111 / 126
君だけの○○だから
2
しおりを挟む「ほら、早く行こ。時間は有限! 回りたいところも、まだまだたくさんあるんだからね」
「うん、そうだね。神様に願うまでもないけど、百合子さんとの縁が生涯……いや、生まれ変わってからも確実につながってるように、神様には賄賂を渡しておかないとね」
「お賽銭のことを賄賂って言う人は、多分黒瀬くんくらいしか、いないんじゃないかな……」
いつもの調子を取り戻した黒瀬くんと他愛のない話を繰り広げながら、神社で参拝ならぬ神様に賄賂をお渡しして、ハート型の絵馬には願い事を書いた。
“ずっと一緒にいられますように”
シンプルだけど、これから先もずっと心の中に在り続ける思いを、京都旅行の思い出と共に絵馬に託した。
私が書いた文字を見た黒瀬くんは、その下に“いたい、じゃなくて、ずっと一緒にいる”と書いて、満足げに笑っている。
「それって、もう願い事じゃないよね?」
「だって願うまでもない、確定事項だからね」
どうやら黒瀬くんの中では、これから先の未来でも私と一緒にいることが、もう決まっていたみたいだ。
――そうやって当たり前みたいに、私が望む居場所を与えてくれて、温かな未来を約束してくれる黒瀬くんは、やっぱりズルいなぁって、そう思う。だって私ばかり、貰っている気がするから。
「……ありがとう」
「うん? 何でお礼なの?」
「だって……嬉しかったから」
「それじゃあ、どういたしまして」
クスクス笑っている黒瀬くんには、私の気持ちなんてお見通しなんだろうな。
はなれていた手を繋がれる。顔を見合わせれば、自然と笑みが漏れる。
そして、様々な願いが所狭しと詰まっている絵馬掛がある場所まで行き、私たちの書いた絵馬も仲間に入れてもらった。
「あ、黒瀬くん。おみくじだって。引いてみようよ」
六角柱の木箱の中に、数字が書かれた棒が入っているタイプのものだ。ジャラジャラと音を鳴らしてみれば、私が引いた棒には“四”の数字が書かれていた。
社務所にいる巫女さんに数字を伝えておみくじを受け取り、黒瀬くんと一緒に結果を確認する。どうやら黒瀬くんは末吉だったみたいで、何とも微妙そうな顔をしている。
「確か末吉って、凶の次に悪いやつだよね」
「うん。でも、これから良いことがあるっていう意味だから大丈夫だよって、小さい頃おばあちゃんが言ってたよ」
「え、今の時点で幸せ絶頂なのに、これから先もっと良いことがあるってこと?」
「ふふ、すっごいポジティブ思考」
「百合子さんはどうだった?」
「私はね、吉だったよ。願事は……“のぞみのまゝです。人の言葉に迷うな”って書いてある。黒瀬くんは何て書いてあった?」
「俺は、“すこし時がかかるが叶う”だってさ。まぁ、もう叶ってるようなものだけど……」
意味深な言葉を呟いた黒瀬くんは、私のおみくじを覗き込んでくる。
「恋愛のところはどうだった?」
「えっと、恋愛はね……“愛情を信じなさい”だって」
「へぇ。神様も良いこと言うね」
「……黒瀬くんは、何て書いてあったの?」
「俺? 俺はね……“この人を逃すな”だってさ」
「え?」
「まぁ神様に言われなくても、逃がす気なんてこれっぽっちもないけどね」
そう言った黒瀬くんは、私を真っ直ぐに見据えて、不敵な笑みを浮かべる。
その表情が、悔しくなっちゃうくらいに格好良くて――私は熱くなった頬を隠すように、サッと顔を逸らした。……多分黒瀬くんには、私が照れていることなんて、バレバレだっただろうけど。
おみくじをおみくじ掛に結び付けて、スマホで時刻を確認すれば、ちょうど十一時を過ぎたところだった。
次は八坂庚申堂というお寺に行ってから、近場でお昼を食べる予定になっている。
0
お気に入りに追加
26
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
十年越しの溺愛は、指先に甘い星を降らす
和泉杏咲
恋愛
私は、もうすぐ結婚をする。
職場で知り合った上司とのスピード婚。
ワケアリなので結婚式はナシ。
けれど、指輪だけは買おうと2人で決めた。
物が手に入りさえすれば、どこでもよかったのに。
どうして私達は、あの店に入ってしまったのだろう。
その店の名前は「Bella stella(ベラ ステラ)」
春の空色の壁の小さなお店にいたのは、私がずっと忘れられない人だった。
「君が、そんな結婚をするなんて、俺がこのまま許せると思う?」
お願い。
今、そんなことを言わないで。
決心が鈍ってしまうから。
私の人生は、あの人に捧げると決めてしまったのだから。
⌒*。*゚*⌒*゚*。*⌒*。*゚*⌒* ゚*。*⌒*。*゚
東雲美空(28) 会社員 × 如月理玖(28) 有名ジュエリー作家
⌒*。*゚*⌒*゚*。*⌒*。*゚*⌒* ゚*。*⌒*。*゚
夫に離縁が切り出せません
えんどう
恋愛
初めて会った時から無口で無愛想な上に、夫婦となってからもまともな会話は無く身体を重ねてもそれは変わらない。挙げ句の果てに外に女までいるらしい。
妊娠した日にお腹の子供が産まれたら離縁して好きなことをしようと思っていたのだが──。
女官になるはずだった妃
夜空 筒
恋愛
女官になる。
そう聞いていたはずなのに。
あれよあれよという間に、着飾られた私は自国の皇帝の妃の一人になっていた。
しかし、皇帝のお迎えもなく
「忙しいから、もう後宮に入っていいよ」
そんなノリの言葉を彼の側近から賜って後宮入りした私。
秘書省監のならびに本の虫である父を持つ、そんな私も無類の読書好き。
朝議が始まる早朝に、私は父が働く文徳楼に通っている。
そこで好きな著者の本を借りては、殿舎に籠る毎日。
皇帝のお渡りもないし、既に皇后に一番近い妃もいる。
縁付くには程遠い私が、ある日を境に平穏だった日常を壊される羽目になる。
誰とも褥を共にしない皇帝と、女官になるつもりで入ってきた本の虫妃の話。
更新はまばらですが、完結させたいとは思っています。
多分…
【完結】やさしい嘘のその先に
鷹槻れん
恋愛
妊娠初期でつわり真っ只中の永田美千花(ながたみちか・24歳)は、街で偶然夫の律顕(りつあき・28歳)が、会社の元先輩で律顕の同期の女性・西園稀更(にしぞのきさら・28歳)と仲睦まじくデートしている姿を見かけてしまい。
妊娠してから律顕に冷たくあたっていた自覚があった美千花は、自分に優しく接してくれる律顕に真相を問う事ができなくて、一人悶々と悩みを抱えてしまう。
※30,000字程度で完結します。
(執筆期間:2022/05/03〜05/24)
✼••┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈••✼
2022/05/30、エタニティブックスにて一位、本当に有難うございます!
✼••┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈••✼
---------------------
○表紙絵は市瀬雪さまに依頼しました。
(作品シェア以外での無断転載など固くお断りします)
○雪さま
(Twitter)https://twitter.com/yukiyukisnow7?s=21
(pixiv)https://www.pixiv.net/users/2362274
---------------------
ミックスド★バス~家のお風呂なら誰にも迷惑をかけずにイチャイチャ?~
taki
恋愛
【R18】恋人同士となった入浴剤開発者の温子と営業部の水川。
お互いの部屋のお風呂で、人目も気にせず……♥
えっちめシーンの話には♥マークを付けています。
ミックスド★バスの第5弾です。
妻と夫と元妻と
キムラましゅろう
恋愛
復縁を迫る元妻との戦いって……それって妻(わたし)の役割では?
わたし、アシュリ=スタングレイの夫は王宮魔術師だ。
数多くの魔術師の御多分に漏れず、夫のシグルドも魔術バカの変人である。
しかも二十一歳という若さで既にバツイチの身。
そんな事故物件のような夫にいつの間にか絆され絡めとられて結婚していたわたし。
まぁわたしの方にもそれなりに事情がある。
なので夫がバツイチでもとくに気にする事もなく、わたしの事が好き過ぎる夫とそれなりに穏やかで幸せな生活を営んでいた。
そんな中で、国王肝入りで魔術研究チームが組まれる事になったのだとか。そしてその編成されたチームメイトの中に、夫の別れた元妻がいて………
相も変わらずご都合主義、ノーリアリティなお話です。
不治の誤字脱字病患者の作品です。
作中に誤字脱字が有ったら「こうかな?」と脳内変換を余儀なくさせられる恐れが多々ある事をご了承下さいませ。
性描写はありませんがそれを連想させるワードが出てくる恐れがありますので、破廉恥がお嫌いな方はご自衛下さい。
小説家になろうさんでも投稿します。
年下の彼氏には同い年の女性の方がお似合いなので、別れ話をしようと思います!
ほったげな
恋愛
私には年下の彼氏がいる。その彼氏が同い年くらいの女性と街を歩いていた。同じくらいの年の女性の方が彼には似合う。だから、私は彼に別れ話をしようと思う。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる