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旅の準備をしよう!

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 ゾクッと背筋を駆け抜ける悪寒がした。まるでいつもの神罰の前兆のようだったが、僕はそれらしい事をしていない。



「どうしたの、マサヤ。顔色が悪いわよ」



「マサヤ、元気ないのですー?」



 二人に心配されてしまった。いかんいかん、と僕は笑顔を作って二人に謝った。



「ごめんごめん、なんでもないよ。さ、それより買い物の続きをしよう!」



「なのですー、お買い物楽しいのですー!」



 僕達は起き出してから必要なモノの買い出しをしていた。楽しそうに色んなお店に突入していく二人をなだめつつ、目的の食料品等を買い溜めていく。こういう時にリアのアイテムボックスはすごく便利だ。何しろ何でも入る上に入れている間は時間が止まっているのだから。



 まあ、高級品らしいので買ったものはこっそり物陰で入れたり、後で宿の部屋で整理しつつ入れるつもりなのだが。



 みんな両手が一杯になるほど備品(主に野営用の品等)や食料を買い溜めたので、僕達は一度宿に戻ることにした。



「じゃあ、整理しながら入れていこうか」



「「はーい」」



 素直に返事をする二人にうんうんと頷いて、僕達は各々が買ったものを床に置いていく。



「……おい、二人共」



「「な、何かな(ですー)?」」



「君達二人、食べ物しか買ってないじゃないか!?」



 驚くほど買い込んでいたのが全て食べ物とは、流石に頭を抱えたくなる。



「串焼きに、ステーキに、パン、漬物、干し肉、肉率たけぇ!!」



「いやあ、ほらお肉食べないと力出ないでしょ?」



「お肉美味しいのですー!」



 はあ、と溜息をついた。せめて僕だけでも真面目に買い物をしていて良かった。野営用のテント一式等、今までは野営の必要があったら毛布直引きで雑魚寝だったからな……。幾らクリーンの魔法があるとはいえあんまりである。



「とりあえず、買ったものは仕方がないから、消費していこう」



「「わーい」」



「まあ、正直に言って野営で暖かい料理を食べられるのは嬉しいけどね。これもリアのおかげだよ」



「それ程でもあるわね! よかったわねマサヤ、私がパートナーで!」



 ちょっと褒めたらこれだ、すぐに調子に乗る。



「だからって、モモにいらんことまで教えないことだっ!」



 いつものこめかみグリグリ攻撃をすると、すぐにリアはべそをかいて泣き始めた。



「痛い痛い! ごめんなさいごめんなさい! 次からは自重するからぁー!!」



「分かればよろしい」



 お仕置きを止めると、モモが目を見開いてガクガクと恐怖に震えていた。僕にお仕置きされると思ったのだろう。あわわわと口に両手をあてて既に涙目である。



「モモ、大丈夫だよ。モモにはこんな酷い事しないから」



「あれっ!? 酷いことって自覚あるの!? それこそ酷くないかしら!?」



 泣きべそかきながら抗議してくるリアは無視して、モモの下へと向かう。



「モモは怒らないのですー?」



「モモはちゃんと悪いことを叱られたら次からはしないだろう?」



 僕の問いかけにぶんぶんぶんと首を高速に縦に振るモモ。



「うんうん、モモはいい子だからね、よっぽど悪いことじゃないとちゃんと言って解ってもらえるって信じてるから」



「モ、モモは良い子なのです! マサヤの言うことをちゃんと聞くのです!」



「うんうん」



 頷いてモモの頭をなでてあげる。すると、へにゃーととろけるような安心しきった顔でされるがままに撫でられていた。



「おとーさんにも良く撫でられていたのですー」



「えっ!? どうやって!?」



「つばさの端っこで、こうバッサバッサと」



 豪快な育児方法だな、ドラゴン。流石は最強の種族、侮れない。



「モモばっかり甘やかしすぎじゃないかしら!? 私も甘やかして!」



 ポンコツ勇者がまた何かわめき出した。一度こうなると手がつけられないので、仕方なしに僕はリアの頭も多少乱暴ながら撫でてあげる。



「えへへー、マサヤのなでなではいいものねー」



「なのですー。マサヤ、もっと撫でて欲しいのですー」



 僕は寄ってきたモモの頭を空いている方の手で撫でくり回す。……なんだこの状態。やけに弛緩しきった空気が流れ、僕までダメになりそうだった。



 そんな空気を打ち破るように、部屋の扉がゴンゴンとノックされる。



「お客さーん、お客さんに用があるって人が来てるけど、どうするー?」



「僕らに――ですか? 入ってもらっていいですよ」



「お邪魔するよ……って、何やってんの、あんたら」



 僕らに呆れたような目を向けて来たのは、ここに来るまでの道中一緒だった御者さんだ。



「あれ? 一体どうしたんです? っていうかどうやって僕らの宿を見つけたんです?」



「あれだけの大荷物買い込んでりゃ嫌でも目立つってもんさね。人相を聞いたらすぐみんな教えてくれたよ。特に黒髪は珍しいしね」



「それで、どういったご用件で?」



 僕がちょっと警戒したのを感じ取ったのか、御者のお姉さんは例の快活な笑い声でこちらの不安を拭ってくれる。



「あはは、いきなり後をつけるような真似してごめんね。実は私の馬車の護衛を依頼したくてね。何しろ次の目的地が、ルイア王国なんだから」
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