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厄介な問題と再会

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 彼女の名前はドレンさん。道中で聞いていたとおりに、父親の代わりを勤めてお客を運ぶ乗り合い馬車の運行を生業にしている。彼女はいつも決まったルート、ここ最北の街から宿場町までの定期便を出していた。しかし今回特別にギルドから依頼がありルイア国へと荷を届けなければならなくなったとのこと。



「それで、その荷物ってのが極秘なもんでね? 余人の目に晒したくはないんだよ。だから最少人数での随行が必要で、しかも腕も立つ人間、そして信頼出来る。もうこれは勇者様しかいない! って藁にもすがる思いで頼みに来たわけさ」



「ほほう、ほうほう。お目が高いねお姉さん! そうよ、勇者と言えばこの私、赤い死神の勇者リアをおいて他に……もいるけれど、私超強いから! 護衛なんてらくしょ……あいたっ!?」



 いつものごとく、バカみたいに安請け合いをしようとしたリアの頭を軽くこづく。



「それほど重大な任務なら、ギルドでランクの高い冒険者を雇えばいいんじゃないですか? ぶっちゃけ僕らまだDランクですよ?」



「あ、あはは、それがちょっとばかしコレの問題があってね……」



 ドレンさんは指で小さく丸を作ると、バツが悪そうに苦笑いを浮かべる。



「えっ、ギルドから報奨金が出るでしょう?」



「それが、失敗は絶対許されないからって後払いって言われちゃってね……」



 ここのギルドはバカなのか? 失敗が許されないなら尚更のこと、警備には万全を期すべきだろう。……何か胡散臭い。



「ちょっと怪しい依頼ですね。ドレンさんはどうお考えですか?」



「正直、私もきな臭い気はしてる。“荷物”も詳細を教えられてないし、それをただルイア国へ運んでくれの一点張りで。引き受けないと定期行路の最北の街入りを潰すとまで脅されたんだ」



「何よそれっ! 脅しじゃないのっ!」



 リアの言うとおり、解りやすすぎる脅しだ。その荷物とやらも相当怪しい、これは断るべきか……。しかし、このままではドレンさんが困ってしまう事になる。悩んでいると、くいくいとモモが僕の袖を引っ張ってきた。



「どうしたんだい、モモ」



「マサヤ、受けるのです」



「えっ?」



 突然のモモの進言に、僕とリアは驚いた。こういう難しい話を理解しているようには見えないのだが……。



「どうして、受けるんだい?」



「マサヤがこの依頼を受けるときっといいことがあるのです。私の中のおとーさんがそう言ってるのです」



 ――ドラゴンが。彼女の中のあの方がそう言うのであれば、何か理由があるのだろう。リアと目を合わせる。



「私はマサヤが決めたことに従うわ」



「ありがとうリア。それでは、この依頼受けさせてもらいます」



 あれだけ依頼を受けて欲しがっていたのに、ドレンさんは申し訳無さそうな顔で驚いている。



「ええっ、いいのかい? 私が言うのもなんだけど、子どもの直感を信じたりして……」



 僕は、ドレンさんにニッコリと笑って答えた。



「彼女は僕達の幸運の天使ですから。きっと良いことがありますよ」



「ふー。いいさ、受けてくれるって言うなら願ったり叶ったりだ。それじゃあ、出発は明日の10時に正門前でいいかい? 本当はもうちょっと早めたいんだけど、荷物の用意が難しいらしくてね」



「解りました。それでは明日の朝にまた正門でお会いしましょう」



「ああ、邪魔したね。それじゃあ明日はよろしくね!」



 本心ではやはり僕達が受けていなければ相当苦しい状況だったのだろう、ドレンさんは足取りも軽く部屋を去っていった。ドアが閉められたのを確認して、僕はくるりと振り返る。



「さて、モモ。さっき言ってた事なんだけど、どういうことか説明出来る?」



 モモに問いかけると、少々難しい問題だったのか、うーうーと少し唸り込んでから、静かに目を閉じた。するとその口からモモのものとは全く違う声がつづられる。



『久しいな、人間達よ』



「あ、ど、ドラゴン様!?」



「えっ!? ドラゴン様!」



『まあそうかしこまらなくて良い。今は一時的にモモの身体を借りて話しておる』



 モモは目を閉じたまま、口からはあの方の声が聞こえてくる光景は異様だった。



『滅多に出るつもりはなかったのだが、今回のお主達の依頼とやらについて気がかりがあってな』



「えっ、それはなんですか?」



『ふむ……周囲に盗み聞きされてる様子はないな。だが念の為だ、少し寄ってはくれんか……』



 ドラゴンの言う通りに、リアと二人で耳を近づけると……。



『わっ!!!!』



「うひゃっ!?」



「ひぃっ!?」



 突如耳元でかなりの声量で驚かされたものだから、僕とリアは尻もちをついてぽかんとモモを見上げていた。



『わはは、どうだ、びっくりしたか?』



 そんなお茶目な事しとる場合かっ! 僕の横でゆらりと立ち上がったリアは、完全に目が据わっていた。



「やめろ、早まるなリア!」



 即座に背後に回り込んで羽交い締めにする。しかしリアの馬鹿力には敵わず、ずりずりと引きずられる。



「離してマサヤ、一発やらないと気がすまないわっ!!」



「身体はモモ何だぞ!? 正気に戻れ!!」



『そうだぞ、わしの可愛いモモを殴るというのか……勇者ともあろうものが』



 やれやれ、と言いたげに首を振るモモに、リアは怒髪天をついたが何しろ彼女の身体は悪くない。



「ううううううう!! マサヤのバカァッ!!」



「理不尽っ!?」



 リアのボディブローを食らって僕は床をのたうち回る。おのれドラゴン、今度お前の鱗全部剥がしてやるからな、覚えておけよ!



『まあ、お遊びはこれくらいにしておいて、本題に入ろう』



「最初っからそうすればいいんですよ」



「本当よ! 全く!」



 まだ怒り覚めやらぬリアを抑えつつ、僕達はドラゴンの話を聞く。



『本当はこの街に入った瞬間から気付いておったのだが、言うべきか迷ってしまっていてな。そこへ先程の依頼が来たものだからこれは放っておくべきではないと思ったのだ』



「御託はいいから、さっさと本題に入りなさいよ!」



『なんじゃ、ワシの声にびびっとったくせに……』



 リアと二人揃ってイラッとする。ドラゴンて本当はこんな性格だったんだな……これで良くモモがまっすぐに育ってくれたものだ。女神様に感謝するしかない。



『実は、この街にはエルフがおる』



「「はあ」」



 散々もったいぶって言いたい事がそれなのかよ!



「そりゃルイア国と国交を持っていて、人やモノの流通があるんだからエルフがいても当たり前では?」



 っていうか買い物の途中でちょくちょくエルフらしき姿を見ている。皆端正な顔立ちの女性だったが。



『そうではない。この街には“男のエルフ”がおると言っておるのだ。この意味が解るな?』



 荷物――ルイア国――極秘――。その全てがドラゴンの言葉で繋がった。もう、厄介ごとの匂いしかしない。



「つまり、私達が運ぼうとしてるのは――?」



『将来のエルフの国王かもしれん、ということじゃな』
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