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君だけの○○だから
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しおりを挟む「黒瀬くん。私、お手洗いに行ってくるね」
「うん、了解。俺は此処で待ってるから」
繋いでいた手をはなして、お手洗いに向かう。少し進んだ所で振り返ってみれば、黒瀬くんは近くの柱に凭れ掛かって、スマホをいじっている。
そんな黒瀬くんのそばを通り過ぎていった女の子二人組は、黒瀬くんの方をチラチラ振り返って、何やら耳打ちし合っている。
(まぁ黒瀬くん、格好いいもんね。今なんて着物姿だから、いつにも増して色気だってあるし……遠目から見ても分かるくらい、オーラがすごい)
静かに佇んでいるその姿さえ、通り過ぎる女の子たちが振り向いちゃうくらいには絵になっているんだから――早く戻らないと、誰かに声を掛けられてしまうかもしれない。
私は急いでトイレを目指した。着慣れていない着物に少しだけ手こずりながらお手洗いを済ませて、黒瀬くんのもとに戻るべく急ぎ足になる。
「すみません。少しお尋ねしてもいいですか?」
――だけど、トイレを出て直ぐのところで、声を掛けられてしまった。
スーツ姿の若い男性だ。糸目が特徴的で、優しそうな顔つきをしている。
「はい、何でしょう?」
「よければ、道を教えていただきたくて……」
「あの、私も観光で来ているので、詳しいわけではないんですが……どちらに行かれるんですか?」
「此処に行きたいんですが、中々分かりづらくて。申し訳ないです」
男性がすまなそうな顔をしながら、手元のメモを私にも見えるようにと近づけてくれる。
私も一歩距離を詰めて、メモを覗き込むように見てみるけれど――そこには、何も書かれていない。白紙だ。
「あの、何も書かれていませんけ…「行きたいというよりは、用があるんですよ。――皇組の、若頭にね」
耳元で、囁かれる。
咄嗟に距離をとろうとしたけれど、口許をハンカチのようなもので押さえられてしまった。鼻腔を通り抜けていく、薬品の匂い。ふらり、視界がぐらついて、倒れ込みそうになる。
「おっと、大丈夫ですか? 具合が悪いなら、少し休んだ方がいい。肩をお貸ししますね」
男性が穏やかな声で言いながら、私の肩を抱く。このまま意識を失ったらダメだって、分かっているけど――頭の中がふわふわしてきて、みるみる思考が奪われていく。
「……少しの間、おやすみなさい」
ねっとりした声が、じわりと鼓膜を揺らす。
それを最後に、意識がプツリと途切れた。
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○雪さま
(Twitter)https://twitter.com/yukiyukisnow7?s=21
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