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「それに性格は最悪だし、教養も皆無で頭も悪し、見た目も残念だし、貴族令嬢としての立ち振りまいだって碌に出来ないし。今この場にいる令嬢達を自分に逆らえないと分かった上で、暴言を浴びせ虐めるとか実に下らない事をして悦ぶなんて、本当陰湿極まり無いよね~。後ね、これから話す事凄~く重要だから確り聞いてくれる?」

いつの間にか扉に背を預け、こちらを見ている青年がいた。そう彼は王太子であるオリヴェルだ。エルヴィーラは状況が呑み込めず呆然とするしか出来ない。

「実の姉の彼女の方が性格も頭も見た目も、何に置いても遥かに優っているのにその彼女を敬う所か、自分より劣っていると勘違いした挙句、蔑む様なろくでなしなんだよ、君は。そんな人間が王太子妃なんてどう考えても向いてないよ。と言うより無理がある。それは僕だけじゃなくて皆思ってると思うな~ははっ」



彼から満面の笑みで淡々と告げられた自分への評価。これまで思っていた自分自身での評価と真逆だった。余りに驚愕し、一言も言葉が出ずに莫迦みたいにただ口を半開きにして座り込んでいた。



「エルヴィーラ……貴女は、自分がお父様達から大切にされてると思ってるみたいだけど、本当にそう思うの?」

暫しの間静まり返った後、アレクシアが口を開いた。

だが、エルヴィーラには姉が何故そんな風に問うのか理解出来ない。
あんなに姉のアレクシアではなく妹のエルヴィーラだけを大切にしていたのを目の当たりにしていた筈なのに、何を言っているのだろう。
両親はいつもエルヴィーラだけを褒め、エルヴィーラだけに何でも欲しい物を買い与え、エルヴィーラだけを抱き締めた。そんな自分が愛されていない訳がないのに。

「エルヴィーラ、周りを良く見て見なさい。貴女は今周りからどう見られている?」

その言葉に、エルヴィーラは眉根を寄せ怪訝そうな表情を浮かべるが、渋々周りを見渡した。そこで初めて気が付いた。
冷たく軽蔑する様な視線が自分に一身に浴びせられている事に……。

目を見開き暫く動けなくなる。そして思い出した様に振り返り、何時も自分と共に行動して来た令嬢達を見遣った。

「わ、私達は関係ありませんわ!」

「エルヴィーラ様から命令されて」

「そうですわ。私達は何もしてないです。全てエルヴィーラ様がご自分でなさって」

「私共に責任などございません」

口々にそう言いながら扇子で口元を隠し後退る。

「何よ‼︎あんなに私の事褒めて憧れだって言ってたじゃないの⁉︎」

「憧れ、ね……」

一人がそう呟くと令嬢達は黙り込むがそれも一瞬の事で、直ぐにクスクスと笑っている声が聞こえた。



ー やだ、ご自分の姿見たことないのかしら? ー

ー 憧れって、無理があり過ぎるでしょうに ー

ー お世辞に決まってるじゃない ー

ー 何一つまともに出来ない癖に ー



手を返した様な令嬢達の態度にエルヴィーラは顔を真っ赤にして、震えた。唇を噛み口を開こうとするも、アレクシアに遮られる。

「今この部屋に貴女を庇おうとしてくれる人は誰一人いないわ。お父様やお母様が本当に貴女の事を考え想い、愛していたのなら……こんな風にはなっていなかった筈。可愛い可愛いと甘やかし与えてるだけなら犬、猫と変わらないわ」  

「アレクシア、それは酷いよ。犬や猫の方が余程躾されるんだから、そんな風に言ったら犬や猫が哀れだよ」

「っ……」

エルヴィーラは姉を睨むと、改めて周りを見渡す。一人一人の令嬢を見遣り、講師、リーゼロット、そしてオリヴェルを見遣った。



今何が起きているのか、分からない。誰も手を差し伸べてくれない。姉にこんなにも酷い扱いを受けいるのに。こんなに可哀想な自分を何故誰も助けてくれないの?

どうして?お父様やお母様がいたら、こんなの許さないわ。

おかしい。おかしい。おかしい……。



「おかしい……こんなの、おかしい‼︎おかしいっ‼︎間違ってる‼︎あんた何かしたんでしょう⁉︎ ここにいる奴等を味方に付ける為に何したのよ⁉︎そうだわ!王太子殿下に色目使ったに決まってるわっ。それで殿下に頼んで私に仕返ししてるんでしょう⁉︎そうじゃなきゃこんな事にっ……私はっ、私は!特別なの‼︎私が、選ばれるの!私よっ‼︎」

エルヴィーラは立ち上がりアレクシアへと掴み掛かった。


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