上 下
51 / 126
見せかけのあどけない理性

4

しおりを挟む


「……そういえば、さっきからスマホ、鳴ってたよ」
「スマホ? ……ああ、多分友達からのあけおめメッセージかな」
「ふーん、そっか。百合子さんは人気者だね」

 出来上がった熱々のとろろ蕎麦が入った二つのお椀を、黒瀬くんがリビングまで持っていってくれる。ソファに並んで腰かけて、一緒に手を合わせる。

「それじゃあ、いただきます」
「いただきます」
「……うん、美味しい。身体もあったまるね」
「ふふ、ならよかった」

 蕎麦を啜りつつ、テーブルに置きっぱなしにしていたスマホに目をやれば、何件かのメッセージが入っていた。
 予想通り、全てに「今年もよろしく」といった新年の挨拶が記されている。三奈や地元の友人、職場の親しい先輩後輩や、母親からのものだった。

「百合子さん、新年会に行くの?」
「新年会?」
「うん。さっき画面が見えちゃって」

 黒瀬くんがスマホを指して聞いてくる。

「新年会……あぁ、これのことか。職場の年が近いメンバーで集まろうって話になってるんだ」
「へぇ。……それって、当然男もいるんだよね?」

 職場の同期で結成されたグループライン。一行目に“新年会のお知らせ”と書かれたメッセージが入っていた。年が近いメンバーで、一日の夜に集まろうという話になっていたのだ。
 参加者は恋人や家族がいない独り身のメンバーでということになっていて、開催が決定したのが十二月の上旬だった。
 その時にはまだ黒瀬くんとお付き合いをしていなかったし、同じく、まだ気になる彼との進展がなかった三奈に一緒に行こうと誘われて、参加を決めていたのだ。

 経緯を詳しく黒瀬くんに話せば、

「ふーん……そっか。楽しんできてね」

 と、あっさり了承される。その表情は笑顔だ。

 以前、黒瀬くんは自らを“重いと思う”と言っていたから、こういう飲み会に参加することも渋られるかと思っていた。――だけど、私の考え過ぎだったみたいだ。

「うん、ほどほどに飲んで楽しんでくるよ」
「でも心配だからさ、終わったら迎えに行ってもいい?」
「それは全然かまわないけど……むしろ迎えにきてもらっていいの? せっかくのお正月なのに」
「俺が迎えに行きたいんだよ。その分、百合子さんと一緒に過ごせる時間が増えるからね」
「……うん。ありがとうございます」
「どういたしまして」

 その日黒瀬くんは泊まっていったけど、他愛のないお喋りしている内にお互い眠ってしまっていたようで、目を覚ましたのは昼過ぎだった。私の身体には厚手のブランケットが掛けられていたから、私の方が先に眠ってしまったんだろう。ソファの上で、黒瀬くんに抱きしめられるような形で二人寝ころんでいた。
 順番にシャワーを浴びて、冷蔵庫に事前に用意しておいたおせちを黒瀬くんと食べて、適当にザッピングして目についたバラエティ番組を観たりしながらまったり過ごした。

 そして、気づけば時刻は十八時を回っていた。十九時には居酒屋に現地集合となっているから、あと十分ほどしたら家を出なければならない。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

十年越しの溺愛は、指先に甘い星を降らす

和泉杏咲
恋愛
私は、もうすぐ結婚をする。 職場で知り合った上司とのスピード婚。 ワケアリなので結婚式はナシ。 けれど、指輪だけは買おうと2人で決めた。 物が手に入りさえすれば、どこでもよかったのに。 どうして私達は、あの店に入ってしまったのだろう。 その店の名前は「Bella stella(ベラ ステラ)」 春の空色の壁の小さなお店にいたのは、私がずっと忘れられない人だった。 「君が、そんな結婚をするなんて、俺がこのまま許せると思う?」 お願い。 今、そんなことを言わないで。 決心が鈍ってしまうから。 私の人生は、あの人に捧げると決めてしまったのだから。 ⌒*。*゚*⌒*゚*。*⌒*。*゚*⌒* ゚*。*⌒*。*゚ 東雲美空(28) 会社員 × 如月理玖(28) 有名ジュエリー作家 ⌒*。*゚*⌒*゚*。*⌒*。*゚*⌒* ゚*。*⌒*。*゚

夫に離縁が切り出せません

えんどう
恋愛
 初めて会った時から無口で無愛想な上に、夫婦となってからもまともな会話は無く身体を重ねてもそれは変わらない。挙げ句の果てに外に女までいるらしい。  妊娠した日にお腹の子供が産まれたら離縁して好きなことをしようと思っていたのだが──。

女官になるはずだった妃

夜空 筒
恋愛
女官になる。 そう聞いていたはずなのに。 あれよあれよという間に、着飾られた私は自国の皇帝の妃の一人になっていた。 しかし、皇帝のお迎えもなく 「忙しいから、もう後宮に入っていいよ」 そんなノリの言葉を彼の側近から賜って後宮入りした私。 秘書省監のならびに本の虫である父を持つ、そんな私も無類の読書好き。 朝議が始まる早朝に、私は父が働く文徳楼に通っている。 そこで好きな著者の本を借りては、殿舎に籠る毎日。 皇帝のお渡りもないし、既に皇后に一番近い妃もいる。 縁付くには程遠い私が、ある日を境に平穏だった日常を壊される羽目になる。 誰とも褥を共にしない皇帝と、女官になるつもりで入ってきた本の虫妃の話。 更新はまばらですが、完結させたいとは思っています。 多分…

【完結】やさしい嘘のその先に

鷹槻れん
恋愛
妊娠初期でつわり真っ只中の永田美千花(ながたみちか・24歳)は、街で偶然夫の律顕(りつあき・28歳)が、会社の元先輩で律顕の同期の女性・西園稀更(にしぞのきさら・28歳)と仲睦まじくデートしている姿を見かけてしまい。 妊娠してから律顕に冷たくあたっていた自覚があった美千花は、自分に優しく接してくれる律顕に真相を問う事ができなくて、一人悶々と悩みを抱えてしまう。 ※30,000字程度で完結します。 (執筆期間:2022/05/03〜05/24) ✼••┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈••✼ 2022/05/30、エタニティブックスにて一位、本当に有難うございます! ✼••┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈••✼ --------------------- ○表紙絵は市瀬雪さまに依頼しました。  (作品シェア以外での無断転載など固くお断りします) ○雪さま (Twitter)https://twitter.com/yukiyukisnow7?s=21 (pixiv)https://www.pixiv.net/users/2362274 ---------------------

ミックスド★バス~家のお風呂なら誰にも迷惑をかけずにイチャイチャ?~

taki
恋愛
【R18】恋人同士となった入浴剤開発者の温子と営業部の水川。 お互いの部屋のお風呂で、人目も気にせず……♥ えっちめシーンの話には♥マークを付けています。 ミックスド★バスの第5弾です。

妻と夫と元妻と

キムラましゅろう
恋愛
復縁を迫る元妻との戦いって……それって妻(わたし)の役割では? わたし、アシュリ=スタングレイの夫は王宮魔術師だ。 数多くの魔術師の御多分に漏れず、夫のシグルドも魔術バカの変人である。 しかも二十一歳という若さで既にバツイチの身。 そんな事故物件のような夫にいつの間にか絆され絡めとられて結婚していたわたし。 まぁわたしの方にもそれなりに事情がある。 なので夫がバツイチでもとくに気にする事もなく、わたしの事が好き過ぎる夫とそれなりに穏やかで幸せな生活を営んでいた。 そんな中で、国王肝入りで魔術研究チームが組まれる事になったのだとか。そしてその編成されたチームメイトの中に、夫の別れた元妻がいて……… 相も変わらずご都合主義、ノーリアリティなお話です。 不治の誤字脱字病患者の作品です。 作中に誤字脱字が有ったら「こうかな?」と脳内変換を余儀なくさせられる恐れが多々ある事をご了承下さいませ。 性描写はありませんがそれを連想させるワードが出てくる恐れがありますので、破廉恥がお嫌いな方はご自衛下さい。 小説家になろうさんでも投稿します。

年下の彼氏には同い年の女性の方がお似合いなので、別れ話をしようと思います!

ほったげな
恋愛
私には年下の彼氏がいる。その彼氏が同い年くらいの女性と街を歩いていた。同じくらいの年の女性の方が彼には似合う。だから、私は彼に別れ話をしようと思う。

処理中です...