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悲痛な声

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「おっ、やってきたね! 今日はよろしく!」



「はい、よろしくお願いします!」



 約束の時間に正門へと向かうと、ドレンさんが気付いて手を振ってくる。



「おや、この子も一緒に行くのかい? ……昨日、依頼の内容は話したと思ったんだけどね……」



 同行しているモモを見て、ドレンさんは事の重要性を解っていないのかと疑いの目を向けてきた。



「大丈夫ですよ、彼女は僕よりもよっぽど強いんですから」



「……! ああ、そう言えばウォーウルフを二匹丸焼きにしたんだっけね、ごめんごめん、アタシはその現場を見てなかったもんだから」



「モモもがんばるのですー!」



「ははは、そりゃ安心だ。さ、“積荷”ももう積み込んである」



 ドレンさんの言葉に、思わず馬車の中を覗き込もうとした。しかし、馬車はいつもの幌馬車が改造されているようで、荷台の半分を分ける扉が取り付けられていた。



「あの中に……」



「ああ。私も中身を見ちゃいない。ルイア王国に着くまで“絶対に開けるな”って事らしい」



 ――ん? それはマズイのではないか?



「ねえドレンさん、ルイア王国まで何日くらいかかるんですか?」



「そうだねえ、何事もなければ五日間てところだよ」



 人間、いやこの場合はエルフか。水も食料も無しでそれだけ持つモノなんだろうか?



「どうしたんだい……? ああ、そういや必要なモノは全部積み込んであるから何が聞こえても開けるなとも言われてたね」



 という事は飲水や食料も中にあるってことかな? ……まあいざとなったら、扉を破壊して救出すればいいか。



「じゃあ行こうかね。ちょっとばかし狭くなっちゃいるが、乗るのは二人だし問題無いだろう。そっちの野営準備は大丈夫なのかい?ずいぶん軽装なようだけど?」



 ドレンさんは、僕が連れきたフィジーが殆ど荷物らしいものを積んでいないのを懸念しているようだが、僕はドレンさんの耳に顔を寄せて囁いた。



「実は、余り大きな声では言えないんですけれど。リアがアイテムボックス持ってるんです」



 それを聞いたドレンさんは納得したのか、ふんふんとうなずいてにかっと笑う。



「それなら問題ないさ。それじゃ、出発しよう!」



「はいっ!」



「ええ」



「なのですー!」



 ドレンさんの掛け声に、モモとリアは馬車に乗り込み、僕はフィジーへと跨る。……思えば最近フィジーに乗るのに手間取らなくなってきたな。



「いつもありがとな、フィジー」



(……いえ、これもモモ様とマサヤ様のためですから)







「はぃよーっ!」



 街の正門を無事に出られた僕達。ドレンさんが気合の声を入れて手綱を打つ。僕もそれに合わせてフィジーの首をぽんぽんと撫でた。賢い彼女はそれだけでこちらの意図を察して、馬車と併走する。



「じゃあ今回は長い付き合いになりそうだね、アタシの事は気軽にドレンって呼んでくれて構わないよ」



「いえいえ、流石にまだ余りお互いの事知らないですし、ドレンさんと呼ばせてもらいますよ」



「そうかい? 細かい事気にする男だねえ! まあいいさ」



 それから他愛もない話しをしながら、牧歌的な街道をずっと走り続ける。



「それでね、ウチの親父ったら本当におっちょこちょいで母さんに良く叱られててさあ!」



「あはは、お母さんのお尻に敷かれてるんですね」



「そりゃもう、尻の下どころか足元にまで――」



 ゴンゴンゴン! 調子よく話していたドレンさんの言葉を止めたのは、馬車の中から聞こえてくる打撃音だった。ハッとしてドレンさんと顔を合わせる。馬車の後ろからリアとモモが顔を覗かせてやはり僕の方を見つめる。



「これが条件のウチの“何が聞こえても扉を開けるな”ってヤツかい。まさか、生き物が入ってるとはね……」



 生き物どころか、僕らの予想ではエルフの男が中にいるはずだ。



『ここからだせー!! 僕を誰だと思ってるんだーっ!!』



 ドレンさんが手綱を引いて急停車する。それに合わせて、フィジーもまた止まった。ドレンさんの顔は蒼白になっている。



「今の……聞いた、よね?」



「残念な事に、聞こえました」



 僕の同意に、ドレンさんは大きくため息をついた。



『出せったら出せーっ! もう限界なんだ!! 漏らすぞ、この中で漏らすぞ! いいのか!? いいんだな!?』



「まっ、待ちなっ!! 私の馬車で粗相なんてしたら絞め殺すからねっ!」



『なら早くここから出せ! 出せったら出せー!!』



 僕はドレンさんにアイコンタクトと取る。彼女は頷いて、僕はリア、モモと共に馬車の後部へと集まった。



「これが鍵だ……。開けたら、頼むよアンタ達」



「はい」



「わかってるわ」



「丸焼きなのです?」



「「丸焼きはダメっ!!」」



 モモの無邪気な問いかけに僕とリアの声が重なる。



「それじゃ、開けるよ」



 緊張した声音のドレンさんが、鍵を鍵穴へと差し込み、回す。と同時に素早く馬車から飛び降りた。



『はやぐ……も、もうダメ………』



「開けたぞ! 早く外でするんだ!」



『うおおおぉぉぉぉぉぉぉ!!』



 バンッ! と扉が開いて飛び出してきたのは緑髪の少年だった。仕立てのいい服を着ていたが、今は漏れる! 漏れる! と股間を押さえて駆け出し、馬車を飛び降りると草場の影に隠れると、しばらくしてシャーと出るものが出ている音が聞こえてくる。



 逃げられないように囲んではいるものの、正直リアは恥ずかしがって顔をそむけていて、モモは良く解っていないのかほあーと用を足している少年を見ている。僕はそっとモモのそばに寄ると彼女の目を塞いだ。



「ふー、すっきりした……」



 用を終えて、ごそごそと服装を直した彼は、取り囲まれている状況を見て、ビクッと肩を震わせる。



「だ、誰だお前たちはっ!?」



 そりゃこっちのセリフだよ、という突っ込みを僕はぐっと飲み込んだ。
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