、彼女の取り乱す姿に余程の事があったのではないかと思い「どうしたの」と苦笑しつつ返した。
「第二王子殿下がお見えになられ」
エナが言葉を言い終わる前に、彼女の背後から第二王子のイグナシオが姿を見せた。
「朝から騒がせてすまないな。邪魔をする」
謝罪を述べてはいるが、まるで悪びれる様子は皆無だ。
「……いいえ、殿下。お気になさらないで下さいませ。ただフェルナンド様に御用でしたら、わざわざご足労頂いた所申し訳ございませんが不在でして……もし戻る事がありましたら直ぐにお伝え致します」
ロゼッタは立ち上がり首を垂れると、フェルナンドが不在である主旨を伝え丁寧ではあるが、帰る様に促す。イグナシオはロゼッタの微妙な言い回しに若干怪訝そうな表情になるが、知らないフリをする。
戻るかどうか正直ロゼッタには分からない。それに朝っぱらからいきなり訪ねてくるなど幾らなんでも失礼だ。故に嫌味も含まれている。
「彼奴がいないのは知っている。今日は君に用があって来たんだ」
どうしてこんな事に?
馬車に揺られながら、ロゼッタは正面に偉そうに脚と手を組み腰を下ろしているイグナシオを盗み見た。
あの後彼から「少し付き合って欲しい」と言われ、初めは断った。だがなおも食い下がり「フェルナンドの事なんだ」そう言われ多少思う所もあり渋々承諾をしてしまった。
「そんなに怯えなくとも、取って食ったりしないさ」
意外にも軽口を叩く彼に、ロゼッタは眉を上げる。イグナシオとはこれまでほぼ接点はない。フェルナンドの上司であり友人であるダーヴィットの兄の第二王子という認識くらいしかなく、挨拶程度はした事はあるが別段思う事もなかった。
ひと月程前の騎士団の稽古場での出来事の時には、彼の振る舞いには好感を持つ事などは出来ず、正直余り関わりたくない。だがどうやら彼はフェルナンドの居場所を知っている様子だった故、所在の分からない彼を闇雲に探すより手っ取り早いと思ったのだが……やはり止めておけば良かったかも知れない。
「君は、フェルナンドをどう思っている」
唐突な質問にロゼッタは彼を凝視すると、彼もまた真っ直ぐにこちらを見ていた。その無表情な顔からは彼の意図は分からない。
「……」
戸惑いながら口を開こうとするも、ロゼッタは途中で止まり口を閉じた。
分からなくなってしまった……それが今の彼への率直な気持ちだ。
幼いあの日のままだったらきっと「お慕いしております」そう答えられたに違いない。だが現実は彼は変わり、ロゼッタの彼への想いも複雑な形に変わっていった。
何か応えなくては失礼だと思うが口を開く事は出来ず、瞳を伏せ静かに首を横に振る。今はこれが精一杯だ。
イグナシオはそれをどう捉えたかは分からないが、それ以上何も言わなかった。
「ロゼッタ様っ」
少しだけお茶の残るカップを受け皿に戻した時だった。慌てた様子でエナが食堂へと入って来る。余り行儀の良い行動とは言えないが、彼女の取り乱す姿に余程の事があったのではないかと思い「どうしたの」と苦笑しつつ返した。
「第二王子殿下がお見えになられ」
エナが言葉を言い終わる前に、彼女の背後から第二王子のイグナシオが姿を見せた。
「朝から騒がせてすまないな。邪魔をする」
謝罪を述べてはいるが、まるで悪びれる様子は皆無だ。
「……いいえ、殿下。お気になさらないで下さいませ。ただフェルナンド様に御用でしたら、わざわざご足労頂いた所申し訳ございませんが不在でして……もし戻る事がありましたら直ぐにお伝え致します」
ロゼッタは立ち上がり首を垂れると、フェルナンドが不在である主旨を伝え丁寧ではあるが、帰る様に促す。イグナシオはロゼッタの微妙な言い回しに若干怪訝そうな表情になるが、知らないフリをする。
戻るかどうか正直ロゼッタには分からない。それに朝っぱらからいきなり訪ねてくるなど幾らなんでも失礼だ。故に嫌味も含まれている。
「彼奴がいないのは知っている。今日は君に用があって来たんだ」
どうしてこんな事に?
馬車に揺られながら、ロゼッタは正面に偉そうに脚と手を組み腰を下ろしているイグナシオを盗み見た。
あの後彼から「少し付き合って欲しい」と言われ、初めは断った。だがなおも食い下がり「フェルナンドの事なんだ」そう言われ多少思う所もあり渋々承諾をしてしまった。
「そんなに怯えなくとも、取って食ったりしないさ」
意外にも軽口を叩く彼に、ロゼッタは眉を上げる。イグナシオとはこれまでほぼ接点はない。フェルナンドの上司であり友人であるダーヴィットの兄の第二王子という認識くらいしかなく、挨拶程度はした事はあるが別段思う事もなかった。
ひと月程前の騎士団の稽古場での出来事の時には、彼の振る舞いには好感を持つ事などは出来ず、正直余り関わりたくない。だがどうやら彼はフェルナンドの居場所を知っている様子だった故、所在の分からない彼を闇雲に探すより手っ取り早いと思ったのだが……やはり止めておけば良かったかも知れない。
「君は、フェルナンドをどう思っている」
唐突な質問にロゼッタは彼を凝視すると、彼もまた真っ直ぐにこちらを見ていた。その無表情な顔からは彼の意図は分からない。
「……」
戸惑いながら口を開こうとするも、ロゼッタは途中で止まり口を閉じた。
分からなくなってしまった……それが今の彼への率直な気持ちだ。
幼いあの日のままだったらきっと「お慕いしております」そう答えられたに違いない。だが現実は彼は変わり、ロゼッタの彼への想いも複雑な形に変わっていった。
何か応えなくては失礼だと思うが口を開く事は出来ず、瞳を伏せ静かに首を横に振る。今はこれが精一杯だ。
イグナシオはそれをどう捉えたかは分からないが、それ以上何も言わなかった。
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