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3.彼らの関係
その19、恋人の話はよく聞こう①
しおりを挟むガツンと頭を横殴りにされた感じ。
「元カレが来るんですけど」
聞くんじゃなかった。来週あるという同窓会、エンボちゃんがちょっと憂鬱そうだったから安易に聞いてみればこれ。最悪だ。かろうじて返事をする。
「……うん」
「それはもう、どうでも良いんですけど」
いいんかい。
いや、本当にいいのか? 大丈夫なのか?
初めて会った時に泣いていたのはその男のためじゃなかったのか。行かないで、なんてみっともなく言ってしまいそうな俺に、彼女は気づかず、
「その彼と付き合う前から仲よかった友だちが、彼のこと好きで」
話は続く。
気づかれないで良かった。
三角関係? と聞くと、彼女はむつかしい顔でひとつ頷く。
「それで、疎遠になっちゃって。付き合ったのが4年の3学期からだったんで、卒業して、そのまま」
頭の中で計算する。
五年か……元カレとはそんなに長く続いてたのか。やっぱりちょっとげんなりする。かと言って、エンボちゃんが男をとっかえひっかえしててもすごくイヤなので、このあたりは正直、俺のわがままだ。
それに考え方を変えれば、エンボちゃんは一人と長く男女交際をする真面目な子ってことになる。うん、その線でいこう。
それにしても、五年も付き合ってフッたその男、割と鬼畜だな。エンボちゃんの友だちも惚れてたってくらいなら、やっぱりイイ男なんだろうか……ああ駄目だ。ほんと、行ってほしくない。
「その子、同窓会にも来なくって。でも」
「今回は来る、と」
「そうです。久しぶりに会いたいって、個別に連絡までくれて。私としても楽しみなんですけど、でも」
「ちょっと気まずい?」
「……うん」
「そっか」
でも、彼女の話は友人に始終していた。
それに決意はすでに固まっている。
そんなエンボちゃんを束縛するような事は絶対に言えなかった。過去、俺自身も独占欲の強い女の子に行動を束縛されたことがあるからなおさらだ。束縛はかえって相手の気持ちを削ぐばかりで、いいことはない。
わかっているのに。
エンボちゃん相手だと、それがこんなにキツいなんて。
「頑張んなきゃね」
誰に言ってんだか。でも。
「……はい」
ベッドで寝転ぶエンボちゃんの身体から緊張が抜けた。
結局、背中を押して欲しかったんだろう。だとしたら、今の言葉で間違いないはずだ。ダメ押しに、甘い言葉を添えてみる。
「終わったらさ、再来週でいいから、なんか美味いもんでも食べようよ。店でも、家でも」
「……ここがいいです」
エンボちゃんはいつもそうだった。
もう付き合って二ヶ月……三ヶ月? 始まりは曖昧だがとにかく、そこそこ経つのに、外に出たがらない。出不精なのか、知り合いに見つかりたくないのか。おそらくは両方だろう。
そりゃ俺も家のほうが何かとイイ。
というか、セックスしやすくてイイ。
でも正直言うと、ちょっとだけ寂しかった。
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