朱夏の日光に栄える森

琴里 美海

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第九話

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 瑞光は至る所で人々の願いを叶えていった。その結果、都の方に社まで立てられる程になった。こうなってくると本当に色々な所から願いが届くようになってくる。そして色々な所で人を殺すようになる。
 私はと言うと、色葉ちゃんの所でお世話になる事にした。元々宿も社も何も無い状態でこの国に放り込まれたようなものだから、色葉ちゃんから此処で暮らすか聞かれた時は、心から彼女に感謝した。

「そう言えば恵風って此処に来てからどのくらい経ってる?」

 ある日唐突にそんな質問をされた。

「うーん、どのくらいだっけ。」

 正直森の中から殆ど出ないし、瑞光からも何の音沙汰も無いから、完全に時間の感覚が狂っていた。だってこの森の中、季節の概念が無いから、本当に分からなくなるんだよ。

「あ、じゃあちょっと外に出てみるね。」

 私は一人外へ出た。なんて、そんな事してもどのくらい時間が経ったかは分からないんだけどね。
 外の今の季節は春だった。春は良いね、温かくなり、雪が溶け、植物も目を開き、生き物達は冬眠から目を覚ます。私は春は好きだよ。まぁ、他の季節は他の季節で良い所があるから、何だかんだ全ての季節が好きかな。
 そんな事を考えて空を見上げると、遠くの方から瑞光が飛んで来ているのが見えた。

「え。」

 瑞光一人なら人間の願いを叶える為に来たのかと思ったけど、瑞光は背にあの子と同じくらいの背丈の子供を負ぶって来た。
 訳が分からず完全に硬直していると、瑞光は私を見付けてすぐに私の前に降りて来た。

「瑞光、えっと、色々と聞きたい事があるけど、その子何?」
「いや俺様が聞きてぇよ。」

 如何やら瑞光も何も分かっていないらしい。
 私は瑞光に背負われている子供を見た。随分と珍しいと言うか、私ですら初めて見る髪色で、上の方は赤色で、下に行くにつれ、段々と橙色へと変わっていく。とても綺麗な髪をした男の子だった。そんな子が、瑞光の背で眠っている。

「この子如何したの?拾った?」
「いや、何か今朝起きたら社に居た。んで寝てた。別に外に放り出しても良かったんだけど、何かそんな気にならなかったから、恵風さんに如何したら良いか聞きに来た。」
「あ、そうなんだ。」

 まぁ兎に角、髪色からして普通じゃないのはよく分かる。
 私はその子の頭に触れた。温かい。まるで日の光の様な温かさだ。だけど、その精神の奥には、まるで瑞光と同じようなくらい物を感じる。

「この子は、人間の世界の言葉で言うなら、君の弟にあたる子だね。」
「弟ぉ?ってか神に弟も何もいるのかよ。」
「一応はね、この国の神なんか殆ど兄弟姉妹みたいなものだから。でもこの子の場合、君と同じ願いから生まれたと言う感じかな。」

 と言う事はつまり、この子も殺しの願いから生まれたと言う事になる。
 だけど不思議な物だなぁ。同じ願いでも兄と弟でこんなに見た目や妖気の性質が違うのか。
 私はその子の頭を撫でると、その子は小さく声を出して目を開いた。まだ自我も意識もはっきりしていない。如何やら今朝生まれたばかりの様だ。

「名前は考えているの?」
「何で俺様が他人の名前考えられると思うんだよ。大体俺様の名前だってテメェが付けたもんじゃねぇか。」

 うん、そうだろうけど、そうだけど、そんな喧嘩腰で言わなくても。でもあれだなぁ、この子はとても温かい。だからこう名付けよう。

暁光ぎょうこう。」
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