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一章 友達
1-1 第一関門
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「っしゃあ! どうだコラァ! 舐めんなオラァ!」
実に五時間半、百枚を超える半紙をゴミに変えた後、完成した一枚の書を掲げて叫ぶ。
「できないと思ったか!? できないと? この俺が!? はっ、まさか! 見ろオラァ! この完璧な書を!」
誰に向けるでもなく、ただ昂ぶりをそのまま口から放り出していく。
「オラァ! オラァ! オラァ! オラァ! ハァ! セイヤ! ドラァ! コラァ!」
「オラァ! うっせぇ、バカ兄貴!」
収まらない感情を叫び続けていると、部屋のドアが勢い良くブチ開けられた。
「正月の朝っぱらからうるせぇよ、こっちは昼まで寝るつも……り?」
「オラァ! 友希ぃ、いいとこに来たじゃねぇか!」
喜びを分かち合える弟の登場が嬉しく、思わず笑みが零れる。
「兄貴……この部屋、どうしたんだよ?」
「部屋なんかどうでもいい、とりあえずこれを見ろ」
「いや、どうでもよくはないだろ……って、これ……兄貴、何かあったのか?」
目の前に書を突きつけると、一気に友希の視線が吸い込まれていく。やはり魂の籠った書というものは人の心を捉えてやまないのだろう。
「革命だ。俺の中で革命が起きたんだ。もう誰も俺を止める事はできない」
「……兄貴」
「ああ、弟よ」
俺と書に交互に視線を向ける友希を、暖かく見つめる。
書の道は寛大だ。望むならば、愚弟をも必ずや受け入れてくれるだろう。
「家には、妹はいねぇよ」
「……はっ? ぁあ、忘れてたぁっ!!」
冷めた弟の声と、その視線の先、書に書かれた『妹の友達と付き合う!』の文字の意味を読み返し、一気に本来の目的を思い出していく。
「くそぅ、くそぅ、書の道め、俺を惑わしやがって、お前なんかこうだっ!」
決意を完璧に書き出そうとするあまり、いつしか書を極める事が目的に成り代わってしまっていた。危ない、あと少しで偉大な書道家への小さくて大きな一歩を歩みだすところだった。
俺を誘惑した筆の野郎は、洗わずにそのまま筆巻きの中に監禁してやる。次に顔を出す時にはガチガチに固まってまともに文字も書けまい、ざまぁみやがれ。
「兄貴、本当に大丈夫か? なんなら、話くらいなら聞くけど」
「そうだ、聞いてくれ友希、俺の本当の、そう、本当の決意を」
今度こそ、書ではなくその中に込めた決意と向き合う。
「俺は、妹の友達と付き合う!」
自ら口に出してみると、より一層その思いは強まった気がした。
「いや、だからまず妹がいねぇだろうが……」
奇妙なものを見るような目をした友希を背に、部屋を出る。
誰にも、どんな事情があろうとも今の俺を止める事はできないのだ。
実に五時間半、百枚を超える半紙をゴミに変えた後、完成した一枚の書を掲げて叫ぶ。
「できないと思ったか!? できないと? この俺が!? はっ、まさか! 見ろオラァ! この完璧な書を!」
誰に向けるでもなく、ただ昂ぶりをそのまま口から放り出していく。
「オラァ! オラァ! オラァ! オラァ! ハァ! セイヤ! ドラァ! コラァ!」
「オラァ! うっせぇ、バカ兄貴!」
収まらない感情を叫び続けていると、部屋のドアが勢い良くブチ開けられた。
「正月の朝っぱらからうるせぇよ、こっちは昼まで寝るつも……り?」
「オラァ! 友希ぃ、いいとこに来たじゃねぇか!」
喜びを分かち合える弟の登場が嬉しく、思わず笑みが零れる。
「兄貴……この部屋、どうしたんだよ?」
「部屋なんかどうでもいい、とりあえずこれを見ろ」
「いや、どうでもよくはないだろ……って、これ……兄貴、何かあったのか?」
目の前に書を突きつけると、一気に友希の視線が吸い込まれていく。やはり魂の籠った書というものは人の心を捉えてやまないのだろう。
「革命だ。俺の中で革命が起きたんだ。もう誰も俺を止める事はできない」
「……兄貴」
「ああ、弟よ」
俺と書に交互に視線を向ける友希を、暖かく見つめる。
書の道は寛大だ。望むならば、愚弟をも必ずや受け入れてくれるだろう。
「家には、妹はいねぇよ」
「……はっ? ぁあ、忘れてたぁっ!!」
冷めた弟の声と、その視線の先、書に書かれた『妹の友達と付き合う!』の文字の意味を読み返し、一気に本来の目的を思い出していく。
「くそぅ、くそぅ、書の道め、俺を惑わしやがって、お前なんかこうだっ!」
決意を完璧に書き出そうとするあまり、いつしか書を極める事が目的に成り代わってしまっていた。危ない、あと少しで偉大な書道家への小さくて大きな一歩を歩みだすところだった。
俺を誘惑した筆の野郎は、洗わずにそのまま筆巻きの中に監禁してやる。次に顔を出す時にはガチガチに固まってまともに文字も書けまい、ざまぁみやがれ。
「兄貴、本当に大丈夫か? なんなら、話くらいなら聞くけど」
「そうだ、聞いてくれ友希、俺の本当の、そう、本当の決意を」
今度こそ、書ではなくその中に込めた決意と向き合う。
「俺は、妹の友達と付き合う!」
自ら口に出してみると、より一層その思いは強まった気がした。
「いや、だからまず妹がいねぇだろうが……」
奇妙なものを見るような目をした友希を背に、部屋を出る。
誰にも、どんな事情があろうとも今の俺を止める事はできないのだ。
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