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第11話 実はちょっとだけ暑いのです
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「すまなかった。虐めのつもりはなかったが、安易にからかった俺が悪い。許してくれ」
「……どうして、からかったのです?」
カイルは顔を上げて、焚き火の前に座っているナナと目を合わせた。
「ナナと仲良くなりたかったんだよ。てっきり、からかうなと怒られると思ったからな。それで皆で笑えればいいかなってさ」
きちんと説明するのはとてつもなく恥ずかしいが、カイルのくだらないひと言のせいでナナが辛い思いをしていたのなら、そうも言っていられない。
理由をきちんと告げたあと、もう一度カイルは深く頭を下げてナナに謝罪した。
「本当に悪かった」
「……ナナはどらごんなので、人間と違って器が大きいのです。特別に許してあげるのです。それと……本当にナナと仲良くなりたいのです?」
尋ねられたカイルは「もちろん」と頷く。隣ではサレッタも同意する。
「私もだよ。友情の証に、ナナちゃんから頬擦りしてもいいんだよ」
「それは遠慮しておくのです」
きっぱりと断られたサレッタが、大げさに「そんなぁ」と言って涙目になる。その様子がおかしかったので、ナナが最初に笑った。続いてカイルが笑みを浮かべ、最後にサレッタが微笑んだ。
「二人はとても優しいのです。ええと……」
「ああ、そういえば自己紹介をまだしてなかったかもしれないな。知り合ってすぐ色々とあったから忘れてた。俺はカイルだ。カイル・ウィンズ。冒険者で戦士をしている」
「私はサレッタ・ミレアルよ。カイルとは同じ村で生まれ育った幼馴染なの。盗賊の技能を習得してるけど、冒険者で盗賊じゃないわよ」
カイルとサレッタの自己紹介が終わると、今度は自分の番とばかりにナナが肉球のついた右手を上げた。
すでに名前は知っているが、せっかくなのでナナのきちんとした自己紹介を待つ。
「ナナはナナなのです! どらごんなのです! ぐごー、なのです!」
立ち上がると同時に左手も上げて、何かに襲い掛かろうとするポーズを決める。火炎で盗賊を倒す場面を目の当たりにした今も、恐ろしさは感じない。
代わりにあるのは、有り余るほどの可愛らしさだ。サレッタの瞳にハートマークの輝きが宿っているような気もするが、巻き添えを食らうのは嫌なのでカイルはスルーを決め込む。
「カイルとサレッタは同じ村なのです?」
ポーズを決めて満足したのか、ちょこんと座り直したナナがサレッタに尋ねた。
「そうよ」微笑みを浮かべたままでサレッタは言った。
「羨ましいのです」
本心からそう思っているらしいのは、ナナの表情を見れば明らかだった。しかし、そんなことはない。どのようなイメージを持ってるかは不明だが、少なくともカイルにとっては胸を張って自慢できるような境遇ではなかった。
それはサレッタも同じだ。どうしようか迷ったみたいだが、やがて意を決して口を開いた。知り合ったばかりなのに、仲良くなったナナに隠し事をするのが嫌だったのかもしれない。
「確かに、私たちには両親がいた。でも、私たちの村はあまりにも貧乏だった。お腹を空かせて畑仕事を終えても、与えられる食事なんてほとんどなかったの。働き手となる大人が優先してご飯を食べて、子供には残り物だけ。村にいる間は、いつもお腹を空かせてたわ」
同情というより、ナナは不思議そうな顔をする。
「どうして貧乏だったのです?」
「私たちの故郷は大陸の中央に位置するここランゼルト王国から、ずっと北にいった場所にあるの。辺境国で戦力も乏しい、外交をすればいつも負けてばかり。なのに占領をされなかったのは、壊滅的に作物の実りが悪かったから。一年の大半で雪が降り、とても寒い。毎年、何人も凍死者が出るくらい」
村での生活を思い出したのか、サレッタが表情を暗くする。
「そんな国の中で、さらに北端に位置するのが私たちの村なの。環境はとても厳しくて、大人になる前に死んでしまう子供も珍しくなかったわ。だからでしょうね。私たちの両親を含め、村の大人たちは子供を積極的に育てなくなった。きっと子孫を残すのを諦めてしまったのね」
ここで初めて、ナナが悲しそうに頭を小さく左右に振った。
「子孫繁栄は大事なのです。じーじがいつも言っていたのです」
「ナナちゃんの言うとおりよ。でも、私たちの村シノーロではそうではなかったの。食い扶持を減らすために子供を売るの。そうすれば幾ばくかのお金も入るしね」
辛そうに、サレッタはそこで一度言葉を切る。
いつも元気なサレッタの瞳に涙が滲みだすのを見て、カイルは「もういい」と告げた。
「だから俺たちは――俺は村を出ようと決めた。自動的に食い扶持が減れば、売られる奴も減るだろ。そう思ってな。死ぬまで働かせられたり、どこぞに売られるより、野垂れ死にする方がずっとマシだと思った。そこで以前に聞いて知ってた、冒険者ってやつになろうと決めたのさ」
冒険者ギルドは規模の大きい町には比較的支部が存在する。本部はランゼルト王国の王都にある。王国こそが冒険者ギルド発祥の地である証だった。
「私はカイルが村から出るのを知って、一緒にくっついてきたの。両親のためになるとはいっても、売られていくのは嫌だもの。嫁ぐならまだしも……売られた女の末路は悲惨だと聞いてたしね」
「人間も色々と大変なのです。なんだか親近感を覚えたのです」
「そういえば、ナナちゃんは村で虐められてたの?」
話が一段落したところで、サレッタがナナの事情を尋ねる。言いたくなければ無理に聞き出すつもりはなかったが、やや俯きながらもポツリポツリと話してくれる。
「村というより、ドラゴンの里なのです。大きな山と深い谷、それに濃い霧がある場所なのです」
「ドラゴンの里なんて存在するのか? それはどのあたりなんだ?」
「むー。信じていないのです。ドラゴンの里は……はうっ」
ドラゴンの里の場所を説明しかけたナナが、途中で何かに気づいたような反応をした。
盗賊の残党でも現れたのかとカイルは焦ったが、どうやらそうではなかったらしい。
「重要な質問をするのを忘れていたのです。ここはどこなのです?」
よもやの問いかけに、カイルとサレッタは唖然とする。
「どこって、ランゼルト王国だよ」
カイルが言うと、ナナは小首を傾げて「どこなのです?」と再び同じ質問をしてきた。
「まさか……ランゼルト王国を知らないのか? 大陸の中心に位置する騎士王国だぞ」
「騎士王国なのです? 里を追い出されて、気が付いたらこの町の近くに立っていたので、何もわからないのです」
「おいおい。それじゃあ、ドラゴンの里はこの近くにあるのか?」
わからないとナナは首を左右に振った。
「ナナはどらごんなのです。他のドラゴンとは見た目も全然違うのです。だから、仲間に入れてもらえないのです。いつも、ひとりぼっちだったのです」
容姿よりもずっと知識が豊富そうで、言葉遣いはともかく、言葉の選択は大人びている。理解力にしてもそうだ。カイルのナナに対する印象は、マセている子供というものだった。
けれど、こうして悲しそうにしている姿を見れば、やはり子供なのだと理解する。とてもドラゴンには思えない。
「同じ年頃のドラゴンに遊んでほしくても、話しかけると怒られるのです。じーじ以外、口も利いてくれなかったのです。でも、じーじがいれば幸せだったのです」
ぐしぐしと手の甲で両目に溜まった涙を拭い、なおもナナは言葉を続ける。
「でも、じーじはそのせいで村の皆から虐められだしたのです。ナナは里にいちゃいけない子だったのです。ドラゴンじゃなくて、どらごんだから……駄目だったのです。ナナ、ひとりだけ」
拭っても拭っても止まらない涙が、ボロボロとナナの体にこぼれ落ちる。
「だから、ナナ、じーじを嫌いって言ったのです。じーじに火を吐いたのです。ひとりぼっちになるのは……ナナだけでいいのです……」
「ナナちゃん……」
話を聞いているサレッタまで涙目になる。
「じーじはますたーなので、火を吐いたりしたら駄目なのです。ナナは恩知らずと言われ、皆に里から追い出されたのです。ナナは……ナナは……」
「もういいっ! ごめんね、ナナちゃん。辛いことを思い出させて」
「いいのです。おねーさんも話してくれたのです。お互いさまなのです。でも……ナナは恩知らずじゃないのです……!」
「わかってるよ。ナナちゃんは、じーじに迷惑をかけたくなかったのよね。自分から嫌われ者になって、里を追い出されるようにしたのよね。そうすれば、じーじは他の皆と仲良くできると思って」
ますたーというのがどういうものかは知らないが、里長みたいなものであれば、他への示しも必要となる。反逆ともとれる行動をしたナナを、そのまま里へ置いておくのは難しい。
里から合法的に出て行きたいなら有効的な手段だが、ナナがいなくなればじーじが孤独になってしまうのではないか。そんな心配を覚えたが、カイルは口に出したりしない。小さな少女が決死ともいえるほどの覚悟で選んだのだ。第三者が軽々に口を挟んでいい問題じゃない。
素直にナナの決断を尊重してやるべきだろう。そう判断したカイルは、サレッタと抱き合っている少女の頭を優しく撫でた。
髪の毛に触れる感触はない。あくまで柔らかな、もこもことした着ぐるみの手触りがするだけだ。毛布のような感じで、保温性は抜群に思える。だが冬はまだしも夏――とりわけ太陽が姿を現す日中は辛いのではないか。そんな感想を覚えた。
頭を撫でられてくすぐったそうにするナナに、暑くないのかストレートに尋ねてみた。
「大丈夫なのです。でも、実はちょっとだけ暑いのです。里では丁度良かったのです」
ナナの説明どおり、ドラゴンの里が大きな山と深い谷の側にあるなら、きっと気温は低い。そこで暮らしていたのであれば、厚い毛布のごとき着ぐるみを常に着用していても、さほど暑いとは思わないだろう。むしろ若干の肌寒さを覚えてもおかしくはない。
「……どうして、からかったのです?」
カイルは顔を上げて、焚き火の前に座っているナナと目を合わせた。
「ナナと仲良くなりたかったんだよ。てっきり、からかうなと怒られると思ったからな。それで皆で笑えればいいかなってさ」
きちんと説明するのはとてつもなく恥ずかしいが、カイルのくだらないひと言のせいでナナが辛い思いをしていたのなら、そうも言っていられない。
理由をきちんと告げたあと、もう一度カイルは深く頭を下げてナナに謝罪した。
「本当に悪かった」
「……ナナはどらごんなので、人間と違って器が大きいのです。特別に許してあげるのです。それと……本当にナナと仲良くなりたいのです?」
尋ねられたカイルは「もちろん」と頷く。隣ではサレッタも同意する。
「私もだよ。友情の証に、ナナちゃんから頬擦りしてもいいんだよ」
「それは遠慮しておくのです」
きっぱりと断られたサレッタが、大げさに「そんなぁ」と言って涙目になる。その様子がおかしかったので、ナナが最初に笑った。続いてカイルが笑みを浮かべ、最後にサレッタが微笑んだ。
「二人はとても優しいのです。ええと……」
「ああ、そういえば自己紹介をまだしてなかったかもしれないな。知り合ってすぐ色々とあったから忘れてた。俺はカイルだ。カイル・ウィンズ。冒険者で戦士をしている」
「私はサレッタ・ミレアルよ。カイルとは同じ村で生まれ育った幼馴染なの。盗賊の技能を習得してるけど、冒険者で盗賊じゃないわよ」
カイルとサレッタの自己紹介が終わると、今度は自分の番とばかりにナナが肉球のついた右手を上げた。
すでに名前は知っているが、せっかくなのでナナのきちんとした自己紹介を待つ。
「ナナはナナなのです! どらごんなのです! ぐごー、なのです!」
立ち上がると同時に左手も上げて、何かに襲い掛かろうとするポーズを決める。火炎で盗賊を倒す場面を目の当たりにした今も、恐ろしさは感じない。
代わりにあるのは、有り余るほどの可愛らしさだ。サレッタの瞳にハートマークの輝きが宿っているような気もするが、巻き添えを食らうのは嫌なのでカイルはスルーを決め込む。
「カイルとサレッタは同じ村なのです?」
ポーズを決めて満足したのか、ちょこんと座り直したナナがサレッタに尋ねた。
「そうよ」微笑みを浮かべたままでサレッタは言った。
「羨ましいのです」
本心からそう思っているらしいのは、ナナの表情を見れば明らかだった。しかし、そんなことはない。どのようなイメージを持ってるかは不明だが、少なくともカイルにとっては胸を張って自慢できるような境遇ではなかった。
それはサレッタも同じだ。どうしようか迷ったみたいだが、やがて意を決して口を開いた。知り合ったばかりなのに、仲良くなったナナに隠し事をするのが嫌だったのかもしれない。
「確かに、私たちには両親がいた。でも、私たちの村はあまりにも貧乏だった。お腹を空かせて畑仕事を終えても、与えられる食事なんてほとんどなかったの。働き手となる大人が優先してご飯を食べて、子供には残り物だけ。村にいる間は、いつもお腹を空かせてたわ」
同情というより、ナナは不思議そうな顔をする。
「どうして貧乏だったのです?」
「私たちの故郷は大陸の中央に位置するここランゼルト王国から、ずっと北にいった場所にあるの。辺境国で戦力も乏しい、外交をすればいつも負けてばかり。なのに占領をされなかったのは、壊滅的に作物の実りが悪かったから。一年の大半で雪が降り、とても寒い。毎年、何人も凍死者が出るくらい」
村での生活を思い出したのか、サレッタが表情を暗くする。
「そんな国の中で、さらに北端に位置するのが私たちの村なの。環境はとても厳しくて、大人になる前に死んでしまう子供も珍しくなかったわ。だからでしょうね。私たちの両親を含め、村の大人たちは子供を積極的に育てなくなった。きっと子孫を残すのを諦めてしまったのね」
ここで初めて、ナナが悲しそうに頭を小さく左右に振った。
「子孫繁栄は大事なのです。じーじがいつも言っていたのです」
「ナナちゃんの言うとおりよ。でも、私たちの村シノーロではそうではなかったの。食い扶持を減らすために子供を売るの。そうすれば幾ばくかのお金も入るしね」
辛そうに、サレッタはそこで一度言葉を切る。
いつも元気なサレッタの瞳に涙が滲みだすのを見て、カイルは「もういい」と告げた。
「だから俺たちは――俺は村を出ようと決めた。自動的に食い扶持が減れば、売られる奴も減るだろ。そう思ってな。死ぬまで働かせられたり、どこぞに売られるより、野垂れ死にする方がずっとマシだと思った。そこで以前に聞いて知ってた、冒険者ってやつになろうと決めたのさ」
冒険者ギルドは規模の大きい町には比較的支部が存在する。本部はランゼルト王国の王都にある。王国こそが冒険者ギルド発祥の地である証だった。
「私はカイルが村から出るのを知って、一緒にくっついてきたの。両親のためになるとはいっても、売られていくのは嫌だもの。嫁ぐならまだしも……売られた女の末路は悲惨だと聞いてたしね」
「人間も色々と大変なのです。なんだか親近感を覚えたのです」
「そういえば、ナナちゃんは村で虐められてたの?」
話が一段落したところで、サレッタがナナの事情を尋ねる。言いたくなければ無理に聞き出すつもりはなかったが、やや俯きながらもポツリポツリと話してくれる。
「村というより、ドラゴンの里なのです。大きな山と深い谷、それに濃い霧がある場所なのです」
「ドラゴンの里なんて存在するのか? それはどのあたりなんだ?」
「むー。信じていないのです。ドラゴンの里は……はうっ」
ドラゴンの里の場所を説明しかけたナナが、途中で何かに気づいたような反応をした。
盗賊の残党でも現れたのかとカイルは焦ったが、どうやらそうではなかったらしい。
「重要な質問をするのを忘れていたのです。ここはどこなのです?」
よもやの問いかけに、カイルとサレッタは唖然とする。
「どこって、ランゼルト王国だよ」
カイルが言うと、ナナは小首を傾げて「どこなのです?」と再び同じ質問をしてきた。
「まさか……ランゼルト王国を知らないのか? 大陸の中心に位置する騎士王国だぞ」
「騎士王国なのです? 里を追い出されて、気が付いたらこの町の近くに立っていたので、何もわからないのです」
「おいおい。それじゃあ、ドラゴンの里はこの近くにあるのか?」
わからないとナナは首を左右に振った。
「ナナはどらごんなのです。他のドラゴンとは見た目も全然違うのです。だから、仲間に入れてもらえないのです。いつも、ひとりぼっちだったのです」
容姿よりもずっと知識が豊富そうで、言葉遣いはともかく、言葉の選択は大人びている。理解力にしてもそうだ。カイルのナナに対する印象は、マセている子供というものだった。
けれど、こうして悲しそうにしている姿を見れば、やはり子供なのだと理解する。とてもドラゴンには思えない。
「同じ年頃のドラゴンに遊んでほしくても、話しかけると怒られるのです。じーじ以外、口も利いてくれなかったのです。でも、じーじがいれば幸せだったのです」
ぐしぐしと手の甲で両目に溜まった涙を拭い、なおもナナは言葉を続ける。
「でも、じーじはそのせいで村の皆から虐められだしたのです。ナナは里にいちゃいけない子だったのです。ドラゴンじゃなくて、どらごんだから……駄目だったのです。ナナ、ひとりだけ」
拭っても拭っても止まらない涙が、ボロボロとナナの体にこぼれ落ちる。
「だから、ナナ、じーじを嫌いって言ったのです。じーじに火を吐いたのです。ひとりぼっちになるのは……ナナだけでいいのです……」
「ナナちゃん……」
話を聞いているサレッタまで涙目になる。
「じーじはますたーなので、火を吐いたりしたら駄目なのです。ナナは恩知らずと言われ、皆に里から追い出されたのです。ナナは……ナナは……」
「もういいっ! ごめんね、ナナちゃん。辛いことを思い出させて」
「いいのです。おねーさんも話してくれたのです。お互いさまなのです。でも……ナナは恩知らずじゃないのです……!」
「わかってるよ。ナナちゃんは、じーじに迷惑をかけたくなかったのよね。自分から嫌われ者になって、里を追い出されるようにしたのよね。そうすれば、じーじは他の皆と仲良くできると思って」
ますたーというのがどういうものかは知らないが、里長みたいなものであれば、他への示しも必要となる。反逆ともとれる行動をしたナナを、そのまま里へ置いておくのは難しい。
里から合法的に出て行きたいなら有効的な手段だが、ナナがいなくなればじーじが孤独になってしまうのではないか。そんな心配を覚えたが、カイルは口に出したりしない。小さな少女が決死ともいえるほどの覚悟で選んだのだ。第三者が軽々に口を挟んでいい問題じゃない。
素直にナナの決断を尊重してやるべきだろう。そう判断したカイルは、サレッタと抱き合っている少女の頭を優しく撫でた。
髪の毛に触れる感触はない。あくまで柔らかな、もこもことした着ぐるみの手触りがするだけだ。毛布のような感じで、保温性は抜群に思える。だが冬はまだしも夏――とりわけ太陽が姿を現す日中は辛いのではないか。そんな感想を覚えた。
頭を撫でられてくすぐったそうにするナナに、暑くないのかストレートに尋ねてみた。
「大丈夫なのです。でも、実はちょっとだけ暑いのです。里では丁度良かったのです」
ナナの説明どおり、ドラゴンの里が大きな山と深い谷の側にあるなら、きっと気温は低い。そこで暮らしていたのであれば、厚い毛布のごとき着ぐるみを常に着用していても、さほど暑いとは思わないだろう。むしろ若干の肌寒さを覚えてもおかしくはない。
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