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異世界女子は肉食系?

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「いやあ、すみませんね。てっきりお二人は恋人かなと思ってしまいまして」



「「違う(わ)よ!!」」



 これ言うの二回目だな。



 僕達はあの後、ちゃんとそれぞれの部屋に別れて思い思いの時間を過ごした。リアはどうやら街へ繰り出して子どもたちと遊んできたらしい。あれだけの魔物を狩り尽くした後だと言うのに恐ろしい体力である。一方で僕はというと、ついていくのもやっとだったので、部屋で休養をとりつつ、これからの冒険に必要そうなもののリストアップ等をしていた。



 気がつけば日は暮れ、夕食の時間となった時に丁度良くリアが帰ってきたので、そのまま食堂へと顔を出したのだ。食堂にはちらほらとお客さんがおり、宿泊はしないまでも食事だけをしに来るお客さんがいるのだと驚いたものだ。



「はーい、お待たせしました勇者様方。ご注文はどうしますか?」



 席に座ると待っていたかのようなタイミングでマールさんが姿を現した。エプロン姿なのだが、これが似合いすぎてて困る。まるで新妻に接待されてるような……等と不埒な事を考えていると、テーブルの下で足を思いっきり踏まれた。



「いつぅっ!?」



「あら? どうしたのかしら?」



「いえ、何でもないです……」



 にっこり微笑む赤い死神さんが怖くて抗議の声を封殺される。



「マサヤさん、今日のオススメはオークロースのステーキですよ!」



「え……? 今なんて……?」



「ですから、オークロースのステーキです!」



 残念ながら聞き間違えではなかったらしい。オークって、あの魔物のオークの事だよな? 人型の巨漢で、ゴブリンより強いっていうイメージのあの……。



「オークって食べられるんですか?」



「えっ!?」



 僕の質問に、マールさんが目を見開いて絶句している。そこへリアが慌てて取りなしてきた。



「こ、この人超ド田舎から出てきて、全然この辺の事詳しくないの! 常識がないから、大目に見てやって?」



「そ、そうそう。そうなんだよーあはは」



 乾いた笑いを上げながら横目でリアを睨みつけるが、リアはドヤ顔で自分のリカバリーが完璧だと信じているようだった。



「そ、そうなんですねー。マサヤさん常識に疎い……これは使える……」



「え、何か言いました?」



「いいえ? 何も言ってませんよ? それでオークのお肉っていうのはお味が良くて人気の品なんですよ」



「そうなんですか、それじゃあそのオークのステーキをお願いします」



「はいはい! 私もそれにするわ!」



「かしこまりました。では少々お待ち下さいね」



 何故かうきうきした様子のマールさんを不思議に思いながら見ていたが、気がつくと店内の客の過半数がマールさんを目で追っていた。やはりあれだけの美人、皆気になって仕方ないのだろう。



「さて、リア。明日の事なんだけど、ギルド行って魔石の買い取り金額受け取ったら、また次の依頼受けるでいいかな?」



「いいわよ!」



 即答だった。本当に考えてるのかな、この子は?



「次はどんな依頼がいいかな」



「そうねー、でもやっぱり基本はレベル上げじゃない? マサヤ、今何レベルだっけ?」



「えっと……」



 僕はギルドカードを取り出してレベルの項目を確認する。そこにはもちろん、読めない数字が書かれているのであり、非常に屈辱的だがリアに読んでもらうしか無い。



「読んでください」



「プフっ。仕方ないわねーマサヤは! 私がいないと何にも出来ないんだからフフフ!」



 ……もしかしてリアは僕を苛つかせる天才なのだろうか。



「えーっとー、マサヤは今レベル10ね。まあゴブリンばっかり狩ってたからこんなもんよねーー、あ、私? 私はレベル32よ!」



 聞いてもいないのに自分のレベルを自慢してくるリア。僕は無言で拳を胸の前まで掲げるとぐっぐっと握り具合を確かめる。それを確認したリアが、青ざめた顔で慌てて付け足した。



「ま、まあマシャヤも勇者なんだからすぐに追いつくわよ!」



 名前を噛むほどの勢いで弁明を始めたリア。仕方ないので今回は許してやることにした。次やらかしたらお仕置きである。丁度良くそこへ、器用にお皿を何枚も持ってマールさんが現れた。



「はい、ご注文のオークロースのステーキセットです!」



 パン、スープにオークロースのステーキを次々と置いていくマールさん。これを二人前持ち運んでいるのだから、彼女は優秀なウェイトレスなのだろう。



「ささ、マサヤさん。切り分けてあげますね!」



「え? あ、ありがとうございます」



 随分とサービスがいいな、と思いながらお言葉に甘えて切り分けてもらう。流石に慣れているのか、するすると綺麗に切り分けられた肉厚なステーキ。肉汁がしたたっていて、何とも言えないソースの香りが鼻を刺激する。



「これは美味しそうですね! ありがとうございます」



 喜んでナイフとフォークを受け取ろうとすると、何故かにこにこしたマールさんは手放してくれなかった。



「あ、あの?」



「はい、あーん」



 何と、マールさんは肉にフォークを突き刺すと僕の口元にまで運んできたのだ。直感的にマズイと思い、両手を広げて押しとどめる。



「ちょ、ちょっと待って下さい! それはあの、恥ずかしいというかそんなサービスあるんです「ありますよ?」か」



 マールさんがかなり食い気味ににっこりと笑っている。



「ささ、あーん」



「いや、あの」



 その時、テーブルの向かいから怒気を孕んだ声が制止した。



「ちょっと、なんで私のは切り分けてくれないわけ?」



「あ、勇者様の食べ物にお手を加えるなんて私には恐れ多くて」



「そいつも勇者なのよ!!」



 この子マジで所構わず僕の正体を暴露していかないと死んでしまう病にでもかかっているのだろうか。



「ええっ! マサヤさんも勇者様だったんですか!」



 嘘をつくわけにもいかず、仕方なしに頷いた。



「ええ、一応異世界の勇者と言われています……」



「凄い! 流石です! マサヤさん、それならますます私手ずからお食べ下さい!」



 かなり無理矢理な持ち上げ方をしてくるマールさんに抵抗をしていると、リアが爆発した。



「わたしもっ! ゆーしゃでしょうが!? 何なのこの待遇の差は!」



「いえ、ほら女の方だと私にご奉仕されても余り嬉しくないでしょう? その点マサヤさんなら喜んで頂けるかと思いまして」



「納得いかないわ!」



「さ、勇者様はとにかくどうぞマサヤさん」



 相変わらず強引に推して来るマールさんに困り果てていると、意外な所から助けが来た。



「あらあら? こんなに忙しいのに何をしているのかしら、マール?」



 びくっと笑顔のまま固まったマールさんが錆びついたロボットのような動きで後ろを振り返ると、マールさんとよく似た笑顔を浮かべつつも額に青筋を立てているメイヤさんが立っていた。



「お、お母さん、これはね……」



「あらー、口答えかしら?」



「すぐに仕事に戻ります!」



 脱兎のごとく逃げ出したマールさんに、メイヤさんはふうっとため息をついて僕の方を向いた。



「ごめんなさいね、あの子少し暴走気味だから……」



「いえ、切り分けてもらえたのは素直にありがたいですよ」



「まあ、王都にいる間だけでも仲良くしてやってくださいね、それでは私もお仕事が溜まってますからー」



 いつもののんびりメイヤさんに戻った彼女は、頭を軽く下げてごゆっくりーと奥へと消えていった。



「私のこのやり場のない怒りはどうしたらいいのっ!?」



「ご愁傷様としか言いようが……ごめんな、リア」



「ふ、ふん。それならマサヤが代わりに切り分けて、食べさせてくれたらいいわよ!」



「えぇ……」



 仕方ない、お姫様のご機嫌も取っておかないと今度は何やらかすか解らないしな……。僕は渋々彼女の肉を切り分けて、口元へと差し出した。



「はい、あーん」



「あ、あーん」



 リアはかなり緊張した様子でぷるぷる震えながら口の中へと肉を入れ、ゆっくり咀嚼そしゃくしてごくんと飲み込んだ。恥ずかしいのかうっすら顔が赤くなっている。



「い、意外と食べさせてもらうのもいいものね!」



「え、お城でも普段からさせてるんじゃないの? メイドさんとかに」



「そんな恥ずかしい真似するはずないじゃない!」



 恥ずかしいっていう自覚はあったのか。だったらさせるなよって話だけど、女の子は難しいなあ。



「まだいる?」



 念のために聞いてみると、ぶんぶんと首を横に振った。



「一口で満足したわ!」



 それから二人で黙々とステーキを平らげていく。……しかしこのオーク肉とやらは本当に美味しいな。もしかして、オークを狩ったら二重に美味しいのでは?



「マサヤ、これ美味しいわね!」



「お城の料理の方が美味しいとかないの?」



「ないわ! だって毒味とか超面倒臭いんだもの! 来た料理全部冷めてるのよ、この苦痛が解る!?」



 食について熱く語りだしたリアをなだめながら、僕は質問した。



「毒味? 過去に何か事件でもあったの?」



「ないのよ! それなのに大昔からの慣習だからって……変でしょ!?」



「うーん、まあ偉い人だしそれぐらい用心してもいいんじゃない?」



 てっきり僕が味方してくれるものと思っていたらしいリアは、正反対の意見を述べた事に不満を持ったようでぶーたれている。



「いいじゃないか、今はこんなに羽を伸ばして自由にできているんだし」



「それもそうね! んーっ、温かくて美味しい最高っ!!」



 どうやら機嫌も直ったらしく、その後は他愛もない雑談を交わしながら、料理を最後まで美味しく頂いた。
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