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君だけの○○だから

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「ほら、早く行こ。時間は有限! 回りたいところも、まだまだたくさんあるんだからね」
「うん、そうだね。神様に願うまでもないけど、百合子さんとの縁が生涯……いや、生まれ変わってからも確実につながってるように、神様には賄賂を渡しておかないとね」
「お賽銭のことを賄賂って言う人は、多分黒瀬くんくらいしか、いないんじゃないかな……」

 いつもの調子を取り戻した黒瀬くんと他愛のない話を繰り広げながら、神社で参拝ならぬ神様に賄賂をお渡しして、ハート型の絵馬には願い事を書いた。

 “ずっと一緒にいられますように”

 シンプルだけど、これから先もずっと心の中に在り続ける思いを、京都旅行の思い出と共に絵馬に託した。
 私が書いた文字を見た黒瀬くんは、その下に“いたい、じゃなくて、ずっと一緒にいる”と書いて、満足げに笑っている。

「それって、もう願い事じゃないよね?」
「だって願うまでもない、確定事項だからね」

 どうやら黒瀬くんの中では、これから先の未来でも私と一緒にいることが、もう決まっていたみたいだ。
 ――そうやって当たり前みたいに、私が望む居場所を与えてくれて、温かな未来を約束してくれる黒瀬くんは、やっぱりズルいなぁって、そう思う。だって私ばかり、貰っている気がするから。

「……ありがとう」
「うん? 何でお礼なの?」
「だって……嬉しかったから」
「それじゃあ、どういたしまして」

 クスクス笑っている黒瀬くんには、私の気持ちなんてお見通しなんだろうな。

 はなれていた手を繋がれる。顔を見合わせれば、自然と笑みが漏れる。
 そして、様々な願いが所狭しと詰まっている絵馬掛がある場所まで行き、私たちの書いた絵馬も仲間に入れてもらった。

「あ、黒瀬くん。おみくじだって。引いてみようよ」

 六角柱の木箱の中に、数字が書かれた棒が入っているタイプのものだ。ジャラジャラと音を鳴らしてみれば、私が引いた棒には“四”の数字が書かれていた。
 社務所にいる巫女さんに数字を伝えておみくじを受け取り、黒瀬くんと一緒に結果を確認する。どうやら黒瀬くんは末吉だったみたいで、何とも微妙そうな顔をしている。

「確か末吉って、凶の次に悪いやつだよね」
「うん。でも、これから良いことがあるっていう意味だから大丈夫だよって、小さい頃おばあちゃんが言ってたよ」
「え、今の時点で幸せ絶頂なのに、これから先もっと良いことがあるってこと?」
「ふふ、すっごいポジティブ思考」
「百合子さんはどうだった?」
「私はね、吉だったよ。願事は……“のぞみのまゝです。人の言葉に迷うな”って書いてある。黒瀬くんは何て書いてあった?」
「俺は、“すこし時がかかるが叶う”だってさ。まぁ、もう叶ってるようなものだけど……」

 意味深な言葉を呟いた黒瀬くんは、私のおみくじを覗き込んでくる。

「恋愛のところはどうだった?」
「えっと、恋愛はね……“愛情を信じなさい”だって」
「へぇ。神様も良いこと言うね」
「……黒瀬くんは、何て書いてあったの?」
「俺? 俺はね……“この人を逃すな”だってさ」
「え?」
「まぁ神様に言われなくても、逃がす気なんてこれっぽっちもないけどね」

 そう言った黒瀬くんは、私を真っ直ぐに見据えて、不敵な笑みを浮かべる。
 その表情が、悔しくなっちゃうくらいに格好良くて――私は熱くなった頬を隠すように、サッと顔を逸らした。……多分黒瀬くんには、私が照れていることなんて、バレバレだっただろうけど。

 おみくじをおみくじ掛に結び付けて、スマホで時刻を確認すれば、ちょうど十一時を過ぎたところだった。
 次は八坂庚申堂やさかこうしんどうというお寺に行ってから、近場でお昼を食べる予定になっている。

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