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第壱拾九話
しおりを挟む「継子さんって言うんですか。」
食べ物を食べたお陰か、元気の戻った女の人は、自分の事を話してくれた。
継子さんは一年程前に人探し、というより妖怪探しの為に食べに出ていたらしく、その道中追いはぎに遭って、持っていた物全て持って行かれてしまい、今にも死にそうになっていたところで、丁度私達と出くわしたらしい。
「いやぁ、アンタ等と出会えてなかったら死んでたな!」
豪快な笑い声を上げながら、継子さんは笑っている。
因みに、さっきまであった沢山の栗は、継子さんが殆ど食べちゃったので、今彩雲が食料調達しに行ってる。
「にしても、アンタこんなとこで何してんだ?一緒に居た奴も大分不思議な奴だし。何よりデカい。」
確かに紫雲は大きい。背丈約一丈は、誰がどう見ても大きい。
「私達も旅です。とは言っても、本当に宛も無い、終わりもよく分からない旅ですけど。」
「へぇ。でも、目的はあるのか?」
「一応は。」
あるけれど、それを説明しようとして私は言葉を止めた。
この世界には、確かに妖怪や神様といった者が存在するけれど、誰しもがそれを見れる訳ではなく、何なら信じない人だっている、と彩雲が少し前に教えてくれた。継子さんは妖怪を探しているのだから、信じてはくれるだろうけど、そう簡単にあの村のことぉお離しても良いのか分からない。
「ただいまー。」
そんな事で一人悩んでいると、彩雲の声が聞こえて木々の方を見た。彩雲は笑顔で手を振っていて、沢山の山菜や茸、それと栗を持っていた。
「お帰り、彩雲。」
「ただいま。あ、君は今度は全部食べないでね。」
「流石にもう全部は食えないよ。」
彩雲は私の横に腰を降ろすと、持ってきたものを焼き始めた。さっきも栗採ってたけど、彩雲は栗が好きなのかな。
「そういえばアンタにはまだ名乗ってなかったな。あたしは継子。さっきは飯食わせてくれて本当に助かった。」
「良いの良いの、女の子は助ける性分だからね。あ、己等は彩雲って言うんだ。彩る雲で彩雲。」
継子さんは彩雲の頭から足先にかけてを々見ていた。さっきも彩雲の姿は一応みていたけど、やっぱり何度も見るくらいには、特異な見た目をしているとは思う。
「星河はどんな話してたの?」
「軽くお互いの事を。継子さんは妖怪探しの旅をしてるって。」
「妖怪?何でまたそんんあのを探してるの?」
彩雲がそう問い掛けると、途端に継子さんの表情が曇った。そういえば理由を聞いてなかったけど、継子さんの表情から見て、良い理由じゃなさそうだった。自分で言っておいてなんだけど、良い理由の妖怪探しって何だろう。
暫く沈黙が続いた。如何にも気まずくて、何とか話題を変えるか何かしようかと悩んだ。だけど、一番最初に口を開いたのは継子さんだった。
「親の仇なんだ。」
「え。」
「…………」
彩雲は何も言わなかった。特に驚いたりもしていなかった。
それから、また少し黙って、そして継子さんは語り始めた。
「さっき言った一年くらい前、そのくらいに両親が殺されたんだ……」
つい先ほどまでとは打って違って、暗い表情で継子さんは教えてくれた。
それは、何の理由も無い、ただの理不尽。
それまで普通に暮らしていたのに、ある日突然、住んでいた村に現れた妖怪によって奪われた。
ぐっと、継子さんは唇を噛んでいる。本当に悔しいんだって事が見て取れた。
何て声を掛けて良いのか分からない。だから私は何も言わずに継子さんを見ていた。
「それで、見付けて如何するの?」
彩雲が突然そう言った。
「そんなの決まって……!!」
「敵討ち?なら止めときなよ。その時何も出来なかったのに、今何か出来るの?そもそも普通の人間が妖怪に敵う訳ないじゃんか。」
何か言い返そうと継子さんは言葉を発そうと口を動かしているけど、声は全く出ていない。その内唇を噛んで、俯き、黙ってしまった。
「彩雲!」
流石に今のは酷いと思う。そう言おうとしたけど、それよりも前に彩雲が口を開いた。
「星河だったら何が出来ると思う?」
そう言われてしまっては、私も黙るしかない。
何も出来ないから。
そもそも一昨日村の外に出たばかりの、世間知らずもいいところの私が、継子さんの事はおろか、殆どの事を知らない私が、一体何を発言して良いのか。
分かっていても悔しくて、私も押し黙ると、彩雲は優しく微笑んで私の頭を撫でた。
「もしも己等が普通の人間だったなら、君の気持ちなんて完全に無視して、止めろとだけ言うんだろうけど、君はとても運が良い。」
彩雲の言葉を理解出来ないのか、継子さんは訝しげな表情を浮かべながら首を傾げている。
「言ったでしょ?己等、女の子は助ける性分だって。」
「で、出来るのか?」
不安げな、でも期待の籠った、少しうるんだ瞳は、真っ直ぐに彩雲を見詰めている。
少しだけ間を空けて、彩雲は笑った。
「今、君の目の前にいるのは、正真正銘の神様なんだよ。」
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