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女王陛下と会いました

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 その後の行程は特に問題なく、二日目、三日目と問題なく進んでいた。基本、休憩時と行き交う行商や乗合馬車がすれ違う時以外はトラムスを自由にさせていた。



 あんまり中に閉じ込めておくのもかわいそうだし、何より精神的に良くないと判断してのことだ。



 しかし、雲行きが怪しくなってきたのは、四日目のお昼を食べていた頃の事だった。



「……? 何か、地鳴りがしないか?」



 ドレンさんが、食べようとしていた串焼きを手元に戻し、聞き耳を立てる。僕達もそれにならって昼食の手を止め、耳を澄ませていると確かに地響きと、馬の嘶きが遠くからわずかに聞こえてきた。



「フィジー! 何が来ているか解るか!?」



(多分、騎馬が多数に六頭立ての馬車ですね。すごく大きな荷車を引いているみたいです)



 やってきた方向はルイア王国からだ。これは、マズイかもしれない。



「ごめん、トラムス! 急ぎ馬車に戻って鍵をかけてくれ!」



「うぐぅ……これからお昼だというのに、無粋な! 仕方ない」



 文句を言いながらも自分の立場はちゃんと解っているのだろう、トラムスは意外に機敏な動きでひょいっと馬車の中に入ると、内側から扉を閉める。それを確認した僕は、外側から鍵をかけた。



「来たわよっ!」



 外からリアが知らせてくれたので、急ぎ馬車から飛び降りて相手方を待ち受ける。



 フィジーの見立て通り、騎馬が先行してやってくる。六頭立てという超大型の馬車に引かれていたのは、荷車ではなく客車だった。しかも豪華絢爛な装飾が施されており、一目で乗っている人物が只者ではないと知れる。



 先行していた騎馬の内二騎がやってきた。馬上の一人、長いランスを持ったエルフの民族衣装を着た美女が、僕達のを順繰りに見回していき、僕と目が合うと、ふむと頷いて誰何してきた。



「貴公が噂の勇者殿かな!?」



「ええと、どんな噂かは知りませんが一応勇者です……」



 あのヌーラとか言うエルフ、本当に知らせに行ったんだな……。



「伝令の通り、黒髪に黒目、間違いなく古いにしえに伝え聞いた勇者の姿! 馬上でのご無礼を許されよ!」



「ええと、まあそう硬苦しくしなくても大丈夫ですよ」



「え、ホントに?」



 さっきまでの凛々しい喋り方はどこへやら、急に年頃の女の子の口調に変わったエルフは、にこっと笑いながらノリが一気に軽くなった言葉で話しかけてくる。



「いやあ、伝説の勇者様に会えるなんて何て運がいいのかしら!? 私達超運がいいと思わない、サテラ!?」



 すると、もう一騎の騎馬に乗っていた腰に剣を帯びたサテラと呼ばれた美女も両手を頬に当てて緩んだ顔を隠しきれないように僕を見詰めてきた。



「やぁん、可愛い子じゃないの! これはもう持って帰るしかないわね!」



 やっぱりこの人達も肉食系だ! 何なの、エルフってこんなんばっかりなの!?



 僕がエルフたちの実態に恐れおののいていると、いつも通りリアが前にガードするように立ちふさがる。と、モモまでもが一緒についてきてリアの真似をし始めた。



「マサヤは誰のものでもないんだから、勝手に持って帰らないで!」



「そうなのです! マサヤ困ってるのです!」



 二人の少女に、明らかに不快げな表情を向ける騎馬の二人。



「何、このチビ助とちんちくりんは。私の未来の旦那様との出会い邪魔しないでくれる?」



「ちょっとサテラ! 横取りしないでよ!」



「何言ってるのジェラ、早いもの勝ちよ!」



 今度はリアとモモをそっちのけで馬上で喧嘩をし始めた。ドレンさんはエルフという種族に対して、もう何が起こっても感覚が麻痺してしまったのか、一人傍観している。



 いよいよ二人の雰囲気が険悪になり始めた所で、豪奢な客車から涼やかでよく通る声が漏れ聞こえる。



「それで、そろそろ私は出ても良いのかしら?」



 その声に弾かれたように反応した二人は、ごほんと咳払いをすると、最初のように固い態度で僕達に向けて客車内の人物を紹介する。



「この中におられるのは、我が国の女王陛下――ティエル様だ! くれぐれも失礼のないようにな!」



 自分たちの方が女王そっちのけで喧嘩してたんじゃないのか、という思ったがそれは言わずにおいて、客車をエルフの騎士の一人がうやうやしく開ける。



「うふふ、初めまして、勇者様? 私がティエル・ティエラよ。よろしくね」



 中から姿を現したのは、エルフの中でも群を抜いた絶世の美女だった――。



 僕はしばらく、彼女から目を離すことが出来なかった。あれだけ張り合っていたリアとモモですら、その美貌に見惚れて言葉を失っている。



「あら、あらあら。あなたはリア・テレシーじゃないの。お久しぶりね?」



 呼びかけられたリアは、しばらく自分のことだと気付かなかったようで、ハッとするとすぐに膝を折って礼をする。



「も、申し訳ありません、女王陛下。私とお会いになったことがおありなのでしょうか……?」



 自信なさげなリアの問に、女王はコロコロと笑い声を上げた。



「無理もないわね、あなたが神託の勇者として生を受けた時に、表敬訪問をして以来だもの。人の子は成長が早いというのは本当ね、あっという間にこんなに大きくなってしまうなんて」



 まるで愛しい孫を愛でるように、ティエル女王はリアへとしずしずと近づくと、その頭を軽く撫でる。



「ふふ、そんなに緊張しなくてもいいのよ? あなたはテレシー王国の第一王女であり、勇者でもあるのだから」



「あ、ありがとうございます」



 あのリアが緊張に震えている。それほどの相手という事なのだろう。



「それで、あなたが噂の勇者かしら?」



「は、はっ! 異世界の勇者、マサヤ・カガリと申します!」



 慌ててリアの真似をして膝を折り、礼をするとまた女王は嫌味なく笑う。



「うふふ、あなたももっと気楽にしてくれていいのよ? ウチの子達みたいに気楽すぎるのは考えものだけれど」



 すっと女王がサテラとジェラの騎士二人に目を流すと、二人はだらだらと脂汗を流して顔を真っ青にしていた。



「まあでも。あなた可愛いものね、あの子達が夢中になるのも解ってしまうわ」



「きょ、恐縮です」



 そこでティエル女王はすっと僕へと手を差し伸べると、予想外な事を述べたのだった。



「さ、あなたのお馬さんは騎士に任せて、私の馬車にいらっしゃいな。もちろん、勇者リアとそちらの可愛いお嬢さんもね」



 僕達に断るなんていう選択肢があるはずがなかった。こうして、僕達はティエル女王の豪華過ぎる馬車へと案内され、車内へと誘われる。
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