優しさを君の傍に置く

砂原雑音

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まっすぐなのは美徳じゃない!4

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ガーガーと掃除機の音がする中で、僕は寝たふりをする佑さんのソファを軽く足で蹴った。


「どういうつもり?」


掃除機の音は僕達には会話の邪魔にはならない程度、だけど掃除機をかけている男には聞こえないだろう。


「何が」
「何がじゃないよ。あんなやつさっさと追い出してくれたらよかったのに」


もう一つ、ソファの底を蹴ると佑さんはむくっと身体を起こしてくつくつと喉を鳴らした。


「いやだってお前、面白いだろあの男」
「ただの馬鹿なお調子者だよ、少しも面白くない」


佑さんにとっては面白い他人事なのだろう。
だったら他人事なのだから変な口出しも気回しもしないで欲しい。


「まあまあ、いいだろ。向こうだってまずは近づきたいって言ってんだから誠実じゃねえか。ようはお友達からってことだ」
「ふざけんな。ゲイとお付き合いを見据えてお友達なんて冗談じゃないよ」


両手を腰に当てて、とても笑えない話を可笑しそうに話す佑さんを見下ろした。
彼は手を横に振る。


『違う』と言う意味だろう。
僕は、眉を顰めて首を傾げた。


「違う違う。あれはゲイとかじゃねーだろ。嗅覚だ。嗅覚で嗅ぎ分けたんだよ」


まさに犬並だな、と腹を抱えて笑う。
冗談じゃない、と僕は血の気が引いた。


「だったら尚更まずいだろ!」
「なんでだよ。いい奴だぞアレ」


るんるん、と背景に音符でも飛ばしてそうないかにもご機嫌で掃除機をかける男を、佑さんが親指で差し示す。


「……どこが、だよ」
「あ?」


どこが、いい奴なんだ。
どこが、誠実だ。


「ゲイかもしれないなんて簡単に告白できる理由なんて、一つだ」


僕の冷えた一言に、佑さんが無言で眉根を寄せた。
佑さんは、案外人が良いからすぐ騙されるんだ、僕と違って。

例えばこれが、職場の同僚の浩平さんだったら?
言うわけないだろう。
確かに人は好さそうだから悪気はないかもしれないが、無意識に選別してるに違いない。


「例え嫌われても、問題ないから言えるんだ。」


上手くいかなければ、この店に来なければいい。
ただそれだけだから、言えるんだ。
簡単に縁を断ち切ってしまえる程度だから。


「……相変わらず、ネガティブで小難しいやつだな」
「うるさいよ」


余計なお世話だ、と悪態をついてとりあえず今後の対応を考える。
今日のところは掃除機が終わったらとっとと追い出せばいい。

次からは出入り禁止にしたいところだが、変に噂でも立てられたら困るしそう簡単にできるわけはない。
第一、佑さんが彼を気に入っているのだから。

ならば、泥酔されてももう二度と店に泊めず、浩平さんの電話番号を聞いておこう。
いつでも引き取ってもらえるように。

そうだ、そうしようとぶつぶつと呟いていたら、目の前で佑さんがまた楽しそうに言葉を紡ぐ。


「あんくらい勢いあるやつなら、お前もぶっ壊れるかな、と思って」
「……物騒なこと言うな」


たまに佑さんは抽象的な物言いをする。
だけど、わからないことはない。

佑さんが、僕の何を壊したいと思っているのかを。
わかっているけれど、わからないフリで僕は流した。




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