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もう絶対に、逃がさない
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しおりを挟む「すごい……綺麗だね」
「うん。……多分さ、百合子さんは覚えてないと思うんだけど……俺、バーで会うよりも前に、百合子さんと会ったことがあるんだよね」
「……え? 本当に?」
黒瀬くんみたいに綺麗な顔をした男の子、一度会ったら忘れることなんてなさそうだけど……。
「まぁ俺、その時はフードを目深に被ってて顔もよく見えなかっただろうし、話したのもほんの少しだったから、百合子さんが気づけないのも無理はないんだけどね」
「それって、いつのこと? 聞けば思い出せるかも」
「んー……それは、まだ内緒。もし百合子さんが思い出せたら、俺に教えてよ」
どうやら、黒瀬くんから教えてくれる気はないらしい。
「百合子さんと初めて会ったのも、星が綺麗な日だったよ」
黒瀬くんはツリーに飾られた星を見て目を細めている。私も正面にあるツリーに目を向ければ、ちかちかとまばゆい光が視界いっぱいに広がった。幻想的な光景に目を奪われる。
「……百合子さん」
名前を呼ばれて顔を横に向ければ、さっきよりもずっと近い距離に、黒瀬くんがいた。黒曜石に似た真っ黒の瞳が、私だけを映して揺らめいている。
「俺、これからもずっと、百合子さんのそばにいたいんだ。……俺と、付き合ってくれる?」
「……うん。よろしくお願いします」
笑って頷けば、直ぐに黒瀬くんの腕の中に閉じ込められた。
「やった。めちゃくちゃ嬉しい」
「……うん。私も、嬉しい」
「ふっ、珍しく百合子さんが素直だ」
「……素直だと悪い?」
「ううん。すっごく可愛い」
クスクスと笑われたことにむくれて返せば、おでこをコツンと合わせたまま「可愛い」と囁かれる。
「素直な百合子さんも、素直じゃない百合子さんも、今の照れてる顔も。全部可愛いよ」
「……も、もういいから」
恥ずかしさが限界突破しそうで黒瀬くんの胸元に顔を押し付ければ、黒瀬くんは私の耳元でクスクスと笑い続けながら、抱きしめる腕に力を込めた。
「あ。あと俺、相当重いと思うから、覚悟しておいてね?」
「……ちなみに重いっていうのは、その……どれくらい?」
「んー、そうだなぁ……とりあえず、俺以外の男とはなるべく喋ってほしくないし、笑いかけるのも嫌だし、毎日会いたいし、毎日好きって伝えたいし……」
「う、うん、まぁ……出来る限り善処はするよ」
止まりそうにない黒瀬くんの激重発言を遮って、善処するとだけ伝えておく。
「――もう絶対に、逃がさないからね」
大きな掌で頬を包まれたかと思えば、優しいキスが降ってきた。此処は人目もあるのにとか、逃げるつもりなんてないよとか、言いたいことは色々あるけど……でも、今日くらいはいいかな。
そっと瞼を閉じて、黒瀬くんに身を任せながら、その甘すぎる熱を受け入れた。
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