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穂月の小学校編
条件に釣られてソフトボール部に入部したら、謎のお嬢様っぽい子とお友達になりました
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新しい担任に課される勉強漬けの日々で毎日くたくたのある日、朝の登校時間に友人の朱華が泣きそうな顔で懇願してきた。
「どうしてソフトボール部に入ってくれないの!?」
「おー?」
突然の勧誘にさすがの穂月も驚いていると、途中で合流済みの陽向が苦笑いを顔に張り付けた。
「いつほっちゃんたちが来るのかって、毎日そわそわしながら待ってたんだよ。俺はさっさと誘えばいいだろって言ったんだが、なんでも友達だからって特別扱いはしないからソフトボール部の門を叩くまでうんたらかんたら言っててな」
新学期の当初こそ余裕ぶっていた朱華だが、1ヵ月が経過しても音沙汰がないためとうとう痺れを切らしたらしいとも陽向は加えた。
言われてみればここ最近は登校中の話題にソフトボール関連が異様に多かったような気がする。穂月がふとそんなことを言うと、気付いていなかったのかと沙耶や悠里が驚いた。いつもと変わらず眠そうな希だけが、車道へ倒れ込まないよう弟に守られながら歩いている。
「前も言ったかもしれないけど、単独で大会に参加できないと合同チームを作るしかないのよ。私の代でなんとか保ってきた歴史を途切れさせるのは嫌なのっ」
葉月たちが小学生だった頃には単独チームが当たり前だったみたいだが、それでも入部希望者は少なくなっていたという。菜月の時代にはその傾向がさらに顕著になったものの、地域の小学校が統廃合されたことで一時的に問題は解決されたのだが、近年になって児童の総数自体が減っているのでまた再燃中らしかった。
「はわわ、あーちゃん、凄く必死なの」
「今年の新入部員は1人だけでな。5年の人数も少ないから、このままだと来年には合同チームの仲間入りだ」
あまりの剣幕に目を白黒させる悠里に、陽向が補足説明をした。
うんうん頷きながら聞いていた朱華は弟の手を離し、ガッと穂月の肩を掴んだ。
「ほっちゃんさえ入部してくれれば、残りの3人も入ってくれるはずなの。だから、ねっ? 小学校に演劇部はないんだし!」
「おー」
確かにもっともやりたい演劇をする場はない。しかしやる気になればこの前の放課後みたいに、人を集めて楽しむこともできる。
そのまま伝えると、朱華は落胆と衝撃を混ぜ合わせたような顔になった。
「もう諦めた方がいいんじゃねえか?」
「何を言ってるのよ、まーたん。ほっちゃんだけでもかなりの戦力なのに、漏れなくのぞちゃんもついてくるのよ! さっちゃんとゆーちゃんも加えれば、入部してくれた子も含めて4年生は5人になる。まーたんの代でも単独チームで出場できるんだから!」
「あーちゃんが卒業したら廃部という手も……」
「何か言った!?」
噛みつかんばかりの勢いに、さしもの陽向も頬に汗を流して後退りする。
「はわわ、ゆーちゃんにはソフトボールなんて無理なの。でもほっちゃんがやるなら、一緒にいくの」
「勉強の時間が減るのは痛いですが、体を動かすのも大切です。私でよければお供してもいいですよ」
賛成に近い意見が悠里と沙耶から上がり、胸の前で両手を組んだ朱華が瞳を輝かせる。
朱華をチラチラと盗み見ているあたり、悠里は憧れのお姉さんと放課後を過ごしたい気持ちもあるのだろう。
朱華だけでなく陽向も部活に入ってからというもの、放課後に一緒に遊ぶ頻度は激減した。それを誰よりも寂しがっていたのが悠里なのだ。
「2人もこう言ってるし、ほっちゃんも入ろ? 絶対、楽しいから」
「練習はキツいけどな」
「まーたんは黙ってて!」
胸倉を掴まれそうな迫力に、またしてもすごすごと引き下がる陽向。
その有様を笑われたからか、春也に八つ当たり気味に軽くプロレス技をかける。
「んー……」
皆とソフトボールで遊ぶのは楽しそうだが、毎日の宿題が終わったあとでDVDを見ながらアニメキャラや役者の真似をするのも楽しい。
悩みが深くなりすぎたせいか、自然に唇を尖らせてしまう。
それでも結論を出せない穂月に業を煮やしたわけではないだろうが、最後の秘策とばかりに朱華がとっておきの取引を持ち掛ける。
「入部してくれたら、皆でほっちゃんの演劇に参加するわ!」
「はあ!?」
事前の説明がなかったらしく、陽向が目を剥いた。力が緩んだ隙に春也がヘッドロックから脱しているが、気にしている場合じゃないと朱華に詰め寄る。
「俺は聞いてねえぞ!」
「今、初めて提案したもの」
「そういう問題じゃねえ!」
「別にいいじゃない。昔から何度もしてるんだし」
「恥ずかしいんだよ!」
偽らざる陽向の本音なのは、これまで穂月が頼み込んで渋々と参加していたのを考えれば明らかだった。
「じゃあほっちゃんに一緒に演劇なんてやりたくないって言えば?」
「……まーたん?」
「うぐっ! ひ、卑怯だぞ。2人して打ち合わせしてたんじゃないだろうな!」
悲しそうにする穂月から慌てて目を逸らし、唾を飛ばしながら陽向が抗議した。
「そんなわけないのは、まーたんがよくわかってるでしょ。ほっちゃんより私と一緒にいる時間が長いんだから」
「くおお……こうなれば……!
ほっちゃん、よく考えるんだ! ソフトボール部は練習はキツいし、汗をかくから臭いし、キャプテンは我儘で横暴――ぐほっ」
朱華からチョップを食らい、頭を押さえて陽向が悶絶する。
「いい加減なこと言ってると制裁するわよ」
「もうしてんじゃねえか……」
よほど痛かったのか、陽向は涙目だ。
「そういえばあーちゃんママが、あーちゃんとまーたんを見て、昔の好美ちゃんとのぞちゃんママにそっくりのいいコンビだって言ってたの」
「片方の血を引いてるはずののぞちゃんは我関せずで、智希君によりかかって寝てるんですが」
「でも智希君はなんだか幸せそうなの」
「これが俗に言うシスコンというやつですね」
なんて会話を悠里と沙耶が交わしている間にも、朱華の猛攻は続く。
脅しじみた文句こそないが、泣き落としに近い真似まで多種多様な技を駆使して、なんとか穂月を頷かせようとする。
義理や人情にこだわらず我が道を歩む穂月とはいえ、そこまでされると入部してもいいのではないかという気になる。
何より、キャプテンの朱華が約束したソフトボール部員も演劇に協力するという条件が大きかった。
「わかった。あーちゃんとソフトボールするから、代わりに穂月とも演劇してね」
「もちろんよ。全身全霊でやらせてもらうわ。
まーたんが!」
「俺に押し付けんな! 言い出しっぺが真っ先に協力しろよ!」
「のぞちゃんもいいー?」
ギャイギャイ騒ぐ年上組を放置し、最後尾にいた親友に声をかける。
「……ん」
面倒なのは好まない希だが、穂月を心配してくれているのか、何か催しものなどがある際は必ず付き添ってくれる。
夜店で迷子になりかけた時など、希がいてくれたおかげで難を逃れたのも1度や2度ではない。その親友が一緒なのだから、不安など覚えるはずもなかった。
*
その日の放課後から体操着で練習に参加した穂月たちを、朱華だけでなく顧問の柚も喜んでくれた。
「2人ともさすがだわ、これは即戦力ね」
悠里や沙耶へのボールに慣れるためのノックとは違い、穂月と希には徐々に速度と強さが上がっていた。
「教えたら葉月ちゃんたちも喜ぶわ。でも……プレイスタイルは似てないのね」
「おー?」
「大きな動きで魅せるという意味では、穂月ちゃんは実希子ちゃんに近いわね。当たり前の顔で難しい打球を処理する希ちゃんは……誰かしら? 例えるなら好美ちゃんと実希子ちゃんのいいとこどりみたいな感じね」
思ったよりも動ける穂月と希に、朱華から話を聞いていた上級生も大喜びする。ここ最近は良い試合はできても、勝利にまでは届いていないらしい。
「のぞちゃんを試合中ずっと起こしておくのは課題だけど、そこさえクリアできれば全国大会への道も見えてくるわ」
気合を入れる朱華にキャッチボールの相手をしてもらう。穂月の投げる球は部内でも桁が違うらしく、練習初日も関わらず称賛ばかりが飛び交う。
穂月自身はあまりピンときてなかったが、面白くなさそうにする部員もいた。その中の筆頭が同じ4年生の少女だった。
「少しくらいできるからっていい気にならないでくださいませ! わたくしだって負けませんわ!」
「おおっ!」
アニメでしか耳にしたことがないようなお嬢様口調に、幼少時からお姫様に憧れる穂月は一瞬で瞳を輝かせる。
「もう1回! もう1回お姫様っぽく言って!」
「くっ、あなたもバカにするつもりなんですのね。お母様から教えてもらった由緒正しい言葉遣いだというのに……」
「どうして? すごくカッコいいよ!」
「え? カッコいい? そんな風に言われたのは初めてですわ」
敵意を剥き出しにしていたと思ったら、簡単に照れ臭そうにもじもじするあたり、根は悪い人間ではないのかもしれない。
そもそも正義感の強い姉御肌な朱華が主将なのだ。性格に難があるチームメイトがいたら、つきっきりで相手がそうと知らない間に矯正している可能性が高い。
「お姫様みたいで素敵だよ」
「そ、そうですか。こほん。貴女……穂月さんと仰いましたね、なかなか見所がありましてよ」
癖なのか、わざとなのか、少女は優雅に一礼して見せ、
「わたくしは真壁《まかべ》 凛《りん》と申します。どうぞお見知りおきくださいませ」
「あいだほっ!」
「ええ、あいだ……え? 何ですの、それ」
「ああ、真壁、あいだほは返事みたいなもので意味なんぞないから気にすんな。あとほっちゃんと仲良くなった女子は大抵あだ名つけられるし、あだ名呼びさせられるから覚悟しとけよ」
「え? 西野先輩? あの、柳井先輩はどうして生暖かい目でわたくしを見守っているのですか? もうわけがわかりませんわあああ」
頭を抱えて盛大にパニクる少女に、朱華を筆頭に希まで順番に肩を叩いていく。
多少険悪になりかけた雰囲気はすでになく、穂月も新しい友達ができたと、にこにこしながら凛の肩に手を置いた。
「どうしてソフトボール部に入ってくれないの!?」
「おー?」
突然の勧誘にさすがの穂月も驚いていると、途中で合流済みの陽向が苦笑いを顔に張り付けた。
「いつほっちゃんたちが来るのかって、毎日そわそわしながら待ってたんだよ。俺はさっさと誘えばいいだろって言ったんだが、なんでも友達だからって特別扱いはしないからソフトボール部の門を叩くまでうんたらかんたら言っててな」
新学期の当初こそ余裕ぶっていた朱華だが、1ヵ月が経過しても音沙汰がないためとうとう痺れを切らしたらしいとも陽向は加えた。
言われてみればここ最近は登校中の話題にソフトボール関連が異様に多かったような気がする。穂月がふとそんなことを言うと、気付いていなかったのかと沙耶や悠里が驚いた。いつもと変わらず眠そうな希だけが、車道へ倒れ込まないよう弟に守られながら歩いている。
「前も言ったかもしれないけど、単独で大会に参加できないと合同チームを作るしかないのよ。私の代でなんとか保ってきた歴史を途切れさせるのは嫌なのっ」
葉月たちが小学生だった頃には単独チームが当たり前だったみたいだが、それでも入部希望者は少なくなっていたという。菜月の時代にはその傾向がさらに顕著になったものの、地域の小学校が統廃合されたことで一時的に問題は解決されたのだが、近年になって児童の総数自体が減っているのでまた再燃中らしかった。
「はわわ、あーちゃん、凄く必死なの」
「今年の新入部員は1人だけでな。5年の人数も少ないから、このままだと来年には合同チームの仲間入りだ」
あまりの剣幕に目を白黒させる悠里に、陽向が補足説明をした。
うんうん頷きながら聞いていた朱華は弟の手を離し、ガッと穂月の肩を掴んだ。
「ほっちゃんさえ入部してくれれば、残りの3人も入ってくれるはずなの。だから、ねっ? 小学校に演劇部はないんだし!」
「おー」
確かにもっともやりたい演劇をする場はない。しかしやる気になればこの前の放課後みたいに、人を集めて楽しむこともできる。
そのまま伝えると、朱華は落胆と衝撃を混ぜ合わせたような顔になった。
「もう諦めた方がいいんじゃねえか?」
「何を言ってるのよ、まーたん。ほっちゃんだけでもかなりの戦力なのに、漏れなくのぞちゃんもついてくるのよ! さっちゃんとゆーちゃんも加えれば、入部してくれた子も含めて4年生は5人になる。まーたんの代でも単独チームで出場できるんだから!」
「あーちゃんが卒業したら廃部という手も……」
「何か言った!?」
噛みつかんばかりの勢いに、さしもの陽向も頬に汗を流して後退りする。
「はわわ、ゆーちゃんにはソフトボールなんて無理なの。でもほっちゃんがやるなら、一緒にいくの」
「勉強の時間が減るのは痛いですが、体を動かすのも大切です。私でよければお供してもいいですよ」
賛成に近い意見が悠里と沙耶から上がり、胸の前で両手を組んだ朱華が瞳を輝かせる。
朱華をチラチラと盗み見ているあたり、悠里は憧れのお姉さんと放課後を過ごしたい気持ちもあるのだろう。
朱華だけでなく陽向も部活に入ってからというもの、放課後に一緒に遊ぶ頻度は激減した。それを誰よりも寂しがっていたのが悠里なのだ。
「2人もこう言ってるし、ほっちゃんも入ろ? 絶対、楽しいから」
「練習はキツいけどな」
「まーたんは黙ってて!」
胸倉を掴まれそうな迫力に、またしてもすごすごと引き下がる陽向。
その有様を笑われたからか、春也に八つ当たり気味に軽くプロレス技をかける。
「んー……」
皆とソフトボールで遊ぶのは楽しそうだが、毎日の宿題が終わったあとでDVDを見ながらアニメキャラや役者の真似をするのも楽しい。
悩みが深くなりすぎたせいか、自然に唇を尖らせてしまう。
それでも結論を出せない穂月に業を煮やしたわけではないだろうが、最後の秘策とばかりに朱華がとっておきの取引を持ち掛ける。
「入部してくれたら、皆でほっちゃんの演劇に参加するわ!」
「はあ!?」
事前の説明がなかったらしく、陽向が目を剥いた。力が緩んだ隙に春也がヘッドロックから脱しているが、気にしている場合じゃないと朱華に詰め寄る。
「俺は聞いてねえぞ!」
「今、初めて提案したもの」
「そういう問題じゃねえ!」
「別にいいじゃない。昔から何度もしてるんだし」
「恥ずかしいんだよ!」
偽らざる陽向の本音なのは、これまで穂月が頼み込んで渋々と参加していたのを考えれば明らかだった。
「じゃあほっちゃんに一緒に演劇なんてやりたくないって言えば?」
「……まーたん?」
「うぐっ! ひ、卑怯だぞ。2人して打ち合わせしてたんじゃないだろうな!」
悲しそうにする穂月から慌てて目を逸らし、唾を飛ばしながら陽向が抗議した。
「そんなわけないのは、まーたんがよくわかってるでしょ。ほっちゃんより私と一緒にいる時間が長いんだから」
「くおお……こうなれば……!
ほっちゃん、よく考えるんだ! ソフトボール部は練習はキツいし、汗をかくから臭いし、キャプテンは我儘で横暴――ぐほっ」
朱華からチョップを食らい、頭を押さえて陽向が悶絶する。
「いい加減なこと言ってると制裁するわよ」
「もうしてんじゃねえか……」
よほど痛かったのか、陽向は涙目だ。
「そういえばあーちゃんママが、あーちゃんとまーたんを見て、昔の好美ちゃんとのぞちゃんママにそっくりのいいコンビだって言ってたの」
「片方の血を引いてるはずののぞちゃんは我関せずで、智希君によりかかって寝てるんですが」
「でも智希君はなんだか幸せそうなの」
「これが俗に言うシスコンというやつですね」
なんて会話を悠里と沙耶が交わしている間にも、朱華の猛攻は続く。
脅しじみた文句こそないが、泣き落としに近い真似まで多種多様な技を駆使して、なんとか穂月を頷かせようとする。
義理や人情にこだわらず我が道を歩む穂月とはいえ、そこまでされると入部してもいいのではないかという気になる。
何より、キャプテンの朱華が約束したソフトボール部員も演劇に協力するという条件が大きかった。
「わかった。あーちゃんとソフトボールするから、代わりに穂月とも演劇してね」
「もちろんよ。全身全霊でやらせてもらうわ。
まーたんが!」
「俺に押し付けんな! 言い出しっぺが真っ先に協力しろよ!」
「のぞちゃんもいいー?」
ギャイギャイ騒ぐ年上組を放置し、最後尾にいた親友に声をかける。
「……ん」
面倒なのは好まない希だが、穂月を心配してくれているのか、何か催しものなどがある際は必ず付き添ってくれる。
夜店で迷子になりかけた時など、希がいてくれたおかげで難を逃れたのも1度や2度ではない。その親友が一緒なのだから、不安など覚えるはずもなかった。
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その日の放課後から体操着で練習に参加した穂月たちを、朱華だけでなく顧問の柚も喜んでくれた。
「2人ともさすがだわ、これは即戦力ね」
悠里や沙耶へのボールに慣れるためのノックとは違い、穂月と希には徐々に速度と強さが上がっていた。
「教えたら葉月ちゃんたちも喜ぶわ。でも……プレイスタイルは似てないのね」
「おー?」
「大きな動きで魅せるという意味では、穂月ちゃんは実希子ちゃんに近いわね。当たり前の顔で難しい打球を処理する希ちゃんは……誰かしら? 例えるなら好美ちゃんと実希子ちゃんのいいとこどりみたいな感じね」
思ったよりも動ける穂月と希に、朱華から話を聞いていた上級生も大喜びする。ここ最近は良い試合はできても、勝利にまでは届いていないらしい。
「のぞちゃんを試合中ずっと起こしておくのは課題だけど、そこさえクリアできれば全国大会への道も見えてくるわ」
気合を入れる朱華にキャッチボールの相手をしてもらう。穂月の投げる球は部内でも桁が違うらしく、練習初日も関わらず称賛ばかりが飛び交う。
穂月自身はあまりピンときてなかったが、面白くなさそうにする部員もいた。その中の筆頭が同じ4年生の少女だった。
「少しくらいできるからっていい気にならないでくださいませ! わたくしだって負けませんわ!」
「おおっ!」
アニメでしか耳にしたことがないようなお嬢様口調に、幼少時からお姫様に憧れる穂月は一瞬で瞳を輝かせる。
「もう1回! もう1回お姫様っぽく言って!」
「くっ、あなたもバカにするつもりなんですのね。お母様から教えてもらった由緒正しい言葉遣いだというのに……」
「どうして? すごくカッコいいよ!」
「え? カッコいい? そんな風に言われたのは初めてですわ」
敵意を剥き出しにしていたと思ったら、簡単に照れ臭そうにもじもじするあたり、根は悪い人間ではないのかもしれない。
そもそも正義感の強い姉御肌な朱華が主将なのだ。性格に難があるチームメイトがいたら、つきっきりで相手がそうと知らない間に矯正している可能性が高い。
「お姫様みたいで素敵だよ」
「そ、そうですか。こほん。貴女……穂月さんと仰いましたね、なかなか見所がありましてよ」
癖なのか、わざとなのか、少女は優雅に一礼して見せ、
「わたくしは真壁《まかべ》 凛《りん》と申します。どうぞお見知りおきくださいませ」
「あいだほっ!」
「ええ、あいだ……え? 何ですの、それ」
「ああ、真壁、あいだほは返事みたいなもので意味なんぞないから気にすんな。あとほっちゃんと仲良くなった女子は大抵あだ名つけられるし、あだ名呼びさせられるから覚悟しとけよ」
「え? 西野先輩? あの、柳井先輩はどうして生暖かい目でわたくしを見守っているのですか? もうわけがわかりませんわあああ」
頭を抱えて盛大にパニクる少女に、朱華を筆頭に希まで順番に肩を叩いていく。
多少険悪になりかけた雰囲気はすでになく、穂月も新しい友達ができたと、にこにこしながら凛の肩に手を置いた。
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