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部屋に閉じ込められてから、10日が過ぎた。

フェルナンドは、以前では考えられないような行動をしてくる。毎晩早くに帰宅するとロゼッタと共に食事を摂り、ロゼッタが閉じ込められている部屋に戻り寝るまで過ごす。

これまで会話らしい会話をしてこなかった故、お互いに無言だ。本当は、クラウスの事、何故ロゼッタを閉じ込めるのか、あの夜の態度についてなど聞きたい事は色々とある。
だが、聞いた所で彼は無視をするか、適当な返答しかしない事は分かっていた。


「ロゼッタ、おいで」

夜も更けると、フェルナンドは読んでいた本を閉じて長椅子から立ち上がった。そして向かに座るロゼッタにそう声を掛ける。


「……」

躊躇いながらロゼッタは言われるがままに、彼の元へ行く。

先にフェルナンドがベッドに入ると手を差し出してきた。静かにその手に己の手を重ねると引っ張られる。すっぽりと彼の腕の中に収まると、そのまま彼は目を閉じて眠ってしまった。


毎晩同じ事の繰り返しだ。添い寝するだけで、あの時の様に彼は手を出そうとはしてこなかった。

フェルナンドが、一体何を考えているのか全く分からない……。

ロゼッタは寝苦しさを感じながらも、無理矢理目を閉じた。





翌る日、フェルナンドはいつも通り仕事へと出かけて行った。無論部屋の扉には確りと鍵を掛けて。

いつもと変わらない。だが、今日は違った。暫くして再び扉が開かれる。

いつもならば昼食の時間まで絶対に扉が開く事はない。決まった時間になると、侍女が食事を運んでくるだけだ。

フェルナンドが、戻って来たのだろうか……ロゼッタは戸惑いながら扉が完全に開かれるのを見守る。

「ロゼッタ、無事~⁉︎」

ひょっこりと開け放たれた扉から顔を出したのは、意外な人物でロゼッタは呆気に取られた。

「ダーヴィット様⁉︎どうして……いえ、その前にどうやって……」

驚き目を見開いているロゼッタの元に、ダーヴィットは「お邪魔しま~す」と入ってくる。その様子にロゼッタら脱力し、苦笑する。

「勿論、ロゼッタを助けに来たんだ!クラウスから聞いたよ、大変だったね。僕の権限で屋敷に乗り込んで
、僕の権限で居場所を吐かせて、僕の権限でこの扉を開けさせたんだよ。忘れてるかも知れないけど、こう見えて僕王子だからね?」

そう戯けた様に言って笑って見せるダーヴィットに、どこか安心して胸を撫で下ろした。

「早く行こう、ロゼッタ」

「……」

「どうしたの?」

目の前に差し出されたダーヴィットの手を凝視し、ロゼッタは動かない。その様子にダーヴィットは、眉根を寄せた。


ここからダーヴィットと逃げて、その後は……どうしたらいいのか。ロゼッタは、名目上はフェルナンドの妻だ。今のロゼッタの家はここなのだ。

実家に帰る……?多分、怒られる。

ロゼッタには、行く場所などない。

「ロゼッタ……取り敢えず今は此処を出て、僕と一緒に城に行こう。部屋は用意させるし、これからの事は皆で一緒に考えよう」

彼は、不安そうな顔をしていたロゼッタの心情を読み取った様に話す。ロゼッタは一瞬躊躇するが、ダーヴィットの手を取った。


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